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いつでも元気

いつでも元気

けんこう教室 
嚥下障害

長野・健和会病院
健和会総合リハビリテーション
センター長
福村 直毅

Q1 嚥下障害とは何ですか

 「嚥下」とは、水や食べ物をのどの奥へ飲み込み、食道から胃へ送り込む動作です。この機能がうまく働かない「嚥下障害」になると、水や食べ物が肺に落ちていく誤嚥を生じます(資料1)。

 誤嚥は、肺炎や窒息、栄養障害、認知症、虚弱、免疫力低下などさまざまな病気を引き起こし、命を失ったり生活が脅かされる大きな原因です。実は日本では、肺炎と窒息で亡くなる方が世界一多いのです(資料2)。

 

Q2 嚥下障害にはどんな症状がありますか

 むせがよく知られていますね。肺のほうへ異物が入ろうとすると、反射的に外へ排出しようとしてむせが起こります。
 ただし嚥下障害が進むと反射機能低下のため、むせなくなってきます。むせていたのが何もしていないのにむせなくなった時は、悪化した可能性があるので気をつけましょう。
 他にガラガラ声やのどに異物が残った感覚、食事量が少ない、食事時間が長い、発熱、夜に咳で目が覚めるなどがあります。

Q3 どのように診断するのですか

 嚥下障害は、外から見えないところで起きている原因を突きとめなければなりません。のどの形や動きを分析するには、かなりの熟練を要します。
 診察時は問診と呼吸音、発声などの身体所見から嚥下障害を推定します。エキスパートになると、呼吸の音だけでもある程度判断できます。
 より詳しく調べるために、嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)で飲み込みの様子を確認することもあります。検査を通して、どうすれば安全に飲食できるのかを見きわめます。

Q4 どんな治療を受けるのですか

 一番重要なのは安全に十分食べられる方法を見つけ出して、日常生活に取り入れて継続することです。安全に十分食べるのが最良の訓練と言われており、それだけでも回復することが多いのです。
 具体的な方法として、(1)食事の工夫、(2)姿勢の工夫、(3)食べ方の工夫があります。
 食事はとろっとしたペースト食、姿勢はベッドやソファーで横になる「完全側臥位法」(資料3)でうまくいくことが多いです。完全側臥位法は私たちが発見して、2012年に報告した新しい方法です。食べ方は斜め下を向いて食べると食べやすいです。
 回復のための特殊な訓練として、例えばのどと食道の間が狭くなってしまった方では、特殊な風船で広げる方法(バルーン拡張法)があります。
 かなり重症になると、すぐには十分な量を食べられません。この場合は点滴や経鼻経管栄養、胃瘻(お腹から胃にバイパスを作る)などで、しっかり栄養を摂って体力を回復させます。いったん胃瘻を作っても、適切な治療を続ければ半分以上の方が口から十分食べられるようになります。
 回復が困難と判断されると、手術を検討します。気管切開、誤嚥防止術、嚥下機能改善術などがあります。

Q5 個人でできる対策や気をつけるべきことはありますか

 むせ始めたときに、最初にやっていただきたいのが食べる姿勢の工夫です。背中側にもたれた姿勢は一見楽そうですが、肺に食べ物が入りやすい危険な姿勢です(資料4左)。前かがみで食べるのが簡単な対策です(資料4右)。
 それでもむせる場合は、薬局で「とろみ剤」を購入して使ってみてください。とろみ剤はどんどん性能が上がっていて、塊にならず味に影響しにくいようにできています。片栗粉で代用するのは、唾液で溶けてしまって効果が安定しないのでお勧めしません。
 夜に咳が出る場合、唾液を誤嚥していることがあります。枕を低くしたり、側臥位で寝るといった対応で咳が出にくくなることがあります。
 嚥下障害は痩せると悪化します。日本では中年以降体重が減る人も多いですが、やや太めを維持するほうが長生きだと分かっています(資料5)。予防でも治療でも、まずは痩せないことが大事です。
 また体力を落とさないために、ゆっくり立ち上がりゆっくり座る「立ち上がり訓練」なども有効です。

Q6「実は知られていない…」というポイントがあればぜひ教えてください

 嚥下障害で問題が起きやすいのは次の3つの時期です。食べ方を習得する5歳くらいまでと、疾患や栄養障害によって急激に口腔機能が落ちた時、慣れている食べ方が通用しなくなる免疫機能低下の時です。
 嚥下障害のなりやすさには個人差があります。特に喉頭蓋(肺の入り口を守る壁)の形は生まれつきの影響が大きいです。飲み込み方は細かく見ると個人差がたくさんありますが、それぞれののどの能力に合わせて安全な食べ方を習得しています。
 嚥下障害の治療はまだ日が浅いジャンルなので、医療機関ごとに対応できる範囲が大きく異なります。大学病院は手術治療に長けていることが多いですが、一般的な嚥下障害には疎いことがあります。命に関わる重要な問題ですので、納得いく説明が得られなければ躊躇せずにセカンドオピニオンをお願いしてみてください。

完全側臥位法とは

嚥下の機能が低下すると、飲み込んでものどに食べ物が残り、それが肺に落ちてしまいます。完全側臥位法では、のどの横にスペースができて、飲み込みきれずに残った食べ物を安全に保持しておくことができます。
従来の常識をくつがえすような方法ですが、臨床の現場で効果が実証されています。

いつでも元気 2021.7 No.356