お金をかけない健康法
1月号では、よく噛む=30回噛むことが健康長寿にきわめて有効であることを紹介しました。
私は外来で肥満や生活習慣病の方に、適度な運動と30回噛むことを指導しています。しかし「先生の指示通りに実践するのは難しい」と、しばしば言われます。その理由はさまざまですが、「30回も噛むのは大変」「歯が少ないので」とか、患者さん本人が「認知症気味で」ということもあります。
確かに、そもそも口と歯が健康かつ丈夫でなければ、30回噛むことの実践は難しいかもしれません。そこで今回は、歯をより多く保つための口と歯のケアについてお話しします。
101歳で18本の歯を保った日野原重明先生の場合、その秘訣は「3食後の歯磨き」と「2~3カ月ごとの歯科受診」だったといいます。
これはまさに8020運動(注1)のお手本です。日本歯科医師会のホームページでは、(1)歯を失う原因となるむし歯や歯周病の早期発見・治療、(2)きちんと歯を磨く。歯と歯の間や歯ぐきとの境目など汚れの残りやすい箇所は、歯間ブラシなどで汚れを落とす、(3)正しい歯の磨き方をかかりつけの歯科医院で教わること、を呼びかけています。
歯磨きについては「食後3分以内に3分間、1日3回磨こう」という333運動が、約65年前から推奨されてきました。その結果、こまめな歯磨き習慣を定着させ、日本は世界に冠たる“歯磨き大国”になったと評価されてきました。
しかし近年、異論として「食べた直後の歯磨きは良くない」との説が出され、これに対して反論する声明を小児歯科学会が出すなど、議論が続いています(注2)。
さまざまな見解があるものの、共通して大事なことは、(1)寝る前の歯磨きが最も重要、(2)食後は食べかすを取り除くために歯間を磨くor口すすぎorブクブクうがいなどが必要、(3)市販の歯磨き粉の役割は補助的で使い過ぎは有害、(4)歯科医・歯科衛生士に相談すること、にまとめられます。
注1 8020運動とは、1989年から厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進してきた「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という呼びかけと啓蒙活動。2017年発表の厚生労働省の実態調査では、達成者が51.2%と成果をおさめています。
注2 333運動に代わる歯のケアとして、(1)1日3回、食事の30分後に5分間の歯磨き(3305運動)、(2)起床時と就寝前に歯磨き+口すすぎ、食後に歯間ケア+唾液分泌法+口すすぎ、(3)1日2回以上、1回は15分以上の歯磨き、などが提唱されています。
大場敏明
おおば・としあき
1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒、内科医。船橋二和病院、東葛病院、みさと協立病院などを経て、クリニックふれあい早稲田(埼玉県三郷市)院長。著書に『ともに歩む認知症医療とケア』(現代書林)、『ドクター大場の未病対策Q&A』(幻冬舎)、『かかりつけ医による「もの忘れ外来」のすすめ』(現代書林)
いつでも元気 2020.2 No.340
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