まちのチカラ
厳冬の芸術とこけしのまち
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)
宮城県の南西部に位置する蔵王町は世界的にも珍しい「樹氷」で有名。
東北の霊峰“蔵王”のふもと、自然や温泉伝統工芸を今に受け継ぐまちを訪ねました。
※感染対策をしたうえで取材しています
蔵王とは宮城県と山形県の県境に位置する連峰の総称です。厳寒の蔵王の風物詩樹氷は、雪と氷が織りなす世界でも希少な自然の造形美。樹氷は4条件がそろわなければできません。まずアオモリトドマツが自生していること、そこに適度な雪が降ること。山の西斜面にあって、冬型の気圧配置で強い西風が吹く気象条件であることです。
「子どもの頃から雪はいくらでも見てきましたが、初めて樹氷原に立った時は息をのみました」と語るのは、樹氷鑑賞ツアーを開くマウンテンフィールド宮城蔵王すみかわスノーパークの小幡輝多さん。
樹氷原まで雪上車に乗り、直接見たり触ったりと間近で鑑賞できます。ツアーは12月末から3月までで見頃は2月。スノーモンスターともいわれる大迫力の樹氷は、触るとサクサクしているとか。防寒着はもちろん、ぜひ触って感触を確かめていただきたいので手袋を忘れないでください。
うなぎとカニの伝説
冷えた身体を温めるには温泉が一番。蔵王連峰の東麓には、開湯400年の歴史を持つ遠刈田温泉があります。昔は湯刈田とも言われ、信仰登山の基地や湯治場として知られました。
岩崎山の金を掘って財を成した金売橘次が霊泉を発見したのが始まりと伝えられていますが、こんな伝説も。蔵王連峰の不動滝の大うなぎが三階滝の大ガニとの戦いに敗れ、切られた尾がこの地に流れ着きました。それから足腰の病に効く湯になったとか。
温泉街の中心には2つの共同浴場神の湯、壽の湯があり、浴衣姿で湯めぐりをする観光客と地元住民が憩う姿も。「源泉が近くて高温なため湯加減に手がかかりますが、温泉の成分がよく溶けて冬でも湯冷めしにくいですよ」と、遠刈田温泉共同浴場の大沼清信支配人。温泉旅館やみやげもの店が建ち並び、往時を偲ばせる風情に癒されます。
密かなブーム“こけ女”
遠刈田温泉街から松川に架かるこけし橋を渡り、ミズナラやブナ林に佇むみやぎ蔵王こけし館へ。実は今、こけしが密かなブーム。こけしを愛でる若い女性のことをこけし女子(こけ女)と呼ぶのだとか。
同館に勤務する若手工人、小山芳美さんもこけ女の一人。全国を旅してこけしを収集。蔵王町の伝統こけし工人後継者育成事業に応募し、4年前に新潟から移住しました。
「こけしは一体一体違うところが好きです。地方によって特徴も違えば、同じ工人が作っても毎回違う顔になります。全てがオンリーワンなんです」と、繊細なこけし作りに励みます。
館には全国の伝統こけしと木地玩具5500点を展示。オリジナルこけしが作れる絵付け体験やこけし工人の実演も行っています。また、周辺にはこけし工人の店が軒を連ねるこけしの里や、木地師の祖を祀った惟喬神社があるので散策してみるのもいいでしょう。いつしかこけしの魅力にハマってしまうかもしれません。
100貫の大しめ縄
毎年1月14日、刈田嶺神社では厄払いと1年間の家内安全を祈る暁詣りが行われます。数え年42歳の厄年を迎えた男衆が、重さ100貫(約375kg)もある大しめ縄を担ぎ、町中を練り歩きます。
宮中学校の体育館を出発してお神酒で勢いをつけ、真冬の夜でも汗びっしょりになりながら神社へ。その後、参道の石段を一気に駆け上がり、本殿奥にある樹齢500年の御神木夫婦杉に巻きつけます。他にも全12幕の神楽奉納、古い御札や門松などを焼くどんと祭が行われ、小正月を迎えます。
翌日の明け方まで参拝客が一晩中続いたことから暁詣りの名がついたとか。「昔から夜店も出て賑わい、こういうところで男女の縁ができたんですよ。縁結びの神様ですから」と宮司の佐藤稔さん。
刈田嶺神社が鎮座する宮地区には、白鳥を神様のお使いとして崇める風習があり、白鳥信仰の中心地として白鳥大明神とも称されます。冬になると白石川に飛来する白鳥のように、幸せが飛んで来ますように。
太古に生まれた御釜
宮城県と山形県を結ぶ全長26kmの蔵王エコーライン。冬季は通行止めですが、4月下旬に解除されると、高さが10mにもなる雪の回廊を通ることができます。
蔵王エコーラインの先にはエメラルドグリーンで有名な御釜が。御釜は太古に生まれた火口湖で、湖水の色が太陽光により変化することから五色湖とも呼ばれます。御釜からは火山岩むき出しの山肌や熊野岳(1841m)、五色岳(1674m)が眺望できます。
蔵王が織りなす雄大な自然美は、私たちの心に潤いを与えてくれるでしょう。春の雪解けが待ち遠しいですね。
■次回は新潟県津南町です。
まちのデータ
人口
1万1700人(10月31日現在)
おすすめの特産品
遠刈田こけし、蔵王高原大根
蔵王チーズ、梨
アクセス
東京から東北新幹線で白石蔵王駅まで約2時間。東北自動車道で約4時間。仙台からは車で約1時間
問い合わせ先
蔵王町観光案内所 0224-34-2725
いつでも元気 2021.1 No.350