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いつでも元気

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けんこう教室 
健康寿命を延ばすには

老化は足から

北海道 道北勤医協一条通病院 リハビリテーション科科長 芳賀 千明

北海道
道北勤医協一条通病院
リハビリテーション科科長
芳賀 千明

 日本人の平均寿命は男性81・0歳、女性87・1歳と世界でもトップクラスです(2016年)。しかし、健康で活動的に暮らせる「健康寿命」との差を見ると、男性8・8年、女性12・4年。これだけの期間を日常生活にサポートが必要な要介護の状態で過ごしています。
 要介護になる原因としては、認知症(18%)や脳血管疾患(16・6%)のほか、高齢による衰弱(13・3%)、骨折(12・1%)、関節疾患(10・1%)が続きます。衰弱や骨折、関節疾患など筋力や下半身の衰えを推測させるものが4割近くを占め、「老化は足から」と昔から言われている通りの結果です。
 今回は健康寿命をおびやかすサルコペニア、ロコモティブシンドローム、フレイルという3つの概念を紹介しながら、そこに陥らずに最期まで健康で生きいきと暮らすための対策をお伝えします。

サルコペニア(加齢性筋肉減少症)
 ギリシア語で「サルコ」(筋肉)と「ペニア」(減少)を組み合わせた造語として、1989年に提唱されました。筋肉量は50歳以降、特に下肢で減少し、85歳以上では20代に比べて約60%まで減ります。65歳以上の方で、筋肉の減少に伴って筋力が衰え、移動や外出、買い物などの日常生活にも支障が生じてくるのがサルコペニアです。
 サルコペニアの原因はさまざまです。筋肉のたんぱく質合成と分解に関わるホルモンの機能低下や甲状腺機能の異常、運動不足や低栄養、さらにさまざまな疾患によっても起こります。これらが複合していることも少なくありません。
 サルコペニアの診断は、歩行速度と握力、筋肉量を勘案して行います。日本人の診断基準の一例を紹介します(図1)。

ロコモティブシンドローム(運動器症候群)
 運動に関わる骨や筋肉、関節や神経などを総称して運動器と言います。これらの機能が低下することによって、「要介護になる危険性が高まった状態」がロコモティブシンドローム(ロコモ)です。ロコモは運動器の機能低下に着目するため、筋肉や筋力に着目するサルコペニアより広く、また年齢を問わないため、より予防を重視した概念です。ロコモの原因として、加齢と運動不足による筋力の低下、骨や関節の病気などが挙げられます。骨粗鬆症や変形性膝関節症などの病気がロコモの原因になることがあります。
 身体に痛みやしびれがあったり、バランス感覚が失われると、日常生活のさまざまな動作に支障が出ます。片脚立ちで靴下がはけなかったり、青信号で横断歩道を渡りきれないことはありませんか。
 「ロコチェック」(図2)で1つでも該当する項目があれば、ロコモが始まっている可能性があります。さらに詳しい診断には「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」「25項目の質問」が用いられます。

フレイル
 フレイルは虚弱を意味する英語の「Frailty」から来ています。加齢によって運動機能や認知機能が低下した状態で、要介護に至る手前と位置づけられます。適切に対応することで、心身の機能を回復できる時期でもあります。
 フレイルはサルコペニアやロコモのような身体的要素に加えて、認知症やうつなどの精神・心理的要素、ひとり暮らしや貧困などの社会的要素を包括した幅広い概念です(図3)。
 フレイルは加齢に伴う心身の変化と、社会的・環境的な要因が重なり合って起こります。運動機能や認知機能の低下だけでなく、収入が減ったり人と交流する機会が減ったりすることもフレイルの原因になりえます。
 フレイルの診断基準は未だ確立されていませんが、に代表的な例を挙げました。フレイルに該当する方は65歳以上で約10%、80歳以上では30%を超えると言われています。

早期発見と早期対策

 紹介した3つの概念や診断基準を参考に、心と身体のちょっとした衰えにいち早く気づくことが大切です。早めに手を打てば、要介護に至る前に引き返すことができます。
 最期まで健康で生きいきと暮らすためには、(1)食事、(2)運動、(3)社会参加の3つの柱が重要です。
(1) 食事
 身体はカロリー不足になると、筋肉を壊して生きるためのエネルギーに変えようとします。高齢期のBMI(肥満指数)は中年期以前とは異なり、少し高めのほうが良いことが分かってきました。しっかり食べて低栄養にならないように心がけましょう。
 栄養素としては筋肉や骨の原料になるたんぱく質とカルシウムを十分に摂ります。ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、筋肉や骨を強くして骨折予防・転倒予防に効果があります。
(2) 運動
 ウオーキングや自転車こぎなどの有酸素運動を週2回以上(1回20~30分以上)を目標に行います。さらに、無理のない程度(少しきついと感じられるぐらい)の筋力トレーニングを加えて、筋肉量を保ちます(図4)。
 年齢や健康状態に合った内容・程度とすることが大切です。まずは1日の歩数を1000歩増やすことから始めてみましょう。
(3) 社会参加
 ボランティアや趣味の活動を、できれば仲間をつくって一緒に楽しく目標をもって行いましょう。共同組織の活動に積極的に参加するのもフレイル予防に効果があります。

いつでも元気 2019.5 No.331