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いつでも元気

いつでも元気

けんこう教室 
よりよい眠りのために

石川・城北病院  精神・神経科 松浦 健伸

石川・城北病院
精神・神経科
松浦 健伸

 人生80年、90年の時代を迎えました。睡眠時間を1日8時間として、人生90年とすればそのうち30年は睡眠時間です。改めて考えてみるとすごい長さだと思いませんか。いのちの営みの土台となる眠りの大切さについてお話ししたいと思います。

眠りの大切さ

 最近「睡眠負債」という言葉が知られるようになってきました。文字通り借金のように積み上がってきた睡眠不足のことです。借金が生活を圧迫するのと同じように、睡眠負債も徐々にいのちを圧迫していきます。自覚のない借金がやっかいなのと同様、睡眠負債もしばしば自覚のないことが問題です。
 だれもが真っ先に思うように、眠ることは心身を休めることですね。動物実験や人に協力してもらった断眠実験(眠らせない実験)から、睡眠が体温調整、自律神経やホルモンの安定、免疫機能など、生物にとって生きるための仕組みを安定させるうえで重要であることが分かっています。慢性の睡眠不足が、さまざまな病気の発症や悪化に関連しているという報告も増えています()。
 近年増加の著しいうつ病は、慢性的な睡眠不足が原因の一つになっています。高齢者では不眠が歩行速度の低下や歩幅の縮小をまねき、近年話題のフレイル(虚弱)に関連することが報告されています。
 子どもの場合も同様です。幼児期・学童期に睡眠が不足している子どもは、肥満になりやすいことも分かってきました。また、乳幼児期に睡眠不足だった場合、学童期に落ち着かない子(多動)になったり、知的な問題が生じやすくなることも明らかになっています。睡眠不足は子どもの精神と神経の発達に影響します。

不眠のチェック

 眠れないことがあるからといって、実際に治療が必要なケースはその一部です。眠れないつらさがあり、体調や気持ち、頭の働きに影響して日常生活に支障が出る場合は医療機関を受診した方が良いでしょう。
 問題は睡眠不足の自覚がない場合や、不足だと感じつつも“これが普通だ”と思い込んでいる場合などです。このような方々は、「一般的な基準からすればどうなのか」を参考にすることです。
 自己採点表(表1)でチェックしてみましょう。病気としての不眠症の基準(診断基準)では、「不眠の頻度が週3回以上で3カ月以上続くもの」を慢性の睡眠障害とします。もちろん3カ月間我慢する必要はありません。不眠をきたす病気はほんとうにたくさんあります。うつ病のように早期発見することが重要な場合もあります。迷ったら医療機関に相談しましょう。

睡眠と認知症

 睡眠は認知症にも関連します。脳の神経細胞は、年とともに自然に減っていきます。そのスピードをはるかに超えて神経細胞が減っていき、記憶などさまざまな脳の働きが落ちたり、混乱しやすくなるのが認知症です。
 たとえば、60歳以上で不眠症の人は、そうでない人に比べて1・53倍も認知症になりやすいという研究があります。逆に夜眠りすぎる人や日中眠気のある人も認知症のリスクが高くなるという報告もあります。不眠が続くと、神経細胞にダメージを与えるアミロイドβが蓄積され、これが認知症に関係しているのではと指摘されています。
 加齢にともない眠りの質や量も変化しますが、眠りに関連する病気も増えてきます。すぐに年のせいだとみなさずに、自分の眠りを見直してみましょう。睡眠薬が認知症の発症を増やすという報告もあれば、減らすという報告もあります。いずれにしても服用する際には注意が必要です。

睡眠障害対処12の指針

 厚生労働省が「睡眠障害対処12の指針」(2001年)を出しています(表2)。この指針に多少ふれながら、眠りについて強調したいことをまとめます。
1 眠りのチェック 眠りの問題は軽視されがちかもしれません。本人が自覚しにくい面もあります。日常的に血圧を測るのと同じように、地域の健康教室などで各自の眠りのチェックをしてみるのはいかがでしょう。
2 眠りの病気の学習 眠りの病気にはたくさんの種類がありますし、眠りに症状があらわれる病気もたくさんあります。こころの病だけでなく、体の病気や服用している薬が関係することもあります。実は睡眠薬を使っているという人も少なくないでしょう。眠りや睡眠薬について、健康教室などで学習してみるのもいいのではないでしょうか。
3 生活の見直し 眠りは生活習慣や生活リズムの一部です。生活や労働と直接的に関係しています。眠りを見直すことは、生活と労働を見直すことにつながります。また家族全体にも関係しますね。家族で話しあい、協力しあうことが大切です。
 患者さんなどから「指針通りにはうまくいかない」と言われることがあります。指針はあくまで予防的な観点に重点を置いた一般的なアドバイスです。
 すでに治療中であれば、他の背景も考えないといけないかもしれません。薬だけでなく寝室の環境、周囲の音・光・匂いなどの刺激、眠りやすさの工夫(寝る前のスマートフォンやパソコンの使用を避けるなど)について、改めて考えてみる材料にできたらいいのではないかと思います。
 みなさんがよりよい眠りを得て、健康で元気に安心して住み続けられるまちづくりに奮闘されることを期待します。

いつでも元気 2019.9 No.335