• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ 
春を奏でるヒスイと花のまち 富山県 朝日町

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

人気花見スポットのあさひ舟川「春の四重奏」(朝日町観光協会提供)

人気花見スポットのあさひ舟川「春の四重奏」(朝日町観光協会提供)

 富山県の東端に位置する朝日町。
 3000m級の山々が連なる北アルプスを背景にしたお花見スポットが注目され、たら汁やバタバタ茶など海や山の文化も残ります。
 コンパクトながらダイナミックな町を訪ねました。

感染対策をしたうえで取材しています

 東京から車で約5時間、日本海に面した朝日町に到着しました。「奇跡の農村の風景に出会えます」―。旅心を誘うこのフレーズに引かれて、県下随一のお花見スポットへ。
 見頃を迎える4月上旬から中旬にかけて、田園地帯を流れる舟川の両岸には桜とチューリップ、菜の花が1200mに渡って並んで咲き、背後には白銀の朝日岳と白馬岳が。雄大な北アルプスの残雪の白、桜のピンクとチューリップの赤、菜の花の黄色と4色が重なるあさひ舟川「春の四重奏」の景色はまさに奇跡。全国でもこの舟川でしか味わえないお花見を楽しめます。
 「昔からある景色を改めて景観とし
てアピールできたら」と、桜の時期に合わせて極早生チューリップの品種60万球と菜の花を植えたのは、町内で1軒だけとなったチューリップ球根農家チュリストやまざきの山崎修二さん。桜は1957年の河川改修の際に植えられた280本のソメイヨシノで、地域の皆さんの手で大切に管理されてきました。
 「県内にはフラワーロードなど他にも花見スポットがたくさんあります。東から西へと足を運んでもらいたい」と山崎さんは目を輝かせます。ヒバリが鳴いて春を奏でる絶景に、誰もが心躍らせることでしょう。

宝石が集う 夢の海岸

 町の東にある宮崎・境海岸、通称ヒスイ海岸は美しいエメラルドグリーンの自然海岸で、「日本の渚百選」「快水浴場百選」に選ばれています。海から打ち上がったヒスイの原石を安全に拾うことができる世界的にも珍しい海岸です。
 ヒスイ探しのポイントを教わろうと海岸前のヒスイテラスを訪ねると、「ヒスイ恵みの会」の会長でヒスイ探し名人の扇谷誠さんが迎えてくれました。
 「ヒスイにもさまざまな種類があって、グリーン系をはじめ黒や紫、白っぽいものも。光を通すのがヒスイの特徴です」と、ライトを灯します。
 いざ海岸で探し始めるも、初心者には数ある石の中からヒスイを探し出すのは至難の技。「ヒスイは、波の高い
日には波打ち際でトントントンと走るんですよ。ヒスイのあがる波の音がするんです」と扇谷さんの目にかかると、ものの数分でキラキラと輝くヒスイが次々と見つかりました。
 次に訪ねたのは、町内一美しくとろけるようなヒスイを40年前に拾ったという大むら菓子舗の大村邦夫さん。和菓子職人の大村さんは、そのヒスイとの出会いの感動をヒスイ羊かんにしました。つややかな緑色の羊かんに白く流れるような模様が入った和菓子です。
 ロマンあるヒスイ探しは、童心に帰って夢中になることができる素敵な時間です。

地元の漁師飯たら汁

 ヒスイ探しで冷えた身体にお勧めの料理があると聞き、ドライブインきんかいへ。ヒスイ海岸周辺の国道8号沿いは、大きく「たら汁」とかかれた看板を掲げる飲食店や旅館が並びます。
 たら汁はヒスイ海岸のある宮崎地区の郷土料理で、かつてスケトウダラが大量に水揚げされ、漁から帰ってくる漁師たちを浜で待っていた女房たちが暖かく迎えるために作った料理です。
 「大鍋で食べるとよりコクが出るので、みんなで食べに来てください。最後に残った汁の一番濃いところにご飯を入れて、雑炊みたいにして食べるのが漁師流ですよ」と、ドライブインきんかい店主の水島胤昭さん。
 鍋には、ぶつ切りにしたたらが頭からしっぽまで丸ごと入っています。味噌の味が染み込み、淡白で柔らかい身のおいしさが引き立ちます。ねぎやごぼうなど野菜とたらの肝の旨味が溶け込んだ濃厚な汁も絶品。ついついご飯が進みます。漁師町の歴史を感じながら、ぜひ味わってみてください。

地域の交流 バタバタ茶

 最後に町の山里の魅力を。蛭谷地区では古くからバタバタ茶を飲む習慣があり、お茶がつなぐ地域の交流を大切にしてきました。
 バタバタ茶とは、煮出した黒茶(中国伝来の茶)の汁を五郎八茶碗に入れ、2本合わせの夫婦茶筅で泡立てて飲むユニークなお茶。“バタバタ”は茶筅を慌ただしく左右に振る動作を表しています。「茶のみにござい」とお茶会をふれまわる言葉が交わされ、月命日や結婚、出産など各種集いの際に茶会を催し、親睦を深める場としています。
 「バタバタ茶を3~5杯飲みながら、2時間くらい会話を楽しんでみてください。田舎のおばちゃんたちの優しさに触れることができますよ」と語るのは、1985年から村おこし事業としてバタバタ茶の製造に取り組む朝日町商工会の平木利明さん。
 現在は蛭谷地区にあるバタバタ茶伝承館と、朝日町歴史公園内にある県下最古の江戸時代の町家旧川上家で、地元の方が集うお茶会に誰でも参加することができます。
 ゆったりのんびりと時間が流れ、山や海の魅力がギュッと詰まった朝日町。春の訪れとともに、今日も人々の出会いと交流が生まれています。

■次回は鹿児島県龍郷町です。

まちのデータ

人口
1万1293人(1月1日現在)
おすすめの特産品
バタバタ茶、灰付ワカメ、漬物
朝日産米、魚介の燻製
アクセス
東京駅から北陸新幹線と在来線で約3時間半。車で約5時間
問い合わせ先 
朝日町観光協会 0765-83-2780

いつでも元気 2022.4 No.365