日本と朝鮮の2000年
文・武田力(編集部)写真・酒井猛
日韓関係が“史上最悪”と言われ、日本と北朝鮮との対話にも進展が見られないなか、『日本と朝鮮の2000年』という書籍が発行されました。著者は日朝協会顧問の吉田博徳さん(99歳)で、発行したのは市民団体の「学びあい支えあう会」(会長・奥泉二士夫さん)。発行の経緯や内容について、吉田さんと奥泉さんに聞きました。
「日本と朝鮮の歴史について、多くの方々に正しく知ってほしい」。書籍を発行した動機をうかがうと、吉田さんは力強い口調で語り始めました。長く広い視野で歴史を見る重要性が、『日本と朝鮮の2000年』というタイトルに込められています。
「実はこの2000年のうち、明治維新以前の約1800年間は、日本と朝鮮の関係はずっと良好でした。豊臣秀吉の朝鮮出兵や倭寇など、わずかな例外があるだけです」と吉田さん。
朝鮮からの渡来人が、日本文化の形成に大きな役割を果たしたことはよく知られています。さらに歴史の中には、日本と朝鮮の関係を示す興味深いエピソードも。モンゴル(元)が日本を攻めた元寇の際、元は支配下にあった朝鮮(高麗)に軍船の建造や兵員の調達を命じました。元の圧政に苦しめられていた高麗の人々は、抵抗のため造船の際に釘の数を少なくし、壊れやすい軍船に仕上げたと言います。結局、元寇は失敗に終わりました。
吉田さんは「朝鮮は歴史的に中国や北方民族からの外圧にさらされ続けてきた。独立心の旺盛な朝鮮の人々が外圧に抵抗し続けたおかげで、間接的に日本を外国の侵略から守った側面もあると思います」と説明します。
歓待された朝鮮通信使
日本と朝鮮の友好関係を表すエピソードの1つに、江戸時代の「朝鮮通信使」があります。朝鮮通信使とは朝鮮から日本に派遣された外交使節で、当時の一流の学者や文人などから構成されていました。
朝鮮通信史が来日すると、今の青森や鹿児島など遠方からも土産物持参で面会を求め、詩や書などの教えを請う人がたくさんいました。幕府が橋を架けることを禁じていた川でも、将軍と朝鮮通信使が通る時だけは小船を連ねた仮橋の設置を許可したり、将軍と朝鮮通信使しか通れないとされた道もありました。
「それだけ歓待・優遇されていたわけです。500人規模の外交使節が、半年をかけて日本の人々と交流を深めた。おそらく世界の外交史上でも類を見ないものです」と吉田さんは指摘します。
明治維新を境に変容
日本と朝鮮の友好関係は、明治維新を境に大きく変容します。富国強兵による近代化を進めた日本は、海外進出と植民地支配を正当化するため、朝鮮への差別意識を国民に植えつけました。
「教育はこわい。国民に植えつけられた差別意識が戦時中の残虐行為や関東大震災時の朝鮮人虐殺、さらには現代のヘイトスピーチにもつながっているのですから」と吉田さん。
日本と韓国との間は、戦後処理をめぐっていまだにギクシャクした関係が続いています。また北朝鮮は、日本が国交を開いていない唯一の国連加盟国です。
吉田さんは「日本人と朝鮮人が歴史を正しく共有することが大切。お互いを礼賛するのでも見くだすのでもなく、対等に尊重しあって交わらなくては」と強調します。「そのために、この書籍が少しでも役に立てば」─。白寿を迎えた吉田さんの願いです。
学びを市民の力に
「学びあい支えあう会」会長
奥泉二士夫さんの話
「学びあい支えあう会」結成のきっかけは、2003年に「小平青春同窓会」を呼びかけたことです。
1960年代から70年代にかけて、集団就職などで多くの若者が上京してきました。東京都西部の小平市でも人口が急増したのですが、映画館もないまちで若者たちの文化的な要求を満たしてくれたのが小平市公民館でした。さまざまな社会教育講座やサークルを通して、若者たちが学びと交流を深めました。
子育てが一段落して、職場で定年を迎える歳になり、「楽しく学びながら社会貢献もしたい」という仲間が「同窓会」に集まりました。その中の有志で「学びあい支えあう会」を結成して、戦跡の見学や被災地視察、うたごえ喫茶や料理教室などを行ってきました。
徴用工問題などをきっかけに「日本と朝鮮の関係について学びたい」という声があがり、吉田さんに講師をお願いしました。80人規模で予定したら100人以上が参加して、吉田さんの人気とこのテーマに対する関心の高さを感じました。
「朝鮮の歴史は1回も習ったことがない」という方も多かった。講演の内容をもっと多くの人に知らせたいと考え、吉田さんに加筆していただいて書籍にしました。ぜひ多くの方に読んでいただきたいと思います。
『日本と朝鮮の2000年』
著者:吉田 博徳
発行:学びあい支えあう会
価格:1500円(送料込)
ご注文は学びあい支えあう会の
奥泉二士夫さんへ Tel090-3806-8440
Eメールo-fujio222@s2.dion.ne.jp
いつでも元気 2020.10 No.347
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