ハーフタイム
増田剛(全日本民医連会長)
戦争をさせないために
原稿を書いている5月中旬現在、ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。私はもちろん戦争体験はありません。歴史は学びましたが、今回の事態を通して戦争について実はよく分かっていなかったということを実感しました。
跡形も無く破壊された住宅や病院、路上に横たわる無辜の市民の遺体の数々。これまで“学習”の視点で、モノクロ写真で見た「戦場」が、リアルなカラー映像で連日世界中に配信されています。一見すると、まるで映画の一場面。しかし、映し出されているのは本物の破壊であり、殺戮です。
私たちは想像力を全開にして、思考しなければなりません。日本と変わらない日常が、あっという間に残酷な戦場に変わるのです。
ラグビー界の偉人で元日本代表監督の故・大西鐵之祐氏は、自身の戦争体験からスポーツを通して強く平和を希求した方です。
8年間、戦場に身を置いた大西氏は「人も殺しましたし、捕虜をぶん殴りもしました」「いったん戦争になってしまったら人間はもうだめだということを感じました」と、講演や著書『闘争の倫理』※でその心情を明かします。
「戦争をさせないための人々の抵抗の輪を考えていかなければならない」「権力者が戦争のほうに進んでいく場合には、われわれは断固として、命をかけても(その権力者を選挙で)落として」いかねばならないと述べています。
氏の教え子でスポーツライターの藤島大さんは、自身のコラムで「昭和7年までなら止められた。昭和12年になったらもうダメだ。どんなに良心的な人間も拷問が始まったら沈黙する」という大西氏の話を紹介し、「大勢が決められる前」に立ち上がることを訴えています。
政治信条は様々でも、戦争を起こさせないことが最も重要、ということにほとんどの日本人は同意するでしょう。どうしたらそれが可能なのか? 戦争は“自衛”を理由に始まります。“抑止力”は「先制攻撃をしない」という安心の共有がなければ機能しません。
「戦争をさせないために」-。最大の保証は余計な軍備は持たないことです。これは決して絵空事ではありません。
紛争解決のために何度でも話し合う、最初の一撃を決して打たない、この約束を守りながら軍縮を進める、これらの理屈をすえて、戦後の国際社会は紆余曲折を経ながら77年間歩んできたのです。
憲法9条の理念は、まさに約束事を体現するもの。多くの国が共有したら、どんなに素晴らしい世界になるでしょうか。
戦争の方に進む権力者は選挙で落とすのです。平和に向かって前進する夏にしましょう。
※『闘争の倫理』に推薦文を書いた元サッカー日本代表監督の岡田武史氏は「『はじめに』だけでも読む価値がある」と絶賛しています
いつでも元気 2022.7 No.368