青の森 緑の海
12月、今年もザトウクジラが沖縄に帰って来る。北の海でクジラたちはたっぷりと栄養を蓄え、南の海へと地球スケールの旅をしてきた。近年の研究では、その移動距離は1万km近くにもなる。
沖縄へ繁殖のために帰って来るクジラは、アラスカやカムチャツカの海で大量の小魚やオキアミ(小エビ)を食べる。数頭で息を吐きながら円筒状の泡の壁をつくって獲物を囲い込み、下から大きな声を発して獲物がパニックに陥ったところを一気に丸のみにする。
この習性は視界の限られた濁った水中でも、彼らが高度に連絡を取りあっていることを示す。地域によってこうした行動は見られないこともあり、個別の学習で伝承されていると考えられている。
クジラの巨体を支える大量の獲物のさらに餌となるのが、微小なプランクトン。プランクトンは、極北の豊かな森林地帯から海へと注ぐ養分に富んだ河川水で養われる。
クジラが夏に集まる海域の水が濁っているのは、プランクトンが無数に含まれているため。人間には透明度の高い海が好まれるが、生きものにとってはそれぞれに適した環境があるのだろう。
写真は沖縄で見られるミジュンの群れ。体長10cmほどのイワシの仲間だが、この大群の胃袋を支えるものを想像すると、海の懐の深さに頭が下がる思いがする。
【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学の時、顔見知りのホームレス男性が同じ中学生に殺害されたことから「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、一貫して沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。2020年には写真集『神人の祝う森』を発表。人間と自然のルーツを深く見つめた内容は高い評価を受けている。
いつでも元気 2021.12 No.361