コロナ禍のもとでの支えあい(上)
文・新井健治(編集部)
コロナ禍で人と人のつながりが断たれて1年以上。
感染症による直接的な健康被害とともに外出自粛などによる心身機能の低下といった間接的な健康被害が広がっている。
人との交流が健康に及ぼす影響とは何か。
コロナ禍における新たな支えあいとは。
高齢者の社会参加と健康の関係を研究してきた千葉大学の近藤克則教授に、2回にわたり聞いた。
コロナ禍で共同組織(友の会員や医療生協組合員)の班会やサークルが中止になったり、健康祭りなど各種行事が規模を縮小して開催せざるを得なくなった。
近藤克則教授は「特に私が心配しているのは、高齢者が社会的に孤立することによる間接的な健康被害。人との交流や社会参加の機会を失って孤立すると、うつの発症や、フレイル(心身の衰え)、認知症の進行などが増えることです」と指摘する。
愛知民医連が今年2月に発表したアンケート調査(事業所の利用者918人が回答)では、新型コロナの影響として「外出が減った」43・8%、「運動不足・体力が落ちた」28・7%、「ストレスを感じる」24・7%という結果に。「もの忘れが増えた」という回答も8・8%あった。
もちろん感染症を予防するため、三密を避けるといった行動は重要だ。だが、人との交流が減ることで、コロナの患者数以上に多くの健康被害が生じている可能性がある。
認知症が1・45倍に
なぜ、人と人がふれあうことは大切なのか。
近藤教授を中心にした研究グループ「JAGES」※(日本老年学的評価研究)は、20年前から全国の高齢者の生活実態と健康との関係を調査してきた(2019年は64市町村、約25万人)。
調査によると、高齢者の「外出」「歩行」「友人と会う」「運動・趣味の会などに参加する」といった行動が、要介護リスクや認知症の発症、うつ状態、フレイルの進行を抑制することが分かってきた。
例えば同居人以外の他者との交流が「毎日頻繁」にある高齢者に比べ、「月に1回未満」になると要介護2以上が1・37倍、認知症は1・45倍増えたという。
近藤教授は日本における健康格差研究の第一人者。研究によって遺伝や生活習慣だけでなく、所得や学歴といった社会的要因が健康に大きく影響を与えることは広く知られるようになった。JAGESはさらに、社会参加も健康を左右することをデータで実証した(以下、データはいずれもJAGESの調査から)。
コロナ禍で体操サークルがなくなり、一人で運動している人も多いかもしれない。同じ運動でも、一人より仲間と行った方が介護予防の効果が大きい。「同じ週1回以上の運動でも、グループの参加者に比べ非参加者では要介護リスクが1・29倍高くなります」と近藤教授は指摘する(グラフ1)。
うつのリスクが7分の1
私たちは経験上、笑うことが健康に良いことは何となく感じているが、こちらもデータで実証された。笑いの頻度が「ほぼ毎日」を1とすれば、「ほとんどない」という人で心疾患のリスクが1・21倍、脳卒中は1・6倍に跳ね上がる。
近藤教授は「一人で笑う人はあまりいません。人は集団の中の何気ない会話やしぐさで笑うもの。笑いといった観点からも、集団が健康に与える影響が見えてきます」と話す。
他にも驚くべき調査結果がある。役割を持って社会参加する男性がうつ傾向になる割合は、同じ社会参加をしていても何も役割を持っていない人に比べ7分の1に抑えられるという(グラフ2)。
共同組織や町会の役員といった何らかの役割を持つことが生きがいにつながり、心の健康にも深く関わっている。活動の自粛により、こうした組織の中で果たしてきた役割も奪われた。
多くのデータが人との交流の重要性を物語る。「人と人がふれあう」「集団の中で活動する」ということ自体が、私たちが想像する以上に大きな影響を心身に及ぼしている。コロナ禍の今だからこそ、感染予防に注意しながら行う交流の場が求められており、共同組織の役割はますます大きくなっている。
では、コロナ禍でもできることは何か。共同組織がつくる新たな活動とは。次号で考えたい。
※JAGES
(日本老年学的評価研究)
Japan Gerontological Evaluation Studyの略。日本最大級の高齢者調査。1999年に愛知県の2市町で調査を始め、2010年から全国の市町村に対象を拡大した。近藤教授をリーダーに大学教授や医師、理学療法士、栄養士など50人以上が研究に関わる
いつでも元気 2021.7 No.356