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いつでも元気

いつでも元気

この子とともに見る風景 
岩手県大槌町

安田菜津紀

家や商店などの再建が進む大槌町

 東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町。死者・行方不明者は1200人を超え、市街地は瓦礫に覆われました。この町で出会ったのが、臼沢(旧姓・釜石)望鈴さん(22歳)です。2011年3月、望鈴さんはまだ中学2年生でした。自宅は津波の被害を免れましたが、近隣の家や商店は根こそぎ流されてしまいました。
 住まいが流されたことで、多くの人が大切な写真も失いました。たとえ失ってしまった写真を取り戻すことができなくても、新たな思い出を写真に残すことはできます。望鈴さんは「写真を通して笑顔を取り戻したい」と、カメラを手に復興の歩みや人々の暮らしを記録し続けてきました。
 きっかけは、被災した母の実家に残されていた祖父のカメラを手にしたこと。フォトブックを作成したり、写真展を開いたり。精力的な活動は大槌の人々を元気づけただけでなく、町の外にも被災者の声を届けました。
 震災から8年が経った2019年3月10日、望鈴さんに元気な男の子が生まれました。赤ちゃんには日和太くんと名付けました。「ひなたぼっこをするぽかぽかした日だまりのような、温かい子になってほしい」。そんな願いを込めました。
 日和太くんが生まれて9カ月が経った昨年12月、再び望鈴さんを訪ねました。かさ上げ地に建てられた真新しい自宅の部屋で、つかまり立ちをするようになった日和太くんは、おもちゃで活発に遊んでいました。
 やんちゃな日和太くんを優しく見守りながら、「寝ているとき以外は、ずっと動き続ける元気な子です。日和太と一緒に母として成長できることが幸せ」と望鈴さんは目を細めます。町の人々の思いに耳を傾けながら、写真を撮り続けてきた望鈴さん。今度は新しい命に向けてシャッターを切りつつ、ともにどんな瞬間を重ねていくのでしょうか。
 町を覆っていた瓦礫は撤去され、被災した建物の多くが解体されました。防潮堤の建設や宅地のかさ上げ工事も進んでいますが、復興の道のりはまだ先の長いものです。いまだ仮設住宅での避難生活を余儀なくされている人々もいます。
 ここで育つ日和太くんにどんな町を見せたいのか。そのために今、どんな風景を写真とともに残していくのか。大槌町で暮らす一人として、そして母として、望鈴さんの歩みは続きます。


安田菜津紀(やすだ・なつき)
フォトジャーナリスト。1987年、神奈川県生まれ。上智大卒。東南アジア、中東、アフリカなどで貧困や難民問題などを取材。サンデーモーニング(TBS系)コメンテーター。著書・共著に『写真で伝える仕事~世界の子どもたちと向き合って』(日本写真企画)『しあわせの牛乳』(ポプラ社)など

いつでも元気 2020.3 No.341