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いつでも元気

いつでも元気

知られざる軍事大国化(下)

片岡伸行(記者)

 2015年に成立した安全保障関連法によって、日本が「他国の戦争に参加できる国」になって6年。
 前号では「進む軍事研究」の現状を紹介したが、菅政権によって武器の開発と輸出も本格化する。そして、その先にあるのは米軍と一体になった戦争への参加だ。

世界第5位の軍事力

 日本国憲法9条は「戦争の放棄」だけでなく「戦力の不保持」、つまり軍備は持たないと明記している。では、実際はどうか。
 軍事分析会社グローバル・ファイヤーパワーが昨年7月に発表した「2020年国別軍事力ランキング」によると、日本は前年の6位から一つ上がって初の5強入り。世界5位の軍事力をもつ国になった。上にいるのは米国、ロシア、中国、インドといった軍事大国で、島国の日本がいかに強大な戦力をもっているかが分かる。
 日本政府は憲法9条があるため、自衛隊は「戦力ではなく実力」という詭弁を弄しているが、紛れもなく世界トップクラスの戦力で、そんな言い草は世界では通用しない。ちなみに、日本が「ミサイル危機」を煽る北朝鮮は日本よりはるか下の25位だ。
 日本が強大な軍事力をもつに至ったのは、安倍政権以降8年連続で増え続ける「防衛費」という名の軍事費増大が要因だ。2021年度の概算要求額は5兆4898億円。うち2兆円ほどが人件費だが、1兆から1兆2000億円が軍備に使われる。
 このうち、米国から“爆買い”するF35戦闘機はAとBの2種類あり、機体だけでAは1機113億円、Bは131億円で計147機を購入予定。関連装備も含めると、合計で6兆6000億円という膨大な金額に。
 消費税や医療費を上げて庶民の暮らしを圧迫しながら、軍事費だけは見境なく税金を投入。これだけのカネを医療や福祉、教育、そしてコロナ対策などに使えば、私たちの暮らしはどれだけ良くなるのか。
 深刻なのは武器の爆買いによるローン(後年度負担)が、予算と同規模の5兆数千億円に膨れ上がっていることだ。もはや不健全を通り越し、危機的な状況である。

武器の売り込み

 こうした現状にありながら、菅政権はさらに武器開発や日本製の武器売り込みを本格化させている。
 安倍政権時の2013年7月、初めて米国以外の国との武器共同開発に合意し、三菱電機と英国の軍需企業との間で18年度から「空対空ミサイル」の共同開発が本格化。19年3月にはノルウェーの軍需企業からF35戦闘機に搭載可能な巡航ミサイルを買い付ける契約をした。代理店は伊藤忠アビエーション(東京・赤坂)だ。
 また、丸紅や伊藤忠などの軍需商社は今後、日本製のレーダーや哨戒機、輸送機など武器輸出を本格化させる。売り込み先はベトナム、インドネシア、マレーシア、インドの4カ国で、対中国を想定したものだ。菅義偉首相は昨年10月中旬に初外遊としてベトナムとインドネシアを訪問したが、武器売り込みの一環だろう。
 昨年8月には三菱電機がフィリピンにレーダーを輸出する契約を締結。南シナ海での中国の動きに対応するためだ。14年の「武器輸出三原則」撤廃以来、完成品の武器輸出はこのレーダーが初めてで、これで日本は“死の商人”国家の仲間入りである。

戦争参加を想定

 それだけではない。菅政権は昨年12月18日、高度な攻撃能力を備えるイージス艦2隻の新造と、敵の射程圏外から攻撃できる国産の長距離巡航ミサイル開発の方針を閣議決定した。
 来年度予算案には高速滑空弾の研究(229億円)、極超音速誘導弾の研究(93億円)、敵のレーダーを無力化する電子戦機開発(153億円)などを盛り込む。昨年6月には中距離ミサイルの保有に向けて米国と協議に入った。これらは前号で述べた「敵基地攻撃能力の保有」そのものである。なぜこれほどの武器・軍備が必要なのか。
 日本政府はこれまで、憲法上「我が国が攻撃を受けない限り武力行使はしない。他国の戦争に参加することはできない」との姿勢を堅持してきた。しかし、安倍政権は14年7月に憲法解釈を変更し、他国の戦争に参加する「集団的自衛権の行使」を容認する閣議決定をし、翌15年9月に憲法学者をはじめ多くの反対を押し切って安全保障関連法を成立させた。
 しかし、法律を作っただけでは実際に戦争することはできない。軍事研究に反対する日本学術会議などの声を封じて「軍産学複合体」を作り、自前の武器製造や共同開発による「敵基地攻撃能力」を保有する必要がある。米軍と一体の戦争を想定しているからだ。

9条をなし崩し

 15年4月に「日米防衛協力のための指針」いわゆる日米ガイドラインが改定されたが、その要点は「調整メカニズム・運用強化・共同計画の策定」の3つ。このうち「調整メカニズム」とは、実際の戦争を踏まえた攻撃分担のことだ。これに向けて軍事力を増強し軍事研究、武器の購入・開発・売り込みを進めているのである。
 当然ながら、こうした日本の動きはかつて支配・侵略を受けた韓国や北朝鮮、中国などから見れば脅威である。米中の軍事衝突が起きれば日本も参戦し、北朝鮮の脅威を煽って先制攻撃をする可能性もある。その結果、反撃の標的になるのは沖縄をはじめ日本にある米軍基地や原発である。
 こうした事態を生じさせないための憲法9条であったが、自民・公明政権によってなし崩し的に土台が壊され、日本は今や戦争のできる軍事大国に変貌した。次の総選挙は、日本が「平和国家」であり続けられるかどうかの大きな岐路となる。

いつでも元気 2021.3 No.352