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いつでも元気

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まちのチカラ・笑顔の花咲く桃源郷 愛媛県久万高原町

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

中津花桃の里は3月下旬から約2週間が見ごろ(久万高原町観光協会提供)

中津花桃の里は3月下旬から約2週間が見ごろ(久万高原町観光協会提供)

 西日本最高峰の石鎚山や日本三大カルストの四国カルストなど大自然に恵まれ“四国の軽井沢”とも呼ばれる久万高原町。
 3月下旬には春の訪れを祝うかのように山里の一角に桃源郷が出現します。
 美しくてあたたかい、町の魅力を訪ねに行きました。

 久万高原町の数ある観光スポットの中で、この時期最も注目を集めるのは「中津花桃の里」。中津地区に住む佐賀繁志さん・久寿美さん夫婦が、12年前に自宅の畑で始めた花桃園です。
 「はじめは老後の楽しみにと思い、苗を40本買ってきて植えたんです。その種を育てて毎年植え続けたら、いつの間にか500本ほどになりました」と繁志さん。
 自宅前に広がる約7000平方メートルの斜面と裏手の高台一面に、びっしりと桃の木が並んでいます。昨年はなんと2週間で約2000人もの人が訪れ、花見を堪能したとのこと。「駐車場がないけんね、それだけ困っとるんですわ」と繁志さんはちょっぴり苦笑い。
 花見客の接待に大忙しなのは久寿美さんです。自家製のコンニャクに焼き餅や蜂蜜湯などを無料で配布。「せっかくここまで来てくださったんだから」と、“おもてなし”に余念がありません。しかも材料から全て手作りというこだわり。「お陰様でいろんなお友達ができました。この前は松山市の街中で、『昨年はお世話になりました』と声をかけられたんですよ」と満面の笑み。
 ふと休憩所の壁を見ると『私たち、花咲かじい・ばあは、今日来てくださった皆さんの笑顔の花が咲くことを楽しみにしております』というメッセージが。取材で訪ねた2月初旬は粉雪が舞う寒さでしたが、2人の幸せそうな笑顔を眺めているだけで、心がぽかぽかしてお花見気分が味わえました。
 中津花桃の里は3月末からが見ごろ。山あいで道が狭いため、複数で車に乗り合って行くことをお勧めします。

四国カルストを爽快ドライブ

 中津地区から車で約50分、愛媛と高知の県境には、日本三大カルストに数えられる「四国カルスト」が連なっています。カルストといえば山口県の秋吉台が有名ですが、四国カルストの魅力はなんといっても全長25kmのドライブコース。標高1000~1500mに広がる壮大な高原を突き抜けるように、県道383号線が走っています。
 車窓から見えるヒツジの群れのような白い岩は、「カレンフェルト」と呼ばれるカルストならではの石灰岩の地形。また、地表が溶けてすり鉢型の窪地になった「ドリーネ」もところどころに見られます。牧場やキャンプ場、宿泊施設、遊歩道なども整備されているので、ドライブだけでなく四季折々の自然をゆっくり満喫してください。

石鎚山と面河渓

 町の北東に車を走らせること約1時間、西条市との境には標高1982mの石鎚山がそびえています。西日本最高峰で、古くから山岳信仰の対象として日本七霊山にも数えられてきました。急な岩場を鎖を頼って登ったり、狭い稜線を歩いたりと熟練者向けの道もあるため、登山者であれば一度は登ってみたい憧れの山かもしれません。
 その南麓に広がる四国最大の渓谷「面河渓」は、水質日本一に輝いた仁淀川の源流です。エメラルドグリーンに輝く川面を眺めながら、まずは面河山岳博物館へ。
 博物館で石鎚山系の地史や自然史を学んだら、渓谷沿いに約600m続く遊歩道を歩いてさらに上流に向かいましょう。途中に大きな奇岩や滝、木造の橋があり、その一帯が深い緑に包まれてまるで絵画の世界を歩いているような気分に浸れます。
 車道に出たらそのまま上流へ向かい、「五色河原」へ。目の前にそびえる巨岩に圧倒されながら河原に下り、清流を間近で楽しんでください。すぐ近くにある「渓泉亭・面河茶屋」にはギャラリーが併設されており、写真愛好家が捉えた面河渓の自然美を鑑賞することもできます。見て触れて感じて、何度も深呼吸したくなること間違いなしです。

伝統製法でつくる久万茶

 昼夜の寒暖差が大きい久万高原町では、朝霧が発生することが珍しくありません。この気候条件に目をつけたのは、松山藩の初代藩主・松平定行。宇治からお茶の苗を取り寄せ、美川地域の藤社地区で生産を奨励したと町史に記されています。
 当時の製法を守り続けている「宮本製茶工場」を訪ねました。子どもの頃から工場を手伝ってきたという宮本甫美さん(82歳)は、収穫時期や加工法が違う約30種類の茶葉の品質を、なんと味と香りだけで見分けられるそう。
 鉄板に和紙を張った焙炉で乾燥させる伝統製法は、「火を止めるタイミングが一番難しい」と宮本さん。気温や湿度によっても微妙に変わるというから、まさに職人技です。
 娘の由美さんが隣で微笑みながら「最近、東京で働いていた息子が地元に戻ってきて、製茶に興味をもち始めたんです。おじいちゃんの技術を受け継いでくれたらいいなと、秘かに期待してるんですよ」。
 近年は茶葉の生産農家も減っているため、宮本さん自ら茶畑を拡張し収穫量の確保に努めているとのこと。一杯のお茶に込められた家族の物語を知り、ほっこりとした気持ちになりました。

地元産木材でカホン演奏

 町の中心部にある愛媛県立上浮穴高校では、地元の久万材を使ったユニークなワークショップが人気です。ペルー発祥の打楽器「カホン」を通して森林管理の大切さを学ぼうというもので、森林環境科農業クラブの皆さんが取り組んでいます。
 カホンは木の箱に穴を開け、中にスナッピーという弦を入れるだけの簡単な構造。叩く位置によって音が変わるので、子どもから大人まで楽しめます。ワークショップでは参加者にカホンを組み立ててもらい、合奏して盛り上がるとのこと。これまで6年間で計1450個のカホンを作ったそうです。
 「音楽は世代も関係なくみんなが親しめます。多くの人に木に触れてもらい、森林の大切さを知ってほしい」と話すのは、3年生の池田隆之助さん。カホン作りと合わせて森林クイズも行う一連の取り組みが、エコ活動コンテストで審査員特別賞を受賞するなど全国的にも高く評価されています。
 ほかにも、約2000万年前の地層が残る古岩屋の甌穴にまつられる不動明王もお勧め。樹齢150年といわれる「法蓮寺のしだれ桜」は、4月上旬に満開になります。

■次回は石川県能登町です。


まちのデータ

人口
8076人(昨年12月末現在)
おすすめの特産品
お茶、そうめん、トマト、こんにゃく
久万銘木など
アクセス
JR松山駅からバスで約1時間10分
問い合わせ先
久万高原町観光協会 0892-21-1192

いつでも元気 2020.4 No.342