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いつでも元気

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まちのチカラ 
漆の輝きと滝のまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

轟々と水音を立て白糸のように流れ落ちる「袋田の滝」(大子町提供)

轟々と水音を立て白糸のように流れ落ちる「袋田の滝」(大子町提供)

 茨城県の最北端に位置する大子町。
 国名勝「袋田の滝」は茨城県が誇る観光名所です。
 凍みこんにゃくや奥久慈茶、大子漆など、奥久慈の気候風土が育む恵みの数々を巡りました。

感染対策をしたうえで取材しています

 常磐自動車道那珂インターチェンジから車で約1時間、静かな山間の大子町に到着しました。茨城県の最高峰、八溝山(1022m)を有し、その麓を源とした久慈川が町の中心を悠々と流れます。
 大子町といえば、日本を代表する3つの滝のひとつ袋田の滝が有名です。高さ120m、幅73m、大岩壁を四段に落下することから別名「四度の滝」とも呼ばれている巨大な滝です。
 袋田の滝を見るにはまず、土産物屋の立ち並ぶ入り口から、長さ276mのトンネルに入ります。夏でもひんやりとしたトンネルを抜け、観瀑台から目前の大瀑布とご対面。あまりの大迫力に思わず感嘆の声を上げてしまいます。
 夏はダイナミックな水しぶきが気持ちよく、秋は紅葉、冬は氷瀑、春は芽吹きの新緑と表情を変えるのも魅力。その昔、この地を訪れた西行法師が「この滝は四季に一度ずつ来て見なければ、真の風趣は味わえない」と絶賛したとの言い伝えも。一度見たら忘れられない、季節を変えて再訪したくなる袋田の滝で、ぜひリフレッシュを!

奥久慈茶の香り

 5月になると、町は新緑まぶしい茶摘みの時期を迎えます。八溝山に近い町北部の山間の畑で、400年も前から栽培されている奥久慈茶。その始まりは、地元の僧侶たちが京都・宇治から持ち帰った茶の実を畑にまき、育てたことからと言われています。冬は寒さが厳しく、夏は昼夜の寒暖差が大きい気象条件から、茶葉は肉厚で濃厚。香りが高く、カテキンや旨みを高めるテアニンがたっぷり含まれているのが特徴です。
 奥久慈茶の里公園で手もみ茶体験の指導をする石井志受さんは、「手の中で茶葉をくりくり回して、芯から乾燥するようにもむと美味しくなるんですよ」と、熱くなった和紙の上で丁寧に茶葉をもみます。
 「お茶は1煎目は60℃くらいのぬるま湯で淹れると甘みが出ます。2煎目、3煎目は徐々に湯温を上げ、味が変化していくのも奥久慈茶の魅力ですよ」と、同公園の菊池富雄理事長がお茶を淹れてくれました。急須から出た淹れたてのお茶の香りに、心がなごみます。

幻の保存食 凍みこんにゃく

 町は古くからこんにゃくの産地でもあります。その気候風土を活かして作られた凍みこんにゃくは、50年は持つといわれる保存食。12月から2月の厳寒期に藁を敷いてこんにゃくを並べ、凍結と乾燥を繰り返して作ります。全国で茨城県に3社しかない生産者の一社、株式会社クリタを訪ねました。
 「最初は『こんなに大変なことを引き受けてどうするんだ』と父親に言われましたが、絶やしてはいけないと思ったんです」と、代表の栗田晋一さんは約30年前を振り返ります。
 栗田さんはもともと、日本で最後の凍みこんにゃく職人と呼ばれた菊池銀三郎さんから、こんにゃくを仕入れ販売していました。ところが菊池さんから「もう歳だから止める」と告げられます。卸先には「凍みこんにゃくがなくなったら、米沢の郷土料理『冷や汁』が作れなくなってしまう」と言われ、菊池さんから秘伝の作り方と道具を受け継ぎました。
 真冬の氷点下で一枚一枚並べるなど、ほとんどの工程が根気のいる手作業で貴重な食材です。「どういう食感なの?とよく聞かれますが、この独特の感触は言葉では説明できないんですよ」と栗田さん。
 和洋中どんな料理にも合いますが、町では煮しめのフライで食べます。食物繊維がぎゅっと詰まって噛み応えがあり、だしがよく染み込んで噛めば噛むほど味が出る。今までにない独特の食感は癖になります。ぜひ一度ご賞味ください!

うるわしき大子漆

 町は日本を代表する漆の産地としても知られています。大子漆は透明度が高く輝きがある最高品質で、輪島塗など高級漆器や国宝、重要文化財の修復にも使われています。
 大子漆保存会の益子玉江会長が案内してくれたのは、自宅近くの森約3ヘクタールを開墾して漆の苗を植栽したうるしの森。木から漆が採取できるようになるまで10年ほどかかります。
 成長した漆の木に「辺」と呼ばれる傷をつけ、その掻き口から出る白い液を採取します。漆掻きは6月から10月頃まで行われ、真夏の暑い盛りに採れる「盛辺」が光沢が良く上質と言われています。漆液を採取し尽くした木は、11月に根元から伐採します。
 「うちの孫たちは、『ばあちゃんの器は綺麗だね。何でもこの器で食べた方がおいしく感じる』って言うんですよ」と、益子さんは漆掻きの合間に作品作りにも励みます。漆を塗った木のぬくもりを、高級品と言わず日常生活の中で手に取って使ってみてください。
 ほかにも、町には大子温泉、袋田温泉、月居温泉の3つの温泉地があります。町の中心地にある大子温泉の湯元・旅館本田屋の女将・鈴木和子さんは、生まれも育ちも大子町。町を愛し90歳になった今も現役で“成せば成る。成さねば成らぬ何事も。継続は力なり”がモットー。
 「自然豊かな大子町の観光発展に尽くしたい。記憶に残る旅をしてほしいのでいつも全力でサービスしています」と、観光客を暖かく迎えてくれます。

■次回は福岡県新宮町です。

まちのデータ

人口
1万6178人(3月1日現在)
おすすめの特産品
米、奥久慈茶、こんにゃく
奥久慈しゃも、花豆、大子漆など
アクセス
東京から車で約2時間
電車は上野駅からJR常磐線特急
水戸駅経由で約2時間30分
問い合わせ先
大子町観光商工課
0295-72-1138

いつでも元気 2021.5 No.354