青の森 緑の海
2年ほど前、海外の若い写真家とインターネットの「インスタグラム」を通じて知り合った。ジャズサックス奏者でもある彼が撮る風景写真は、冬の静謐な雪景色、秋の透明感あふれる紅葉、夏の緑に吹く爽やかな風と、ひたすら美しく、南国に暮らす僕からしてみれば楽園のような世界だった。
インスタグラムは世界最大の写真投稿サイトで、作品を気に入ったらメッセージを送ることもできる。僕は彼の写真を楽しみにするようになったが、ふと「このごろ新しい写真を見ないなー」と、改めてプロフィルを見て気づいた。心がざわついた。彼はウクライナの人だった。
最後の投稿は2カ月ほど前。戦争が始まった頃だ。ただ実際に会ったことはない人。気にはなっても、更新されない彼のページをただ眺めるだけの日々が続いた。
先日、思い切ってメッセージ欄に書き込んでみた。「Are you OK?」。数日後、メッセージが届いた。「OK! Thank you!」。たったそれだけの言葉が、どれだけ輝いて見えただろう。
大好きな写真家、星野道夫さんにこんな言葉がある。「誰かと出会い、その人間を好きになったとき、風景は初めて広がりと深さをもってくる」。ウクライナと僕たちは、確かにつながっているのだ。
写真は、奄美の森に咲くイルカンダの花。いつか南国の森へ彼を案内できたら、と思う。
【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学の時、顔見知りのホームレス男性が同じ中学生に殺害されたことから「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、一貫して沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。2020年には写真集『神人の祝う森』を発表。人間と自然のルーツを深く見つめた内容は高い評価を受けている。
いつでも元気 2022.7 No.368