児童労働を脱して
カカオ豆の国 ガーナ
安田菜津紀
西アフリカの小さな国、ガーナ。日本はガーナから、チョコレートの原料となるカカオ豆を最も多く輸入しています。都市部は少しずつ発展し、大きなビルやショッピングモールも見受けられるようになりました。アフリカ諸国の中では教育水準が高く、民主主義が根づいている国として知られていますが、都市部と比較して農村部はいまだに大きな格差の問題があります。
ガーナで2番目にカカオの収穫量が多い、アシャンティ州を訪ねました。山肌にはカカオの木が青々と茂り、収穫に精を出す人々がカカオの実でいっぱいのかごを背負って険しい道を行き交います。
がたがたと車で山道を走ってたどり着いた奥地の村で、16歳のアマさんに出会いました。アマさんは両親が離婚した後、祖母に育てられました。祖母の家は貧しく、親戚のカカオ農家で働いたり、牛の世話をしたりと仕事を転々。その間、自分の好きなことをする時間もなければ、教育を受ける機会もありませんでした。
彼女から学んだ“強さ”
やがて別の親戚の働きかけや、現地で活動する日本のNGO「ACE」※の支援を受けて児童労働から救い出された後、日本でいえば小学校5年生の学年にいきなり編入することになりました。
一度も学校に行ったことがなく、字も読めない中で、かけ算や割り算など難しい勉強が彼女を待っていました。編入したばかりの頃は、文字を追うだけでも一苦労だったといいます。くじけそうになったこともありましたが、それでもアマさんは諦めませんでした。
「最初は小さな子にまじって学ぶ私をからかう人も。でも、それ以上に助けてくれるクラスメートや先生の存在が心強かった。授業が終わっても、熱心に勉強を教えてくれました」と、はにかみながら語ります。
電気も水道もない家で生活するアマさんは、学校から帰ると食事の支度や掃除など家の手伝いに努めます。そして夜になると小さなトーチの灯ひとつで宿題をこなします。
努力が実り、一年だけ留年したものの順調に進級を続けています。自分が助けられた経験があるからこそ、将来は看護師や教師など人を助ける仕事に就くことを夢見ています。
アマさんと一緒に暮らす親戚の小さな男の子に、「アマさんからどんなことを学んだの?」と尋ねると、真っ先に「強さ」と答えてくれました。彼女は今、これから勉強に取り組む村の小さな子どもたちの励みになっています。
※ACE 1997年設立。児童労働をなくすことをめざし、インドのコットン生産地やガーナのカカオ生産地で子どもの教育支 援と貧困家庭の自立支援を行う
安田菜津紀(やすだ・なつき)
フォトジャーナリスト。1987年、神奈川県生まれ。上智大卒。東南アジア、中東、アフリカなどで貧困や難民問題などを取材。サンデーモーニング(TBS系)コメンテーター。著書・共著に『写真で伝える仕事~世界の子どもたちと向き合って』(日本写真企画)『しあわせの牛乳』(ポプラ社)など
いつでも元気 2019.8 No.334