介護福祉士のやりがい
文・新井健治(編集部)
11月11日は介護の日。
「給料が安い」「離職率が高い」など、介護職の厳しい労働環境が話題にのぼるが、たたらリハビリテーション病院(福岡医療団)の介護福祉士※は元気いっぱい。
生き生きと働く姿はYouTubeにもアップされている。
※介護福祉士 介護職の国家資格。全国に約162万人いる
「介護福祉士のおかげで、すごく退院支援力が上がっている」(病棟看護師長)「患者さんのことを親身に考えて、情報をくれるのがいいなあと思います」(理学療法士)「一緒に働いている感じがすごくある」(作業療法士)。YouTubeで「介護福祉士のやりがい」を検索すると、多職種が次々と登場する動画を見ることができる。
この動画は昨年9月の「ふくおか介護フェスタ」で最優秀賞を受賞。作ったのはたたらリハビリテーション病院地域包括ケア病棟の介護福祉士、勝野倫考さん(33歳)だ。
「介護って、8K職場というのをご存じですか?」と勝野さん。よく聞く「きつい、汚い、危険」に加え、「暗い、臭い」、さらに「給料が安い、休暇が少ない、結婚できない」の頭文字をまとめて8Kというそうだ。
結婚をすると、女性ではなく男性が“寿退職”するのも介護職ならでは。理由は低賃金で家庭を維持できないから。同院には10年以上勤務する介護福祉士が8割にのぼる。勝野さんは「うちの職場は子だくさん。3~4人いる家庭も多いですよ」と笑う。
病棟の“潤滑油”
取材した日、病棟の廊下で患者と家族の周囲に、看護師、介護福祉士、リハビリ職員の姿が。リハビリテーションセンター以外に病棟で行うリハビリを家族を交え説明していたのだ。診療報酬でリハビリの回数は限られており、退院までに必要な機能が回復しないこともある。そこでリハビリ職員が指導してきた内容を伝え、同じリハビリを病棟でもできるようにする。
いつでもどこでも、多職種間で開くちょっとした話し合いは、通常のカンファレンスとは違い「軒下カンファ」と呼ばれる。スタッフや患者、家族を集めるのは介護福祉士の仕事。「私たちは退院支援のうえで“潤滑油”の役割をしている」と勝野さん。
同院作業療法士の髙橋良さんは「患者さんの一番近くにいるのが介護福祉士。私たちの知らない生活の様子をみて、気づかない視点をフィードバックしてくれるので助かります」と語る。
例えば夜間のトイレ。患者は自宅に帰れば夜間は1人で、あるいは家族の介助でトイレに行かなければならない。起き上がりはできるのか、自力で歩いて行くことはできるのか、手すりにつかまれば行けるのかなど、介護福祉士が自宅の様子を把握。家族の介護力を考慮したうえで、病院で行うリハビリの内容をリハビリ職員と相談して決める。
連携パスで退院支援
5年前に国の制度としてできた「地域包括ケア病棟」は自宅や介護施設への復帰が目的で、患者は入院から60日以内に退院しなければならない。同院は独自に「地域包括ケア連携パスシート」を作成。入院1~8週目まで、各週ごとに「患者情報」「看護課題」「介護課題」を、看護師、介護福祉士が記入する。
連携パスには病状をはじめ自宅の環境や食事・排泄・入浴の課題、家族の介護力など項目ごとにチェックボックスがあり、課題とやり残しはないかなど、退院支援の進行状況を一目で確認できる。
連携パスの作成にあたり看護師と介護福祉士で退院支援チームを発足、3年以上にわたって毎月会議を開いて更新してきた。看護と介護では目線が違うが、話し合いの中で職種の専門性が向上し分業化できたという。
常に退院後の生活を視野に入れてケアするのが地域包括ケア病棟。退院はあくまで通過点。訪問看護や介護との連携、家族を交えた在宅生活のアドバイスなど、退院までにやらなければいけないことはたくさんある。「連携パスに患者さんと家族の思いを反映させます」と勝野さん。連携パスを管理するのも介護福祉士の仕事だ。
歯科とも連携
介護福祉士は院内の歯科と連携し、患者の口腔ケアも率先して行う。歯科で義歯を作った認知症の男性患者が、半年後に頬がげっそりこけて入院してきたことがあった。「入院して初めて、自宅で義歯を使っていないことが分かった。せっかくかみ合わせの合った義歯を作っても、生活のフォローがないと役に立たない」と同院歯科医師の今井美恵さん。
入院中に義歯をつける習慣を身につけてもらい、退院後は介護福祉士を中心に生活を援助。患者は体重が増え認知症の改善も見られた。こうした活動は勝野さんが作った新たな動画「色づく明日はお口から」で見ることができる。
今井医師は動画を見て驚いたことがある。介護福祉士が就寝時も義歯をつけることを患者にアドバイスし、「口腔ケアチェック表」に装着の有無を確認する欄を設けていることを初めて知ったからだ。
かつては義歯を外すことが常識だったが、装着していれば夜中に歩いてトイレに行くときに歯をくいしばれるので転倒予防につながる。また、義歯があれば飲み込みやすくなるので、唾液の誤嚥予防にもなるという。
今井医師は「介護福祉士は先々を考え、自ら勉強して動いてくれる。プロ意識が高く、すごく助けられています。歯科医療は生活に近いところにあるので、介護とリンクすることも多い」と語る。
生活を支援する専門家
勝野さんは「介護職は賃金が低いだけでなく、仕事の専門性を認められていないと感じて辞めてしまう人が多い」と指摘。同院の介護福祉士は、病棟でさまざまな役割を果たす。「私たちは患者さんの生活を支援する専門家との意識で仕事をしている」と言う。
YouTubeには「ふくおか介護フェスタ」の様子もアップされている。フェスタでは介護技術を競う「ケアコンテスト」や、認知症介護事例発表などを行い、広く介護の魅力を発信する。
「介護というと排泄や食事の介助と思われがち。でも、それは仕事のごく一部に過ぎず、患者さんと家族の思いや願いをかなえるために仕事をしている。その点では多職種と同じです」と話す。
介護福祉士の職能団体「日本介護福祉士会」には、全国の介護福祉士の約5%しか加入していない。介護職の地位向上を図るには、組織をもっと大きくする必要がある。勝野さんは「めまぐるしく変わる介護情勢を知り、知識と技術を高めるためにも、入会して仲間を増やしてほしい」と呼びかける。
たたらリハビリテーション病院
福岡市東区。診療科目は内科、内科(緩和ケア)、リハビリテーション科、神経内科、歯科、矯正歯科、小児歯科。総病床数は199床。緩和ケア病棟(21床)、障害者施設等病棟(48床)、療養型病棟(82床)、地域包括ケア病棟(48床)。共同組織は「ふくおか健康友の会」たたら香椎支部
いつでも元気 2019.11 No.337