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いつでも元気

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まちのチカラ・熊本県小国町 
阿蘇の密かな人気スポット

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

木々の隙間から差し込む光が美しい「鍋ヶ滝」(小国町提供)

木々の隙間から差し込む光が美しい「鍋ヶ滝」(小国町提供)

 熊本県北端の小国町は、新千円札の肖像画に決まった世界的な細菌学者・北里柴三郎博士の故郷です。
 滝の裏側を見ることができる鍋ヶ滝や杖立温泉などが観光客を魅了。
 “女子旅”で訪れたい密かな人気スポットにも。
 阿蘇の山林に囲まれたのどかな風景を訪ねました。

 阿蘇くまもと空港から車で約1時間半。阿蘇外輪山を越え筑後川の上流を目指すと、杉の森を育む牧歌的な山村風景にたどり着きました。小国町は約8割が山林で標高も高く、“九州の避暑地”として知られています。
 多くの観光客が訪れるのは、テレビCMのロケ地として有名になった「鍋ヶ滝」。駐車場から苔むした杉の間を下ると、涼しげな滝の音が近づいてきます。足元にはきれいな水場に生息するサワガニがひょっこり。神秘的な木漏れ日の中に現れた滝の落差は約10m、幅は20mあり、カーテンのように水がしたたる姿は息をのむほどの美しさ。
 滝を裏側から見ることができるのが一番の特徴で、天然のミストシャワーに近づくとひんやりとした空気が。マイナスイオンたっぷりの体感に時を忘れてしまいます。滝の裏側は滑りやすいので運動靴がお勧め。長靴を履き川の中に入って撮影するカメラマンもちらほら。秋は紅葉、冬は氷の造形美、春にはライトアップされるなど、一年を通して雄大な自然美を撮影できる絶好のスポットです。

川沿いの空中テラス

 小国町で今、密かに人気なのは女子旅で訪れたいグルメスポット。森の中にひっそりと佇む隠れ家的カフェや、阿蘇の壮大な景色を一望できるレストランなどが増えています。町の中心部、日田街道近くにあるのが「あるくCafe」。杖立川にせり出した空中テラス席があり、川の眺めを楽しみながら憩いのひとときを過ごせます。
 「阿蘇はツーリングや登山、パラグライダーなどを楽しむアクティブな旅行者が多いので、土日、祝日は朝5時からモーニングも用意しています。地元食材と爽やかな清流の空気を、この絶景テラスで味わっていただきたい」とオーナーの濱崎正充さん。
 看板メニューの「あか牛」は阿蘇特産の希少種。阿蘇の大草原を毎日3~6km歩き健康的に育ちます。「あか牛が放牧されている雄大な景色を見なければ、阿蘇を語れないですよ」と濱崎さんに言われ、212号線を車で南へ。見晴らしが良いドライブルートの先には世界ジオパークに認定された「阿蘇ジオパーク」の大自然が。圧巻のパノラマ風景です。

川のせせらぎを聞きながら「あるくCafe」で

川のせせらぎを聞きながら「あるくCafe」で

湧水で豆腐作り

 町中や周辺は雲海を見られるスポットが点在します。雲海に出会えることを期待しつつ、早朝ドライブで訪れたい山奥のスポットがもうひとつ。明治時代から涌蓋山の湧水を利用して、自家製の豆腐を作り続ける老舗「岡本とうふ店」を訪ねました。
 朝の6時から3人の男性が豆腐を作り始めます。大豆を蒸して絞り、にがりを混ぜて型に流します。「その日の温度や湿度で配合の加減を変えます。豆腐はシンプルなだけに、違いが出るのが難しくておもしろい」と語るのは4代目の岡本裕さん。元プロボクサーです。
 出来立ての温かな豆腐は白肌がふんわりと柔らかく、大豆の風味がしっかりと感じられて深い味わい。老舗ならではの風情ある佇まいの食事処では、ざる豆腐、生あげ、豆乳など豆腐づくしの定食をいただくことができ、温泉と宿も併設されています。静かな山の中に溶け込む素朴な味をご賞味ください。

深い山間にある「岡本とうふ店」には有名人も訪れる

深い山間にある「岡本とうふ店」には有名人も訪れる

おもてなしの心
絵鯉

 町にはたくさんの温泉地があります。杖立川の渓谷沿いに湯けむりがのぼり立つのは「杖立温泉」。独特の雰囲気を持った温泉集落の景観が、旅情をかきたてます。
 杖立川にかかる屋根のついた紅葉橋には、絵馬ならぬ鯉の形をした「絵鯉」がたくさん吊るされています。これは橋のたもとに店を構える「ふるや工房」の店主、高村孝志さんのおもてなしの心が生み出したもの。
 高村さんは営んでいた旅館を閉じてから竹細工作りを始めました。「せっかく来てくださったお客さんの思い出になればと思い、杖立のシンボルの鯉に願い事を書いて吊るせるようにしたんです。そぎゃんこと始めたら『願いがかなった』とお礼参りに来る人が続いて、おもしろなってね」と嬉しそう。
 「絵鯉=絵恋い」として、いつしか恋愛祈願の新名所に。高村さんは今では年間2000枚以上の絵鯉作りに精を出しています。

紅葉橋に吊るされた「絵鯉」

紅葉橋に吊るされた「絵鯉」

郷土芸能下城楽

 町最大のお祭りは10月の「小国両神社秋季例大祭」。奉納される町指定無形民俗文化財の「下城楽」は、下城本村・坂下組の住民をはじめ下城楽保存会によって継承されています。
 子どもたちは、小さい時は紺の袴姿に白鉢巻で両手に拍子木をもつコモラセとなり、年長になると薙刀を持ちます。大人は黒い着物に白鉢巻、白だすきに2mほどの棒を持ちます。天狗の面の猿田彦を先頭に、笛や太鼓、銅拍子のはやしで神社へ。昨年は約40人が参加しました。
 祭り前の1週間は毎晩公民館に集まり練習に励むため、下城楽が子どもから大人までつながりを生みだします。「300年続いた下城楽も、次の50年は続くかどうかわからんけん。今おるみんなが大事な存在」と、楽部長の金子美紀雄さんは語ります。
 ほかにも「ちちこぶ祭」「ほっぽ宝来祭」など、秋は祭りが目白押し。下城にある樹齢1000年の大イチョウも見ごろを迎えます。のどかな風景と人懐こい小国の人々に会いに、足を延ばしてみてはいかがでしょう。

「ちちこぶさん」の名で親しまれる国指定文化財の大イチョウ。枝のこぶを煎じて飲めば母乳の出がよくなるという

「ちちこぶさん」の名で親しまれる国指定文化財の大イチョウ。枝のこぶを煎じて飲めば母乳の出がよくなるという

■次回は大阪府千早赤阪村です。


まちのデータ

人口
7,060人(7月1日現在)
おすすめの特産品
小国杉、阿蘇小国ジャージー牛乳
あか牛
アクセス
阿蘇くまもと空港から車で約1時間半、JR肥後線阿蘇駅から杖立行きバスで約50分
連絡先
小国町役場 0967-46-2111

いつでも元気 2019.9 No.335