やさしい日本語
聞き手・奥平亜希子(編集部)
日本語に不慣れな外国人や高齢者をはじめ、子どもにも伝わりやすい「やさしい日本語」。
災害時や医療現場で正しい情報を知る・伝えるための手段として、いま注目されています。
順天堂大学教授で医師の武田裕子さんに聞きました。
外国の人が困っていたら、あなたなら何語で話しかけますか?「英語で話さなきゃ…」と思うかもしれませんが、実は日本にいる外国人で英語を母語とする人は4割程度。6割の人には英語が通じません。逆に日本人と同じくらい日本語が話せる人から、簡単な言葉なら理解できる人を含めると、8割くらいの外国人が日本語を使うことができます。
ここでポイントとなるのが、「やさしい日本語」です。ふだん私たちが使っている日本語は丁寧語や尊敬語、謙譲語などが入り交じりとても複雑。特に医療現場では、専門用語や「~した方がいい」という曖昧な表現を使いがちで、より複雑にしています。
「やさしい日本語」は高齢者や子ども、耳が不自由な方や認知症の方と話すときにも役立ちます。医療にたずさわる職員の方は、受付や処置室、診察室などで実践してみてください。
「お」がつくと別の言葉に
「やさしい日本語」のポイントをまとめました(下図)。
よくある表現が「○○なので、□□します」です。「~なので、~だけど」という接続詞をつけると文章が長くなり、結論が伝わりにくくなります。一文を短く「です、ます」で区切ることを心がけてください。
「食後」「服用」「来院」などの漢語(音読みの熟語)は子どもや日本語が不慣れな人には難しい表現です。「食後→ごはん(食事)のあと」「服用→薬を飲む」「来院→病院に来る」など、何をするのか、いつするのかを具体的に示しましょう。
丁寧に言うために「お薬出します」「ご確認ください」など、言葉の頭に「お(ご)」をつけて話す場合があります。私たちにとっては日常的な言葉ですが、日本語に慣れていない人は「お(ご)」がつくだけでまったく別の言葉に聞こえてしまい、理解できないことがあります。ただし「お金」など一般的に広く使われている言葉は「お」をつけたままで大丈夫です。
「お召し上がりください」「お掛けください」などの尊敬語や、「かしこまりました」などの謙譲語もやさしい日本語に変換できます(下表)。
命にかかわる“情報”
いま日本には282万人以上の外国人が暮らしており、人口の40~50人に1人が外国人です。そして、日本語に慣れていない人にとって、行きたくても行きづらいのが“医療機関”です。
言葉の壁に加え、「つらい気持ちを理解してもらえないのでは」という心の壁もあり、受診を控えてしまうことも。言葉と心の壁以外にも、日本の医療の仕組みや費用の問題など、分からないことが不安につながります。
そもそも「やさしい日本語」が使われ出した背景には、1995年の阪神淡路大震災があります。そして再度注目されるきっかけになったのが、2011年の東日本大震災でした。
被災地では「高台に避難してください」という放送が繰り返し流れましたが、「高台」「避難」という言葉が分からず、混乱した人がいました。でも「高いところに逃げてください」なら理解できたというのです。このように災害時や医療の現場では、正確な情報が迅速に伝わらないことは命にかかわります。
決まった正解はない
もちろん、なかには日本語が堪能な外国の方もいます。まずは「日本語は話せますか」と聞いてください。相手が日本語を十分理解できる人なら、私たちもふだん通りに会話すれば失礼にはなりません。
「やさしい日本語」に決まった正解はありません。自分がつらいときや困っているとき、相手が分かってくれようとするだけでも気持ちが楽になりませんか。大切なのは「伝えたい」「分かりたい」という“寄り添う心”です。
いつでも元気 2020.4 No.342
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