まちのチカラ・新潟県湯沢町(ゆざわまち)
『雪国』に映える紅葉の錦
文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」で有名な川端康成の小説『雪国』。
主な舞台となった湯沢町には、温泉はもちろん自然、音楽、アート、食など、人々を魅了する観光資源が豊富に揃っています。
この時期ならではの愉しみ方をご紹介しましょう。
東京駅から上越新幹線で80分。新潟県南部の湯沢町は、白銀に染まる前に鮮やかな紅葉シーズンを迎えます。
気軽に紅葉を楽しむには、JR越後湯沢駅から徒歩8分の山麓駅へ。大型ロープウエーで、標高1000mの湯沢高原に広がる「パノラマパーク」に約7分間で到着します。トレッキングコースや植物園のほか、ターザンのようにワイヤーを滑り降りるジップラインなど、子どもから大人まで秋を満喫できるアドベンチャーワールドが。
さらに広大な大自然に浸りたい人は、越後湯沢駅から苗場スキー場方面へ車で約30分。全長5481mと世界最長のゴンドラリフト「ドラゴンドラ」に乗って、標高1346mの山頂駅を目指しましょう。
片道約25分間の道中には神秘的な二居湖も。8人乗りで和気あいあいと景色を楽しみながら、山を越え、渓谷を越えてダイナミックな空中散歩を満喫できます。
いずれも山が雪化粧を始める11月初旬までの営業。お出かけの際は観光情報をお確かめのうえ、余裕をもって出発してください。
フジロックの森でボランティア
町南部の「苗場」といえばスキーが有名ですが、音楽好きの間では毎年夏に開かれる「フジロックフェスティバル」が人気。1999年に始まり、今年は7月下旬の4日間で13万人の観客を集めました。世界の超有名バンドも出演し、苗場スキー場周辺の野外ステージで終日ライブを繰り広げます。
フジロックの会場を囲む森の中に、カラフルな遊歩道があると聞き行ってみました。地元の人たちが、フジロックファンと一緒に作った全長1・3kmの木道です。
「フジロックの森プロジェクト実行委員会」委員長の金澤龍太さんは、「もともとは地元の人たちがこの地域を誇れるように、日本一長いバリアフリーの道を作ろうと17年前に始まりました。今ではこの木道がフジロックの各会場をつなぎ、自然と音楽、人と人をも結ぶ道になっています」とにっこり。
冬場は雪に覆われるため、材木の傷みが早く改修作業にも手が掛かるとのこと。年に3回はボランティアキャンプを開き、老若男女が楽しみながら森づくりに励んでいます。音楽をきっかけに自然環境や地域づくりにも人の輪が広がり、交流が生まれていることを知って温かい気持ちになりました。
湯沢温泉900年の歴史
日が暮れてきたら、いよいよ温泉タイム。湯沢町には大小400もの温泉施設があり、日本屈指の温泉街として有名です。
中でも約900年の歴史を誇る「高半」は、ノーベル賞作家の川端康成が『雪国』を執筆するために滞在した宿として有名。館内に文学資料室があり、川端氏が寝泊まりしていた「かすみの間」が当時の面影を残したまま展示されています。
36代目の女将、高橋はるみさんに川端氏のエピソードを尋ねました。「先生は夜中に執筆して明け方に寝られていたようです。当時はまだ顔が知られていなかったので、女中の間では『朝食を昼に食べる人』と噂されていたと聞いています」。
それを裏付けるかのように、川端氏が妻に送った手紙の中には次のような一文があります。「この温泉は神経痛によいらしい(中略)徹夜の後の無理で病んでも直ぐよくなる(中略)石鹸のあぶく立つこと、東京以上で、肌にいいと思はれる」。
今でも宿泊客の約1割は小説の舞台を見学するのが目的で、韓国から訪れる人も多いとのこと。1937年の初版から82年の時を越え、国境も越えて、今なお多くの人を誘う『雪国』。その魅力は計り知れません。
ワンコインで飲み比べ
温泉の後は、なんといっても日本酒でしょう。とりわけ新潟はおいしいお米の産地。89の酒蔵が切磋琢磨しています。
越後湯沢駅併設の「越後のお酒ミュージアムぽんしゅ館」では、90種の地酒から好きなブランドを選んで飲み比べできます。1セット500円。受付で専用のコインとおちょこを受け取り、壁一面にずらっと並んだマシーンにコインを投入すると、1杯分のお酒が出てくる仕組みです。
どれを選べばいいか迷っていると、スタッフの林明菜さんが丁寧に教えてくれました。「日本酒は、米の味の濃淡で人それぞれ好みが違います。季節によっても味が変わり、秋限定のお酒は1年寝かせてあるので旨味が強く、冬限定は逆に軽くてみずみずしい。いろいろな銘柄をためしてみてください」。
町の地酒は「上善如水」。辛口淡麗でスッキリした味わいなので、女性にもオススメです。県内3カ所にあるぽんしゅ館の中でも、上善如水の原酒は越後湯沢駅店でしか味わえないそう。その他、新潟県民にはお馴染みの「越乃寒梅」、白ワインのような酸味がある「越後鶴亀」、ラベルがおもしろい「雪男」など、どんな好みにも合わせられるラインアップです。
店の一角には塩コーナーもあり、全国各地の個性的な塩を舐めながらグイッと一杯いくと、酒の甘みが際立ち、いっそうおいしく感じられます。酒通にはまさに天国です。
新幹線で現代美術を鑑賞
最後に紹介するのは、新幹線が丸ごと現代美術館という「現美新幹線」。土日のみ、越後湯沢駅~新潟駅間を1日3往復します。一般の新幹線と同じように利用でき、鑑賞チケットは不要です。
中に入ると車両ごとに異なる作家の作品が展示されており、絵画や写真、映像などさまざまな世界観に触れることができます。7両編成で、1両の指定車両を除きすべて自由に移動が可能。カフェやキッズスペースもあり、大人は優雅に、子どもは楽しく越後の旅に彩りを添えられます。
ふと振り返れば、車窓にはのどかな風景が。雪景色の冬には、また一味ちがった趣で鑑賞できるでしょう。
■次回は北海道白老町です。
まちのデータ
人口
7882人(8月末現在)
おすすめの特産品
日本酒、米、かぐら南蛮みそ(からいすけ)
アクセス
上越新幹線で越後湯沢駅下車
問い合わせ
湯沢町観光協会 025-785-5505
いつでも元気 2019.11 No.337