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いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ 
雪国の知恵と縄文文化

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

つなん雪まつりで夜空を舞うスカイランタン(津南町提供)

 新潟県の南端に位置し、長野県と接する津南町。
 苗場山や信濃川を有し、1年のうち5カ月近くが雪に覆われます。
 積雪3mにも及ぶ世界有数の豪雪地帯で暮らす人々の文化を巡りました。

感染対策をしたうえで取材しています

 長い冬の楽しみといえば、なんといっても3月中旬に開催されるつなん雪まつり。閉じこもりがちな冬に外へ出て、雪と大いに親しもうと1976年に始まりました。
 さまざまな雪遊びやスノーボードジャンプ大会、地元ならではの伝統行事。そして目玉は夜空に舞う幻想的な数千個の灯篭スカイランタンです。今では2日間でのべ1万2000人が来場し、予約なしでは参加できないほど。雪まつり以降は降雪量が減るので、“春を呼ぶまつり”と町民に親しまれています。
 ただ、今年は新型コロナの影響で規模を縮小。開催の可否も1月下旬に決まる予定で、ホームページで告知するそうです。

大地の履歴河岸段丘

 町の中心部を流れるのは日本一長い信濃川。その緩やかな清流を背に、標高約450mの丘の上を目指すと、日本有数の河岸段丘が一望できる川の展望台に着きました。
 河岸段丘とは、約40万年前からの大地の隆起と、氷河期と間氷期という地球規模の気候変動で起こる河川の働きで形成された階段状の地形のこと。津南町はこの河岸段丘の上にできた町です。
 「この9段の段丘には、大地(ジオ)の履歴が残っています。人間が自然とどう向き合ってきたのかを教えてくれるんですよ」と語るのは、苗場山麓ジオパーク推進室長の佐藤雅一さん。
 中津川中流にある石落しでは、苗場山の溶岩でできた柱状節理の岩肌を観察できます。ほかにも神秘的なたたずまいで数々の龍神伝説が残る龍ヶ窪など、ジオパークには見所がいっぱいです。

絶品!雪下にんじん

 豪雪地帯ならではの特産物といえば雪下にんじん。にんじんは一般的に秋に収穫します。ところが早めに降った雪が畑を覆ってしまったため、春の雪解けとともに掘り起こしてみたら、にんじん臭さが無くなり甘くなっていた、というのが雪下にんじんの始まり。今ではその栽培方法が全国に広がりました。
 「水分たっぷりでみずみずしいので、丁寧に扱わないと割れてしまうんですよ」と、愛情を込めて雪下にんじんを栽培しているのは宮崎朗さんと綾子さん夫妻。3月中旬になり背丈以上に積もった雪を、重機や除雪機などで段階的に除雪、最後は手で掘り起こします。「自身の農業スタイルは?」とお2人に尋ねると、笑顔で「根性!」の一言が返ってきました。越冬した甘?いにんじんの風味を、ぜひご賞味ください。

雪国に魅せられた写真家

 町の雪景色を撮影し続けている写真家がいると聞き、会いに行きました。出版社を経て独立した中井菜央さんは、雪を求めて全国を巡り5年前にこの町へたどり着きました。
 「初めて津南の駅に降り立った時は驚きました。毎年さまざまな豪雪地帯を撮影してきましたが、雪深い地でこんなに多くの人が暮らしているとは。日本中探してもなかなかない光景だと思います」と中井さん。
 東京から通っていましたが、新型コロナの影響で行き来するのは難しいと1年間限定で移住を決意。今ではすっかり町民に馴染み、4~6月に町内で写真展も開催する予定です。「1年を通して、雪のない季節でも雪は雪国の時間を動かしていることに気づきました」と、きょうもシャッターを切ります。

縄文文化を引き継ぐアンギン

 町では縄文時代の遺跡が数多く出土、衣の源流ともいわれる編み物製品アンギンも、1953年に津南町で初めて発見されました。アンギンの名称は、「編み衣」がなまったものとも言われます。アンギンの技術を継承しているグループがならんごしの会です。
 同会は2003年、町立の農と縄文の体験実習館(なじょもん)の開館に合わせて、卯ノ木集落の婦人有志を中心に結成されました。「農作業をしているメンバーがほとんどなので、冬場に編むんですよ。時間がかかるぶん、できた時の喜びは大きい」と、柳澤美知子さんと広田ヤスさん。
 アンギンは山に自生する植物「カラムシ」や「アカソ」を原料としますが、将来へ伝承する目的で栽培から手がけます。採取した繊維から糸を撚り、手製の編み台で編みます。編み上がったら3月の晴れが続く日に1週間から10日ほど雪の上に置き、その上に雪を薄くかけて雪晒しをして白く柔らかくなったら完成です。
 アンギンを生んだ縄文人は、この地でどのように暮らしていたのでしょうか。1万年以上もの昔に生まれた縄文文化が、今の雪国文化の礎となっています。
 春が訪れると、すぐに次の冬支度が始まります。雪国ならではの暮らしの知恵が、四季を通じて町のいたるところに息づいています。

■次回は静岡県河津町です。


まちのデータ

人口
9260人(2020年11月30日)
おすすめの特産品
津南産魚沼コシヒカリ、アスパラガス
雪下にんじん、とうもろこし
アクセス
東京から車で約3時間。上越新幹線と在来線で約3時間(越後湯沢乗り換え)
問い合わせ先
津南町観光協会025-765-5585

いつでも元気 2021.2 No.351