けんこう教室
慢性のせき
「長びくせき」は内科の外来でもっとも多い訴えの1つで、読者の皆さんも経験された方が多いのではないかと思います。かくいう私も年に1回くらい、数週間続くせきに悩まされることがあります。
せきが出るメカニズム
せきはもともと気道(肺にいたる空気の通り道)に入ってきた異物やたんを出すために反射的に起こるものです。のどや気管・気管支には異物を感知するセンサー(受容体)があります。これが刺激されると、脳のせき中枢に信号が送られて反射的に胸の筋肉がちぢみ、肺から空気を押し出すことでせきが出るのです(図1)。
呼吸器内科では3週間を超えるせきを「長びくせき」(遷延性のせき)、8週間を超えるせきを「慢性のせき」と分類しています。
3週間以内のせきはほとんどかぜ(ウイルス性上気道炎)であるのに対して、3~8週間のせきはその後遺症(感染後のせき)であることが多く、8週間を超えると感染症以外の原因が多くなるという特徴があります。
検査・診断
西淀病院総合外来に2015年7月と16年1月に受診されたせきの患者さんのうち、65%の方の診断はかぜでした。残りの35%の方のせきの原因をグラフにしたのが図2です。
ほとんどのせきは自然によくなるため、あえて検査・診断しなければならない場合は多くありません。しかし、「8週間を超えて長びく場合」「せきが強くて仕事や日常生活にさしつかえる場合」「結核や百日ぜきなど人にうつる病気が疑われる場合」には検査をお勧めしています(図3)。
まず行う検査は胸部レントゲンで、肺炎や肺結核、肺がんを見つけることが目的です。特にタバコを吸う方は、肺がんのリスクが高くなるので注意する必要があります。
胸部レントゲンで異常が見つかった場合は、精密検査として胸部CTを行います。肺結核を疑う場合はたんの検査、ぜんそくやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を疑う場合は肺機能検査(スパイロメトリー)を行います。血液検査ではアレルギーの数値や百日ぜき、マイコプラズマといった感染症の抗体を見ます。
慢性のせきの原因となり検査で異常が出にくい病気として、せきぜんそくやアトピー咳嗽があります。せきぜんそくはぜんそくの一種ですが、典型的なぜんそく発作を起こさずせきだけが続くものです。アトピー咳嗽はアトピー素因というアレルギー体質のある方で、せきが出やすい状態になる病気です。
また、胃酸の食道への逆流もせきの原因になると言われています。いずれにしても慢性のせきは診断が難しいことが多く、呼吸器内科で検査をしても、はっきりとした診断がつかないことも少なくありません。
治療
せきの原因によって治療を考えます。肺炎や百日ぜき、マイコプラズマといった感染症に対しては抗生物質、せきぜんそくに対してはぜんそくの治療に使用する吸入薬、アトピー咳嗽に対してはアレルギーのお薬で治療します。
かぜの後のせきや原因がはっきりしないせきの場合は、漢方薬を含むせきどめのお薬で治療します。いわゆるせきどめのお薬には多くの種類があるのですが、残念ながら慢性のせきに対しては効果が高くありません。
意外な治療法としてハチミツにせきを抑える効果があることが知られており、紅茶やコーヒーに溶かすなどの方法で服用します。ご家庭で試してみてもよいかもしれませんね。
予防
長びくせきのもっとも多い原因はかぜの後のせき(感染後のせき)ですので、まずはかぜをひかないように注意する必要があります。特に冬場は手洗い・うがいを徹底し、人ごみに出るときはマスクをつけるようにしましょう。インフルエンザの予防接種は必ず受けるようにしてください。
医師や看護師など医療従事者は、かぜやインフルエンザの患者さんと接する機会が非常に多いのですが、アルコールによる手の消毒やマスクによって感染するリスクを減らしています。また、タバコはそれ自体が長びくせきの原因になりますので、加熱式タバコも含めて禁煙をお勧めします。
タバコは危険
タバコはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺がんのリスクを高めるだけでなく、それ自体がせきの原因になります。ある論文では、タバコを吸わない人の3%に慢性のせきがあったのに対して、吸う人では8%に見られたという報告もあります1)。
1) Colak Y, et al. Chest. 2017; 152(3): 563-573
いつでも元気 2019.11 No.337