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いつでも元気

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まちのチカラ 
夕日が映す奇跡の島

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

ローソク島に夕日が灯る奇跡の瞬間は、海上からしか見ることができない

ローソク島に夕日が灯る奇跡の瞬間は、海上からしか見ることができない

 島根県の日本海沖にある隠岐の島町は隠岐諸島最大の島にあります。
 大山隠岐国立公園に指定され雄大な海洋風景や悠久の時を刻む歴史・文化が魅力。
 心震わす奇跡の島をご紹介します。

感染対策をしたうえで取材しています

 出雲縁結び空港(島根県出雲市)から約30分のフライトで、隠岐世界ジオパーク空港に到着。隠岐の島町は島根半島の北東約80kmの海上に位置し、島後と呼ばれ隠岐諸島で一番大きな火山島です。
 隠岐諸島はユーラシア大陸と一体だった時代、島根半島と陸続きだった時代、海の底だった時代など、さまざまに変化してきました。貴重な地質資源や不思議な生態系がみられ、「ユネスコ世界ジオパーク」に認定されています。
 まずは隠岐ユネスコ世界ジオパーク推進協議会の丸田洋樹さんの案内で、島のジオサイト(見どころ)のひとつ油井の前の洲を目指しました。

隠岐のウユニ塩湖

 島の西部、油井地区の漁港で見られる前の洲は、この島で最も広い波食棚を形成しています。約2千万年前の湖の地層が、日本海の波と風による侵食を受けてできたもの。水平線に太陽が沈むころ、まるで南米の「ウユニ塩湖」のように空が水面に映し出される幻想的な光景が現れました。
 「いつ来ても同じ景色はありません。人の手が入っていない、自然のありのままの景色です。地球の活動ってすごいんだぞって、見せてくれているようですね」と丸田さん。その鏡面世界は日没とともに黄金や赤やブルーへと劇的に変わっていきます。あまりの美しさに時を忘れ、気づいたら背後から月明かりが。
 まだあまり知られていない隠れスポットですが、写真映えのする景色が撮れるとSNSで話題を呼んでいます。

ウユニ塩湖のような隠れスポット「油井の前の洲」

熱い伝統の牛突き

 町には日本最古の歴史を持つ牛突きという闘牛の伝統文化があります。1221年の承久の乱で、鎌倉幕府に敗れ隠岐へ島流しとなった後鳥羽上皇を慰めるために、島の人々が始めたのが起源とされます。
 現在は年に3回の本場所をはじめ、観光牛突きも開催。牛突きのために育てられた“突き牛”の日課である朝晩の散歩に同行できると聞き、島の南西に位置する都万地区の共同牛舎を訪ねました。
 都万牛突き保存会事務局の半田耕一さんは、突き牛1頭を大切に育てています。四股名は龍神で、黒光りして筋肉隆々の3歳です。出勤前の午前6時半、朝の散歩が始まりました。
 「昔は農耕用に飼っていた牛を突かせていましたが、今は散歩をして少しでも足腰を強くしたり餌を工夫しています。龍神はまだ本番に出たことがないので、どんな闘争心が出てくるか楽しみです」と、半田さんは期待します。田んぼ道をのっそのっそと歩きますが、途中、牛突き練習場にさしかかると急に息遣いが荒くなりました。
 本場所における勝負は、巨体の雄牛同士が激しくぶつかり合い、一方の牛が逃げ出すまで続きます。1時間以上続く大熱戦もあり、お酒やご祝儀も振る舞われて大騒ぎ。島が熱くなる島民の誇りなのです。

突き牛の朝の散歩。アスファルトの道でも歩けるよう手作りの草履を履かせて

サザエ丼 隠し味はあご

 岩礁に恵まれた島は、天然サザエの宝庫。磯に近い海底を舟の上から箱めがねでのぞき、ヤスという道具で突く独特の伝統漁法「かなぎ漁」などで獲ります。特産のサザエをふんだんに使った料理を味わおうと、島北東部の中村地区にある海鮮料理店を訪ねました。
 地元で獲れる水産物にこだわった食堂と、加工・販売の拠点さざえ村の看板メニューは「サザエ どどんが丼」。村長の佐々木雅秀さんが「サザエを好きになってほしいから、最高においしい食べ方で」と10年ほど前に考案しました。
 贅沢に隠岐サザエ2個分の切り身をとろとろの卵でとじ親子丼のよう。隠し味に使われているのは、産卵のためにやってくる旬のトビウオから作る「あご出汁」。コリコリしているけれど柔らかいサザエの食感に、上品な旨味のあご出汁が絶妙にマッチ。この磯の味に惹かれて訪れるリピーターも多いとか。ひと噛みするごとに顔がほころぶおいしさです。

ローソク島 奇跡の瞬間

 最後にご紹介するのは、町の観光の目玉ローソク島遊覧船です。島後の北西の沖合に、海面から約20mの高さでそびえ立つ奇岩ローソク島。その先端に夕日が重なる瞬間、まるで1本の巨大ローソクに火を灯したように輝く姿を遊覧船から眺めるという人気ツアーです。
 漁船「潮路丸」に乗り、心地よい夕方の潮風を切って出航です。断崖や白い火山岩などスケールの大きな風景が展開し、いよいよ見えてきたローソク島。見る角度によっては根元が侵食され今にも倒れそうで、そこに立っているだけでも奇跡です。
 季節や海上の状態、天候などあらゆる条件がそろい夕日が灯る瞬間を狙って、ベテラン船長の佃諭さんが何度も舵を切り微調整して、ベストショットを撮らせてくれます。その一瞬の感動は、心にも火を灯し一生の思い出となるでしょう。
 “心打たれる日がある”隠岐の島町。日本海の秘境には、大自然が織りなす圧巻の景色と人々の人情がありました。

■次回は山梨県忍野村です。

まちのデータ

人口
1万3763人(6月末現在)
おすすめの特産品
サザエ、藻塩、あご(トビウオ)
地酒、隠岐そば
アクセス
飛行機で大阪伊丹空港から約1時間
出雲縁結び空港から約30分
高速船では七類港(島根)、境港(鳥取)から約1時間
問い合わせ先
隠岐の島町観光協会 08512-2-0787

いつでも元気 2021.9 No.358