青の森 緑の海
写真と文 今泉真也
「緑の海」はジュゴンが食べる海草野原の色。そして沖縄を旅立ったクジラたちの食を支える、アラスカの豊饒な海の色。どちらも生命を生みだす色だ。では、「青の森」には何を想像されるだろうか。
そのヒントを、僕は大学で民俗学の仲松弥秀先生に教わった。「古来の沖縄では、死後の世界を『あお』や『おお』と表現した」という。
それは朝夕の薄暗く青い時間帯に感じる、あの気配と関係があるという。沖縄の人は樹と土の関係のように、日常の中で祖先という死者とともに生きてきた。「あお」は、死と生は一体である、という生命の本質を描きだす色のように思う。
琉球の森は、暗い。それは常緑の照葉樹が茂り、林下には何層もの植物が折り重なり、絡みあうようにして光を奪い合っているからだ。その暗さが林床の湿度を保ち菌類を養い、豊かな生態系の基本を形づくる。「暗さ」が豊かさをつくりあげている。
森が夜を迎えるころ、フクロウの仲間のコノハズクが、「コホ。コホ。」と鳴きだす。風がやみ、樹々が静かに口を開き、夜の虫たちが動きだす。視覚以外の感覚が呼び覚まされ鳥肌が立つ。そして、「これこそが森なんだ」と、尊敬と畏怖の念でいっぱいになる。
沖縄島北部、やんばるの森が世界遺産になった。目に見えるものだけにとらわれて、森の本質が失われることがないようにしなくてはならない。
【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学の時、顔見知りのホームレス男性が同じ中学生に殺害されたことから「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、一貫して沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。2020年には写真集『神人の祝う森』を発表。人間と自然のルーツを深く見つめた内容は高い評価を受けている。
いつでも元気 2021.10 No.359
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