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いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ 
越前がにと水仙の絨毯

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

カニの仲買人でにぎわう越前漁港

 福井県嶺北地方の西端に位置する越前町。
 越前がにや越前水仙で知られる越前海岸、織田信長一族発祥の地にある劔神社や日本六古窯の一つ越前焼など小さくとも魅力がぎゅっと詰まった町を訪ねました。

感染対策をしたうえで取材しています

 JR福井駅から車で約50分、断崖が雄々しい日本海が見えてきました。越前町といえば、冬の味覚の王様越前がにの産地。越前海岸沿いには旅館や食事処、鮮魚店がずらりと並び、シーズンの11月から3月にかけて大にぎわい。
 越前がにとは、福井県の港に水揚げされる雄のズワイガニのこと。大きい甲羅、長い脚、大きな爪が特徴です。全国のズワイガニの中でも最高級品とされ、過去には1匹80万円で落札されたことも。
 本場ならではの味を求めて、海岸沿いのかねとも水産を訪ねました。会長の中橋英機さんは「カニは茹でて食べるのが一番。食べたら分かる」と、市場で競り落としてきたばかりの生きのよい越前がにを大きな湯釜に投入。熟練の技で茹で上がったカニは透き通るような真紅に染まり、食欲をそそります。
 日本海の荒波と厳しい寒さに育てられた越前がには、甘く引き締まり繊維の一本一本までもがプリプリとして舌の上で踊ります。「せっかくのカニの味を損ねないよう酢はかけないで」とのこと。そのままでも至極の味ですが、ほぐした白い身を大きな甲羅にぎっしりと詰まったカニ味噌に投入。濃厚なコクと絡まり、これぞ越前がにの醍醐味です。

潮風を受けて咲き誇る

 越前海岸の冬の風物詩にはもう一つ、越前水仙があります。日本海の潮風に揉まれて育つ水仙は、草姿がよく香りが強いといわれ、12~02月にかけて満開に。白い可憐な花の絨毯が海岸の斜面一面に広がります。房総半島、淡路島と並ぶニホンズイセンの三大群生地であり、その面積は60~70万平方メートルと日本最大。
 町の西端、越前岬のすぐ北にある15戸の小さな梨子ヶ平集落を訪ねました。定年退職後に家業を継いだ水仙農家の滝本正美さんは、「畑の中を縦横無尽に歩いて収穫するので、足腰の強さが大事。年でもやらなあかん!という気持ちで健康を維持しています」と出荷作業に追われていました。強風や雪に耐えながら、急斜面で作業する水仙栽培は危険を伴います。近年は高齢化や獣害も課題です。
 寒い冬と日本海の荒波に耐えて可憐に咲く越前水仙の様子が県民性と一致することから、福井県の県花として長年愛され、昨年3月に国の「重要文化的景観」に選定されました。
 高台に水仙畑と遊歩道が整備された越前岬水仙ランド、海抜130mの断崖に立つ白亜の灯台越前岬灯台は、水仙の絨毯と日本海が一望できる人気スポット。凜とした佇まいと潮風に運ばれた甘い香りが、あなたを勇気づけてくれます。

素朴な越前焼

 港町のイメージが強い越前町ですが、多彩な風土と里山の伝統も魅力。町の南に位置する宮崎地区は、良質な粘土を使った越前焼が発展してきました。
 平安時代末期から続く伝統工芸品である越前焼の窯は、「日本六古窯」の一つ。釉薬を用いず、焼く時に薪の灰が溶け込む自然釉が特徴の素朴な焼き物です。鉄分が多く丈夫なため、昔から壺やかめなど暮らしの中で使われてきました。
 「自分の手でものづくりをする仕事がしたい」と、35歳で脱サラして町に移り住んだ泉直樹さん。慣れない福井弁の地でひたすら土と向き合い、工房踏青舎を構え20年以上にわたり作陶に励んでいます。
 「陶芸とは日常生活の中のささやかな夢。こんなコーヒーカップで飲んだら幸せだろうな、こんな杯を贈ったら喜んでくれるだろうな、というアイデアが浮かんできます」と、ろくろを回します。
 宮崎地区にある越前陶芸村には、博物館や資料館、直売所や後継者育成のための指導所があり、越前焼の歴史や窯元の作品に触れることができます。

織田信長ゆかりの地

 最後にご紹介するのは、戦国武将・織田信長一族発祥の地といわれる織田地区。町の中央に位置する盆地で、霧に包まれることが多い幻想的な山里です。
 盆地の中心に鎮座するのは越前二の宮 劔神社で、信長の祖先がその神官出身との伝承が。本殿の屋根には織田家の家紋「織田木瓜紋」が施されています。戦国の乱世に信長が武運を祈った劔神社は、大願成就のご利益があることから、今も県内外からの多くの参拝者で賑わいます。
 拝殿そばにはおもかる石が祀られ、願い事がかなう場合には軽々と石が持ち上がり、反対にかないづらい場合にはなかなか持ち上げられないとの言い伝えがあります。
 「娘さんに手を引かれてきたおばあさんが持ち上げてしまうことも。毎日持ち上げに来る近隣住民もいます。この石は気力が充実しているかどうかのバロメーターなんですよ」と権禰宜の朝倉正樹さん。織田家の歴史の息吹を感じつつ、信長公のご利益にあやかってみてはいかがでしょうか。
 越前町の冬は、荒々しい白波が打ち寄せる日本海に負けない活気にあふれています。越前がにはもちろん、歴史にゆかりの深い文化まで心ゆくまで味わい尽くしてください。

■次回は香川県直島町です。

まちのデータ

人口
2万611人(2021年12月1日現在)
おすすめの特産品
越前がに、越前焼、越前水仙
越前がれい
アクセス
東京から新幹線で福井駅まで約3時間半、福井駅からバスで約50分
問い合わせ先 
一般社団法人 越前町観光連盟 
0778-37-1234