終わりの見えない闘い
文・安長建児(編集部)
電話口で響く患者の悲鳴、早朝から深夜まで延々と続く業務。
コロナ禍の最前線で働く保健所職員を描いたドキュメンタリー映画「終わりの見えない闘い」が話題です。宮崎信恵監督に聞きました。
「どんなことがあっても、自宅療養者を死亡させないことを最優先で」─。
映画は冒頭から緊張感のあるシーンで始まります。第3波真っただ中の今年1月、中野区保健所(東京)の朝のミーティングで所長が呼び掛ける場面。鳴りやまない電話、対応に困惑する応援の職員、現場に出かけていく保健師と映像が続きます。
「制作のきっかけは現場の声」と宮崎監督。緊急事態宣言発令直後の昨年5月、中野区保健所の保健師が「今後の感染症対策のために保健所の実態を記録に残したい」と話しているのを関係者を通じて聞きました。
すぐに保健所に駆け付け「一般の人に知ってもらうためにも映画に」と提案。保健所設置者の区の許可や、職員に撮影を了解してもらうなど準備が整うまで1カ月半かかりました。昨年6月から撮影を始め、今年3月まで10カ月にわたり密着。8月から一般公開されました。
半端ではない業務量
保健所のコロナ対応は多岐にわたり、業務量は半端ではありません。医療機関からの感染者発生届をもとに電話で聞き取り、症状に応じて入院先を調整。行動履歴から濃厚接触者を特定し、連絡を取ります。
また、自宅療養者の体調をこまめに確認。パルスオキシメーター(血中酸素濃度計)を玄関先に届け、使い方も電話で説明します。容体が急変すれば、受け入れ先の病院を探さなければなりません。
土日、祝日関係なく業務に追われ、残業は連日深夜に及び、超過勤務の末に病欠になった職員も。高齢患者の受け入れ先を探していた保健師が、「(本来は医師が行う)延命措置に関する説明を家族にしなければならない」と語る場面は、とても胸が痛みます。
「終わりの見えない仕事を、ずっとやっている感じが一番つらい」という職員のつぶやきが、映画のタイトルになりました。
背景に保健所大幅削減
宮崎監督は撮影を通して、職員の丁寧な仕事ぶりに驚いたそうです。「自宅を訪問して、その人に何が必要なのかを暮らしの中からくみ取るのが保健師。でも、コロナ禍では電話対応にならざるを得ない。それでも相手が何を求めているのか、必死に聞き取ろうとする姿が印象的でした」。
一方で「コロナ禍は公衆衛生の最前線としての保健所の重要性と同時に、現実の体制がいかに脆弱であるかを浮き彫りにしました。背景には社会保障をなおざりにする政府の姿勢がある」と指摘します。
1990年代以降、行政改革の名のもとに、全国に852カ所あった保健所は年々削減され、2020年には469カ所と半数近くに。慢性的な人手不足をコロナ禍が襲ったのです。
「映画を通して保健所の実態をより多くの人に知ってほしい。政治家や官僚は机上で政策を立てず、現場の声をよく聞くべき」と訴えます。
映画制作費の一部は、クラウドファンディング(インターネット上の資金集め)で全国から募りました。江東健康友の会(東京都江東区)の会員でもある宮崎監督。「友の会の皆さんも協力してくださいました。本当にありがたいです」と感謝します。
「私も近くの民医連の診療所にお世話になっています。ぜひ、自主上映会を企画して民医連の職員の皆さんにも観てほしい」と呼びかけます。
宮崎信恵監督
1976年に短編教育映画「愛のかけ橋」で初監督。元ハンセン病患者の詩人の半生を描いた「風の舞」(2003年)をはじめ、数多くのドキュメンタリー映画を手掛ける。東京・江東健康友の会会員
自主上映会開催を
ホームページで上映館を随時更新中。「終わりの見えない闘い公式サイト」で検索。自主上映会を各地で広げる案内もしています。
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いつでも元気 2021.12 No.361