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いつでも元気

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まちのチカラ・兵庫県福崎町 
柳田國男を生んだ妖怪のまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

辻川山公園の池のほとりに佇む河童の河太郎と天狗

辻川山公園の池のほとりに佇む河童の河太郎と天狗

 兵庫県の南西部に位置する福崎町。
 町の中央を流れる市川の清流に育まれた豊かな風土と歴史を背景に、柳田國男を生んだ民俗学のふるさととして知られます。
 人々の営みの隙間から“人ならざるもの”がささやく町を訪ねました。

 姫路駅からJR播但線で24分、降り立った福崎駅はひっそりとした佇まいでした。町には目を見張るような絶景はありませんが、山あいや田畑に何かが潜んでいそうな雰囲気が。福崎町は日本で最初に妖怪を体系的に研究し、『妖怪談義』を著した民俗学者、柳田國男の出身地です。
 耳を澄ませると、水中から空気の泡がプクプクと上がってくる音がします。駅前広場には円柱形の水槽があり、なんと地下から河童が顔を出しました。意表を突かれているうちに、一瞬でまた地下に引っ込んでしまいます。
 正体は近くの「辻川山公園」にすむ河童の河次郎。シャッターチャンスを逃してしまいオロオロしていると、「次は15分後に顔を出しますよ」と姫路かおりさんが笑顔で教えてくれました。

町の新しい玄関

 姫路さんは「福崎町駅前観光交流センター」のマネジャー。センターは昨年10月にオープンした町のホットスポットで、この日も町民がお茶を飲みに来ていました。1階はカフェやライブラリー、販売ブース、2階は多目的スペースになっています。
 「福崎町には情報誌がないので、ここを情
報が集まる拠点にして、全国の河童伝説にまつわるパンフレットも手に入るようにしたい。赤ちゃんから高齢者までが交流して、情報を持ち帰って行動するきっかけになれば」と、姫路さんの夢は膨らみます。

池の中から河童が

 福崎町は柳田國男が体系化した妖怪で町おこしに取り組んでいます。始まりは町役場に地域振興課ができた2013年。当時、町の観光客数は兵庫県内でワースト3位でした。そこで柳田國男の生家がある辻川山公園に、池の中から15分ごとに河童が浮き上がる仕組みを作ると、以前は1日3~4人だった観光客が400人以上に。池は駅前の水槽と地下トンネルでつながっているという“設定”です。
 仕掛け人で地域振興課の小川知男さんは「最初に河童を設置したときは、役場を辞めるくらいの覚悟で挑戦しました。今では妖怪ベンチをはじめ町内に22体の妖怪がいて、まだまだ増える予定です」と語ります。
 町は「全国妖怪造形コンテスト」も開催。『妖怪談義』に出てくる妖怪をモチーフに造った作品のコンテストで、入賞者に賞品が贈られるほか、最優秀作品は大型モデルを制作し辻川山公園に展示されます。駅前観光交流センターでも手に入る「妖怪ベンチ探検マップ」を片手に町を回り、インスタ映えする写真の撮影に挑戦してみるのもいいかもしれません。

もち麦で健康発信

 町は国内最大級の「もち麦」の産地です。辻川山公園の向かいには「株式会社も
ちむぎ食品センター」が運営するレストラン「もちむぎのやかた」があり、もちむぎ麺の製造工程も見学することができます。
 もち麦とは大麦の一種で、穀類の中でも高タンパク・高ミネラルなことで知られ、βグルカンという食物繊維を多く含んでいます。昔は「だんご麦」と言って、だんご状にして豚汁に入れて食べていたそうです。
 町での栽培はいったん衰退しましたが、特産品として1983年に復活。もちもちとした食感を活かし、現在は麺やお菓子などを製造しています。麺は鍋に入れても煮崩れがなく、うどんのようだけれども蕎麦のような香ばしさがあります。
 「商品開発には苦労しましたが、石臼の製法で麺にしたらうまくいきました。町内では学校給食にも提供され親しみのある食品。今の子どもたちが大学生になって町を出たときに、もち麦をお土産に使ってほしい」と語るのは、もちむぎ食品センターの松井永敏さん。もちむぎのやかたには、今日も全国から観光客がやって来ます。

高齢者の新たな移動手段

 古くは街道が交差する交通の要衝として栄えた福崎町。現在も町の南北と東西を高速道路が走り、物流に便利なことから町内には3つの工業団地があります。その中で運転免許不要の電動カート「スーパーポルカー」を開発・製造している企業があると聞き、訪ねました。
 スーパーポルカーを製造する「福伸電機株式会社」は兵庫県内に10の工場を持ち、自動車や住宅、産業機器や航空機器関連まで幅広くものづくりをしています。受託製品が大部分を占めるなか、自社製品として約30年間生産を続けているのがスーパーポルカーです。
 見た目はスクーターのようですが、電動車いすのカテゴリーに入り、最高速度は人が小走りする程度の時速6km。歩行が困難な方、高齢者で移動手段がない方にとって、自力で移動できる手助けとなります。
 全国に愛用者がおり、「買い物など日常生活に使えて便利」と好評。同社の山中実商品事業部長は「日本の平均寿命は延びても、健康寿命は変わっていません。元気で長生きしてもらうために、スーパーポルカーに乗って外に出て、いろいろな人とコミュニケーションをとってほしい。人や物にぶつかったり、転落事故を未然に防ぐ自動センサーも開発中で、近い将来に発表できそうです」と語ります。自動車免許返納後、高齢者の次の移動手段にいかがでしょうか。
 毎年2月11日には、恵美須神社で「初えびす」が行われ、商売繁盛の吉兆を買い求める人で賑わう福崎町。町内のいたるところに出没する妖怪たちに会いに、足を運んでみませんか?

■次回は愛知県南知多町です。


まちのデータ

人口
1万9239人(2019年10月末)
おすすめの特産品
もち麦、ツノナス
アクセス
大阪から電車で約1時間30分、車で90km
連絡先
福崎町観光協会
0790-21-9056

いつでも元気 2020.2 No.340