お金をかけない健康法
「コロナ太りです」―コロナ禍の診療において、患者さんからよく耳にする。外出自粛で運動する機会が減り、一方で口寂しくて間食が増えているようだ。
元看護師のAさん(60代女性)。毎回のように「コロナ太りだわ。5kgも増えて」と自嘲気味。7年前に病院を早期退職し、持病の高血圧・脂質異常症で当院へ通院。躁うつ病などで精神科クリニックにも通っている。
「運動しているのよ。その努力は認めてね」。朝1時間の散歩と、買い物も歩いて行く。栄養指導も予約。後日、栄養師さんの記録を見ると「から揚げやフライが好きで、毎日ビール続き」と書いてあった。
もの忘れ外来に通院するBさん(70代男性)は元工場長。「若い頃は仕事で歩きっぱなし。(運動や散歩で)歩く気がしない」が口癖である。
コロナの外出自粛に加え、「菓子パンが実に美味しくて」と半年で体重が8kg増加。夏に「この暑さでは歩けるわけがない」と話していたので「涼しくなったら歩こう」と勧めるが、秋には「若い頃から仕事が大変だった」とグチる。妻は「いつも同じね」と冷めている。認知症もあるので、それ以上は迫らない。
Bさんは4年前、交通違反後の認知症テストで不合格だったため運転免許証を自主返納したが、それを勧めた妻への恨みも残る。幸いなことに、「長谷川式認知症スケール」※は2年近く18点を維持している。
糖尿病・高血圧で通院するCさん(60代女性)は、3年前にがん末期の夫を自宅で看取った。訪問診療でお伺いした当時、笑顔の振る舞いが印象的な方だった。
夫を見送ったあと食事が乱れ、血糖値が悪化。そこにコロナ禍である。体重が10kg増え、血糖値のコントロールに難渋している。入院を勧めるも拒否され、糖尿病専門医への受診も嫌がる。
インスリン増量を繰り返すが、改善が見られない。しかし視力が低下してきたため、Cさんは白内障の手術を受けるべく、体重減少と血糖値安定を目指して必死に努力中である。
※長谷川式認知症スケール
精神科医の長谷川和夫氏が開発。30点満点で20点以下は認知症の疑いが高いと言われる
大場敏明
おおば・としあき
1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒、内科医。船橋二和病院、東葛病院、みさと協立病院などを経て、クリニックふれあい早稲田(埼玉県三郷市)院長。著書に『ともに歩む認知症医療とケア』(現代書林)、『ドクター大場の未病対策Q&A』(幻冬舎)、『かかりつけ医による「もの忘れ外来」のすすめ』(現代書林)
いつでも元気 2021.7 No.356
- 記事関連ワード
- お金をかけない健康法大場敏明