まちのチカラ・愛知県南知多町
タコとフグと信仰のまち
文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)
知多半島の東に浮かぶ南知多町の日間賀島と篠島。
どちらもタコやフグなど海の幸が有名ですが、ここ数年は歴史や信仰を求めて訪れる人も増えています。
春の潮香る南知多の魅力を探しに行きました。
まずはタコが有名な日間賀島へ。名鉄電車の河和駅で降り、河和港から高速船で約20分。車で行く場合は知多半島最南端の師崎港から高速船に乗り、約10分で到着します。
日間賀島には西港と東港があり、どちらで降りてもタコのモニュメントが迎えてくれます。両港は徒歩20分で行き来でき、風景を眺めながらのんびり散策するにはちょうど良い距離。私は東港で降り、「章魚阿弥陀」が祀られている安楽寺に向かいました。
寺に伝わる話ではその昔、地震で海に沈んだ仏像が引き揚げられた際、1匹の大ダコが仏像を守るように抱きついていたのだとか。仏像を安楽寺におさめると大漁の日が続いたため、人々は章魚阿弥陀と呼んで祈願するようになったそうです。「タコの伝説は本当かどうか分かりませんが、正月にはどの家でも干しタコを供えて1年の安全を祈願します。信仰の厚い地域ですからね」と住職。
お勧めのタコ料理店は西港の「乙姫」。観光シーズンには行列ができるほど人気です。小ぶりのタコがあると聞いたので、丸ゆでを注文することに。あつあつのタコにハサミを入れ、足の付け根からかぶりつくと…。表面はとろけるようなやわらかさで、中身はプリップリの食感! 味がしっかり染み込んでおり、噛めば噛むほど旨味がにじみ出ます。
タコは年中味わえるほか、タコ干し体験ができる店もあるので家族や友達同士でも楽しめます。
伊勢神宮につながる篠島
日間賀島から高速船で10分。篠島は人口こそ約1600人と日間賀島とほぼ同数ですが、歴史や文化はかなり違います。地元で観光ガイドをしている三鬼勝義さんに歴史スポットを案内してもらいました。
最初に訪れたのは、島のちょうど真ん中に位置する「八王子社」。階段を上がった先に、まさに伊勢神宮を彷彿とさせる社殿がありました。
『日本書紀』によると、伊勢神宮を建立した天皇一行が船で伊勢湾を巡る旅の最中に篠島に立ち寄り、鯛の漁をご覧になって「ぜひ伊勢神宮へ献上を」と言われたそう。それ以来、鯛を塩漬けにした「おんべ鯛」が毎年3回、千年以上にわたって伊勢神宮へ献上されています。
「篠島は伊勢神宮の北東に位置し鬼門にあたるんですよ。だから篠島はなくてはならない存在です」と三鬼さん。八王子社から歩いて3分ほどの「神明神社」に向かいながら、「八王子社には男の神様、神明神社には女の神様がおられて、年に一度、1月3日の夜にこの道を通って会いに行かれます」と解説してくれました。
伊勢神宮との絆の深さを示すように、20年に一度の遷宮の際は伊勢神宮の御古材を使って神明神社の本堂が建て直されます。その建築技術も篠島で脈々と受け継がれています。
お地蔵様とネコの聖地
篠島でも日間賀島でも、集落を散歩していると頻繁にお地蔵様に出会います。弘法大師が知多半島を巡る88カ所に開いた「知多四国霊場」のうち、篠島に3カ所、日間賀島には1カ所の札所があり、それに付随して多くのお地蔵様が点在しているのです。
面白いのは両島とも集落内がまるで迷路のようになっていること。身を寄せ合うように建ち並ぶ家屋の間を、狭い路地がくねくねと巡ります。ふと塀の上を見上げると、丸々としたネコが大きなあくびをしていることも。それもそのはず、南知多は海産物の干物で有名で、昔ながらの天日干しにこだわり軒先に魚を吊るしている店が少なくないのです。
お地蔵様が並ぶ狭い路地に、天日干しの魚とネコ…。日本の原風景を思わせるロケーションは映画の舞台にも。有名な動物写真家、岩合光昭さんの初監督作品「ねことじいちゃん」が、昨年上映されました。映画は人とネコの愛情物語でありながら、高齢化が進む島の現実も描き、緩やかに流れる三河湾の風を感じることができます。
温泉郷でフグを堪能
冬から春にかけ南知多をにぎわせるのは、なんといってもフグ。渥美半島沖に天然トラフグの好漁場があり、全国有数の水揚げ量を誇っています。
2つの島を含む町内には、3月下旬までフグ料理を味わえる温泉旅館が多数あります。てっさ、てっちり、唐揚げ、焼きフグなど味わい方はさまざま。豪華なフグ料理に舌鼓を打った後は、貸切り露天風呂で伊勢湾の絶景を独り占め! 町は中部国際空港から車で約30分、名古屋駅からも電車で1時間なので、日帰りで温泉と料理の双方を堪能することも可能。近年は外国人観光客にも人気です。
師崎港の近くには一般客向けの魚市場があり、新鮮な魚や干物がずらり。お店の人に料理方法を聞きながら物色する楽しみも、ぜひ味わってほしいです。
甘~いいちご食べ放題
南知多といえば観光農園も大人気。冬から春にかけては、特に「いちご狩り」でにぎわいます。観光農園「花ひろば」を訪ねると、名古屋市内から来た家族連れが楽しんでいました。家族揃って南知多でいちごを食べるのが毎年恒例とのこと。真っ赤ないちごを口いっぱいに頬張り、笑顔で家族写真を撮る姿はなんとも微笑ましい光景です。
いちご狩りは5月上旬まで。次第に実は小さくなりますが、甘みが凝縮されるので冬の大粒いちごとは違うおいしさが味わえるとのこと。ほかにも菜の花摘みや季節の花畑など、知多半島の自然がいっぱい。グルメな南知多町にこの春、足を運んでみてはいかがでしょうか。
■次回は愛媛県久万高原町です。
まちのデータ
人口
1万7846人(2019年11月末)
おすすめの特産品
しらす、海苔、干物、タコ、フグ、いちご、キャベツなど
アクセス
名鉄河和線河和駅、または名鉄知多新線内海駅から町役場までバスで約20分
問い合わせ先
南知多町観光協会 0569-62-3100
いつでも元気 2020.3 No.341