島のたまり場
小豆島
文・新井 暦(編集部) 写真・野田雅也
瀬戸内海に浮かぶ小豆島には、香川医療生協の組合員が約1200人います。
民医連の事業所のない地域でも、島のたまり場「どんぐりころころ」には毎日のように組合員が集まります。
オープンから2年が経った「どんぐりころころ」を訪ねました。
小豆島はオリーブが有名なほか、「小豆島オリーブ公園」「中山千枚田」「エンジェルロード」など多くの名所があり、休日には観光客でにぎわいます。映画やドラマ化された名作『二十四の瞳』(壺井栄著)の舞台としても知られています。
島には民医連の事業所がありません。高松平和病院(香川医療生協)からは車とフェリーで約2時間弱と離れていますが、島では1200人の組合員が居場所づくりや健康チェックなどを通じて仲間を増やしています。
取材した日は、「どんぐりころころ」の健康サロンの開催日。組合員31人と高松市の香川医療生協本部から駆けつけた職員2人が、バーベキューと「百歳体操」を行いました。参加者は次々と焼き上がるお肉を、楽しくおしゃべりをしながらほおばります。
お腹がいっぱいになったあとは、百歳体操の時間。この体操は高齢化率40%を超える小豆島町が高齢者の健康維持を目的に推奨、手足の上げ下げを中心に筋肉や体幹をしっかりと鍛えていくメニューです。
小豆島の組合員には元農家の人も多く、かつて島の主要産業だった葉タバコなどの生産に携わっていました。「わたしらずっと百姓やっとって、葉タバコや菊の花をつくって農協に卸してたなあ。近頃は身体が動かんもんだから、百姓もようできん」と、組合員の田村清子さん(86歳)は話します。
参加者は「あと1セット、もうひと踏ん張り!」と息を切らしつつも励まし合いながら、体操に汗を流しました。
古民家を活用して
「どんぐりころころ」の建物は、もともと組合員の真砂まゆみさん(82歳)の両親が住む家でした。収穫した葉タバコを乾燥させる倉庫としても使われた、築100年を超える古民家。真砂さんの両親が亡くなってから約20年間は空き家でした。
そんな折、「地域のたまり場として活用できないだろうか」と医療生協池田支部支部長の小西照行さんの依頼をきっかけに、無償で貸し出してもらえることに。
空き家の改装を業者に依頼すると多額の費用が必要と分かりました。そこで直せるところは、組合員自らの手で直しました。20年分の埃は高圧洗浄機で清掃。土間にレンガを敷いたり、窓の鉄格子にも自分たちでペンキを塗り、2017年10月にオープン。
香川医療生協組合員活動部課長の橋本宏美さんは「看板の設置や壁のペンキ塗りも組合員さんが頑張ったんです。手作り感のある居心地の良いたまり場です」と話します。
「おもしろうてなぁ~」
「どんぐりころころ」では毎月第2、4日曜日にお楽しみ会と健康サロンを開いていますが、催し物のない日も毎日島民のために開放されています。
「いつもは体操やおしゃべり、トランプなんかもしよるし、なんでもやるんよ。んで最近は、トランプのUNOっちゅうんが、おもしろうてなぁ~、頭の体操にもなるんよ」と田村さん。たまり場から徒歩5分の場所に自宅があり、地域の組合員たちが毎日のように集まってきます。
池田支部運営委員の明田繁美さん(79歳)は「高齢者は居場所がなくて困っているんです。せいぜいお墓参りのついでに立ち話をする程度。地域の集会所はカギがかかっていて、いつでも開かれた場所ではない。だからこんな居場所を必要としていたんです」と言います。
行政との協力
昨年4月、「どんぐりころころ」の事業が小豆島町の「介護予防グループ活動事業」に認定され、年間6万円の補助金が交付されました。行政との協力関係を強め、町に講座や学習会などの講師派遣を依頼。食中毒の話やエンディングノートについての学習会も開催しています。
「『いつでも開いているからおいで』と誘っています」と明田さん。香川医療生協が町の祭りで行った健康チェックに参加した人が、「どんぐりころころ」の活動に興味を持ち、新たに組合員になってくれたこともあります。
「どんぐりころころ」には、誰が来てどんなことをしたかを記録する日誌があります。「最近はほとんど毎日やな。この前の台風のときも、気ぃ付いたら何人か集まっとって、お昼にみんなでそうめん食べたわ」。真砂さんが日誌を見返して微笑みました。
いつでも元気 2019.10 No.336