• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

いつでも元気

いつでも元気

いのちと人権を守る選択を

聞き手・武田 力(編集部)

 間近に迫った総選挙。
 コロナ禍で明らかになった諸問題を解決し、いのちと人権を守る政治へ切りかえるには?
 中瀬奈都子弁護士(神奈川・川崎合同法律事務所)に聞きました。

中瀬 奈都子
(なかせ・なつこ)
2011年12月、弁護士登録。神奈川・川崎合同法律事務所に所属。自由法曹団神奈川支部事務局次長、川崎医療生協(神奈川民医連)監事など。共著に『あなたの福島原発訴訟』(かもがわ出版)『いまこそ知りたい!みんなでまなぶ日本国憲法(全3巻セット)』(ポプラ社)

 私は昨年から、川崎医療生協(神奈川民医連)の監事を務めています。コロナ禍のもと、医療・介護従事者の皆さんが、いのちを守るために奮闘する姿に尊敬の念を強くしています。
 一方で政府はこの1年余り、一体何をしてきたのでしょう。医療や検査の体制が十分に整わないために、入院できずに亡くなる患者さんが出ています。ワクチン接種率は世界から大きく立ち遅れ、希望者全員に行き渡る見通しも立っていません。
 オリンピックやGo Toキャンペーンにしがみつき、いのちよりも経済を優先するかのような姿勢が、救えるいのちも救えない事態を生んでいます。

人権制約は最後の手段

 政府の感染拡大防止策は、あまりにお粗末です。緊急事態宣言下で、規模に関係なく一律に休業を迫る一方で、それに見合った十分な補償はしない。休業を強制するのは生活の糧を奪うものであり、人権制約は最後の手段です。保健所やPCR検査体制の構築など、先にやるべきことがあります。
 どさくさにまぎれて、憲法に「緊急事態条項」を加えようという動きが出ています。政府に強い権限を与えて、災害や感染症などに迅速に対応できるようにすべきとの主張です。しかし、昨年3月の全国一斉休校やアベノマスクといった安倍政権の独断措置が、かえって混乱を招いたことは記憶に新しいでしょう。いのちや人権を軽んじる政権に権力を集中させれば、権力濫用の危険性が極めて高いと言わざるを得ません。

主権者は私たち

 菅政権発足直後に日本学術会議の任命拒否問題が起こりました。今の政権は基本的に説明責任を果たさず、何でも隠そうとしますよね。そのような態度や政治のありようが民主主義を傷つけ、国民の信頼を損ねています。それはコロナ対策にもマイナスです。
 議員は選挙で選ばれますが、私たちは白紙委任したわけではありません。国民の声に真摯に耳を傾けながら、国会で議論を深めるのが大前提です。それは民主主義の基本であり、主権者は私たち国民です。
 私は福島原発訴訟(生業訴訟)に携わっていますが、被害者・国民の声を聞かない政府に憤っています。原発事故を総括して、被害者に賠償すべきですし、脱原発を望む8割の世論を真摯に受け止めるべきです。

総選挙をきっかけに

 今年の秋までには総選挙が行われます。今までの政治を総括して、いのちと人権を守る流れを強くする大きなチャンスです。コロナ禍で浮き彫りになった問題が、次の展望を切り開くためのヒントも与えてくれています。
 例えば、コロナ禍はまったく予見できなかったかといえば、そんなことはありません。周期的に感染症の流行が起こることは以前から指摘されており、医療や保健所の体制を整備しておくのは政治の責任です。この間の政府の新自由主義路線によって、感染症病床や保健所が激減するなど、むしろ医療・公衆衛生体制は劇的に弱体化させられました。
 コロナ禍はまた、社会的弱者にいっそう重くのしかかりました。女性の貧困がクローズアップされ、フードバンクや生理用品の配布も取り組まれていますが、本質的には不安定雇用の問題です。
 働く女性の約6割は非正規雇用で、男性の約3倍。これは政治の力で解決すべき問題です。コロナ禍は自己責任論の誤りを明らかにして、医療や労働、社会保障などいのちを守る制度の充実こそ必要だと教えています。

憲法を生かして

 民医連職員の皆さんは、患者さんや利用者さんの困難に日々直面していると思います。皆さんの活動そのものが憲法25条の生存権を守る取り組みです。私も弁護士として、人生に寄り添う仕事を一緒に頑張っていけたらと思います。
 政治に対して声をあげるのはハードルが高いという方は、本当に小さなことからでいい。共感した意見や記事をツイッターでリツイートしたり、フェイスブックで「いいね!」を押したり。最近はネット署名もありますよね。
 憲法が保障する個人の尊厳が守られ、みんなが自分らしく健康に生きていけるように、一緒に力を合わせましょう。

総選挙 衆院議員(定数465人)全員を選ぶための選挙。現在の衆院議員の任期は今年10月までのため、それまでに必ず総選挙が行われる。候補者名で投票する小選挙区(289人)と、政党名で投票する比例代表(全国11ブロック176人)があり、選挙後の特別国会で内閣総理大臣が指名されることから、政権選択の機会と位置づけられる。

いつでも元気 2021.7 No.356