まちのチカラ
フルーツ王国で歴史にふれる
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)
甲斐の名将、武田信玄によってまちの基盤が整備された山梨県。
温泉とフルーツと絶景があり、都心からも近く人気の観光地です。
今回は特別編。
「第15回全日本民医連共同組織活動交流集会」(9月11~12日)の会場となる山梨県の魅力を紹介します。
※感染対策をしたうえで取材しています
山梨といえば桃やブドウなど果物の名産地で、ワイン造りのメッカとしても有名です。富士山や南アルプスの山々に囲まれ、歴史的な名所や豊かな自然がありながら東京都に隣接。中央自動車道やJR中央本線で都心からのアクセスも抜群です。石和温泉(笛吹市)や富士河口湖温泉郷(富士河口湖町)といった温泉地やリゾート施設も充実しています。
見所の多い山梨県ですから、とっておきのスポットも見つかるはず。今回は山梨民医連元事務局長で「峡東健康友の会」副会長の山田駒平さんに、お勧めの場所を案内してもらいました。
山田さんと待ち合わせたのは、甲府盆地や南アルプスを見渡せる高台にある勝沼ぶどう郷駅(甲州市)。「ここは大小の肥沃な扇状地で作物がよく育つ土地ですよ」と山田さん。降り注ぐ陽の光、豊かな大地の恵みを受けて育まれた果樹園に囲まれ、うっとりする美しさです。
春はピンク一色に染まる桃源郷となり、1月から5月はイチゴ、6月はサクランボ、7月は桃とスモモ、9月はブドウと1年を通じて果物が楽しめます。
「おいしいものが味わえる観光スポットは沢山ありますが、ぜひ歴史にふれる場所も訪ねてほしい」と山田さん。まずは富士山と富士五湖方面に抜ける御坂峠へ向かいました。
文豪が愛したほうとう
富士山と河口湖を一望できることから富士見三景の一つとして数えられる御坂峠に、太宰治とゆかりの深い天下茶屋(富士河口湖町)があります。太宰は1938年に井伏鱒二と天下茶屋にやって来て3カ月滞在。ここで書いた小説『富嶽百景』に、「富士には月見草がよく似合う」との有名な一節があります。
茶屋の2階には太宰が滞在していた6畳間を復元、『富嶽百景』『斜陽』『人間失格』の初版本などを展示した太宰治文学記念室があります。
1階は現在も茶屋として営業しており、文豪も愛した名物ほうとうがいただけます。ほうとうは山梨を代表する郷土料理で、小麦粉を練った平打ち麺にたっぷりの野菜を地みそでじっくりと煮込んでいます。風味豊かな汁はとろみがついてモチモチの麺とよくからみ、優しい味わいにほっとします。ぜひ食べていただきたい逸品です。
義民のあしあと
山田さんは「甲府盆地は果物の名産地として知られていますが、その歴史をたどると農民の血のにじむような苦労と闘いがあった」と語ります。寛政4年(1792年)、甲斐国内の田安領では、代官所が年貢米を入れる10升で1斗の升を11升に改造し、1割増の年貢を取り立てる増税策を強行。金田村(現在の笛吹市)の有力農民、金子重右衛門らが54カ村を代表して江戸の寺社奉行に直訴しました。
この一件は「太枡騒動」「太枡事件」と呼ばれます。当時は庶民が直接幕府に訴えることを禁じていたので、重右衛門らは逮捕され獄門(さらし首)や死罪に。江戸末期の1863年、地元の農民が重右衛門の首を盗み出し畑に埋葬しました。
笛吹市一宮町の西運寺には重右衛門の墓があります。西運寺から東に150mほど離れた場所には義民 重右衛門之碑と刻まれた石碑が。ここが重右衛門の首を埋葬した場所です。周囲の花壇は手入れがされており、今も大切に祀られています。郷土を救った義民のあしあとが残っているのです。
信玄の菩提寺 恵林寺
次にご紹介するのは、戦国武将の武田信玄の菩提寺として知られる乾徳山恵林寺。甲州市の市街地より北に鎮座し、禅寺として中世以来の威を伝えています。南の入り口に建つ総門(通称・黒門)から入り、参道を進むと見えてくるのが四脚門(赤門)、庭園を通って三解脱門(三門)があります。
三門には1582年、織田信長による焼き討ちで壮絶な最期を遂げた快川和尚の名言「心頭滅却すれば火も自ずから涼し」が掲げられています。
本堂に進むと枯山水式の庭園方丈庭園や、夢窓国師の代表的な築庭庭園として国の名勝指定を受けている恵林寺庭園があります。
「冬枯れの季節には空が開け、借景の乾徳山が庭園全体の中に溶け込むんですよ。こんな贅沢な庭園はないと、思わず拍手を送りたくなるんです」と、子どもの頃から乾徳山に親しんでいる山田さん。趣ある美しい庭園をゆったりと鑑賞するひとときが、心を落ち着かせてくれました。
このほか、フルーツ王国を満喫するなら笛吹川フルーツ公園(山梨市)を訪れてみるといいでしょう。一年を通して約50種類190品種6000本が実る果物のテーマパークで、収穫体験や料理教室などさまざまなイベントがあります。フルーツ公園から車で5分ほどの場所にはほったらかし温泉があり、露天風呂から富士山を楽しめます。おいしいものに舌鼓を打つもよし、歴史に思いを馳せるも よし、ぜひ山梨を満喫してください。
■次回は神奈川県葉山町です。
山梨県のデータ
人口
80万2500人(3月1日現在)
おすすめの特産品
桃、ブドウ、スモモ、ワイン
あわびの煮貝
アクセス
新宿駅(東京)から甲府駅まで特急で約1時間半、バスで約2時間
問い合わせ先
(公社)やまなし観光推進機構
055-231-2722
いつでも元気 2022.6 No.367