まちのチカラ
マンボウと熊野古道のまち
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)
三重県の南部に位置する紀北町。
前面にはリアス式海岸、背後には大台山系が連なる自然豊かな町です。
世界遺産「熊野古道」をはじめ、漁師町の温かな人の営みが魅力。
熊野灘の恵みあふれる美しいまちを訪ねました。
※感染対策をしたうえで取材しています
紀勢自動車道海山ICを降りて約5分、道の駅 海山に駐車して国道42号沿いの登り口から熊野古道へ。森の中は昔にタイムスリップしたかのような神秘的な石畳の古道が続いています。
紀北町は世界遺産紀伊山地の霊場と参詣道として、2004年に登録された熊野古道の5つの峠を有します。なかでも馬越峠は美しい石畳が特徴で人気のコース。
馬越峠は天狗倉山と便石山の間に位置し、ヒノキの美林とシダに囲まれて、約2kmにわたり苔むした石畳が良好に保存されています。江戸時代に伊勢神宮へのお参りを済ませた旅人が、熊野三山を目指して通った道です。
「世界遺産になってから17年の間に、高速道路が通ってアクセスしやすくなったり道の看板も整備されて歩きやすくなりましたので、ぜひ来てほしいですね」と熊野古道語り部の西尾寛明さん。頂上には茶屋跡があり、尾鷲市街と山々の絶景が迎えてくれました。当時の旅人たちも、ここで疲れを癒やしたのでしょう。
迷路のような細い路地
朝7時、三重県下有数の水揚げを誇る長島港魚市場は活気に溢れています。カツオや伊勢エビ、ブリなど熊野灘の黒潮が育てた鮮魚が水揚げされ、入札(札入れ)という方法で競りが始まります。
昔から漁業や海産商、また風待ち港(帆船時代に順風を待った港)として栄えてきました。長島港や江の浦湾の周辺は、今も昔ながらの漁師町の風情を色濃く残す魚まちと呼ばれています。隣どうしの壁が共通の作りになっていて、家々が連なるように建っています。
まるで迷路のような、地元では“合い”と呼ばれる細い路地を案内してくれたのは古道魚まち歩観会の植田芳男さん。長島弁の「あるかんかい?」という言葉が由来で、暮らしに息づく文化の紹介を交えてボランティアガイドをしています。
「漁船が大漁旗を掲げて帰ってくることもあるんですよ」と植田さんが指さす先には、刺し網漁船やまき網漁船、カツオ一本釣り漁船などさまざまな船の姿があり、大海を目指す魚まちのロマンが広がっていました。
マンボウがシンボル
次は食べておいしい町の魚介類の紹介です。地元住民の信頼を得るスーパー長島ショッピーの鮮魚コーナーを訪ねると、長島港でその日揚がった魚およそ20種がずらり。
新鮮なまま食べてもらおうと、なるべく切り身にせず血抜きをしただけの姿で並ぶので、まるで水族館のようなショーケース。カツオやアオリイカなど定番の魚から、メイチダイやマンボウなど珍しい魚介類に出会えます。
町では昔からマンボウを食べる習慣があり、湯引きして酢味噌で和えるのが定番。味は淡白ですが、コラーゲンと水分をたっぷりと含んでいるため、寒天のような弾力とやわらかい鶏肉のような食感があります。
道の駅 紀伊長島マンボウではマンボウフライ定食が観光客に人気で、土・日・祝日限定の屋台ではマンボウの串焼きも登場。マンボウ特有のぷりっとした食感をぜひご賞味ください。
巨大燈籠と花火
町には、船だんじりや関船祭りといった漁師町ならではの豊漁や海上安全を祈願するお祭りが数多くあります。
なかでも海上に浮かべた巨大燈籠と花火が競演するきほく燈籠祭は、東紀州の夏の風物詩。地元有志が半年以上かけて制作する10mを超える巨大燈籠は、海上を雄大に進むことから「海のねぶた」とも呼ばれています。
残念ながら今年も新型コロナの影響で中止が決定しましたが、「ここでしかできない、今までにないことをやろうと、毎年趣向を凝らして地域みんなで作り上げています。コロナが収束したら復活させて、地元の人もよそから来る人も喜ばせたいです」と、実行委員長の東征彦さんは熱い想いを抱き続けます。
長島港の地形を活かした名物花火彩雲孔雀が夜空を埋め尽くし、大迫力の巨大燈籠が海上に現れる日が今から待ち遠しいですね! 今年は誌上で、夏の夜空をお楽しみください。ワイドなスターマイン(連発花火)の爆音が、心の中で聞こえてくるかのようです。
■次回は徳島県美波町です。
まちのデータ
人口
1万5224人(3月1日現在)
おすすめの特産品
ひろめ(海藻)、さんま寿司
からすみ、かます、牡蠣
アクセス
名古屋から車で約2時間
JRワイドビュー南紀で約2時間
問い合わせ先
一般社団法人 紀北町観光協会
0597-46-3555
いつでも元気 2021.7 No.356