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いつでも元気

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特集 
子育て世代実態調査

文・新井健治(編集部)

 民医連小児科医師の研究班が6月、友の会や医療生協など共同組織を対象に「子育て世代実情調査」を行います。子どもの貧困率は13.9%。
 およそ7人に1人が貧困の中にあり、生活実態に基づいた多様な支援が必要です。
 調査の狙いについて、共同研究者で千鳥橋病院(福岡)小児科部長の山口英里医師に聞きました。

 千鳥橋病院小児科の外来患者数は1日平均30人。病院には産婦人科(分娩数年間300件)もあるため、山口医師は出生前からさまざまな困難を抱えた家庭と関わります。「貧困だけが理由で困難に陥っているケースはむしろ少ない。障害、虐待、DV、精神疾患、外国人などさまざまな問題が複雑に絡み合っている」と指摘します。
 なかでも多いのは、家族が何らかの障害を抱えたケース。生活保護を受給している母と子ども2人の母子家庭の乳児を診察した際、持参したおむつの中からゴキブリが出てきました。自宅を訪問すると「ゴミ屋敷」状態で、片付けができない母には軽度の知的障害があることが分かりました。病院職員が児童相談所に相談したところ「こういう(部屋が汚れた)家はいくらでもある」と最初は介入を拒まれました。
 子どもの生命の危機を感じた山口医師は、病院職員や区の保健師とともにゴミを片付け、知的障害者が福祉サービスを受けられる療育手帳を母親に取得してもらいました。「困難を抱えた家庭は孤立しており、家族だけではどうにもならないことが多い。さまざまな働きかけを続けていかないと解決しません」と振り返ります。
 こども食堂の全国的な広がりにみるように、子どもの貧困に対する社会の関心は高くなっています。「でも、困難を抱えた家族はますます増えている印象がある」と山口医師。
 「収入が基準をわずかに上回るため、生活保護を利用できないなど境界線上にある人たちの状況がつかみきれていない。今回の調査で、そういう人たちの実態も明らかにできれば」と話します。

スマホの画面で回答

 民医連の医師が子どもの貧困に関わる調査を行うのは今回が2回目。前回は2014年度に、入院(675件)、外来(712件)、新生児(677件)の3グループで実施、「全国的にも例を見ない調査」と専門家から注目されました。
 調査結果を世帯収入で比較したところ、貧困世帯は非貧困世帯に比べ、受診控え(4・3倍)、中絶(3・5倍)、母親の喫煙(2・4倍)などが多いことが分かりました。
 前回は病院や診療所の職員が家族に承諾書をもらって調査用紙に記入、作業が煩雑で集計に時間がかかりました。今回はスマートフォンを使い、回答者自身が画面上で質問に答えるので集計が容易です。また、医療機関にかかっていなくても答えられるため、より幅広い人に協力を呼びかけることができます。
 調査対象は3歳から中学生までの子どもがいる世帯。保護者が答えるほか、小学5年生以上は子ども自身が答える調査もあります。
 前回の調査は健康に関する質問が中心でしたが、今回は暮らしぶりにも焦点を当てました。子ども自身が答える項目には放課後や休日の過ごし方、悩みの相談相手など、より詳細に生活状況を記入してもらうのが特徴です。
 既に4月に民医連の500事業所に調査の協力を呼びかけるポスターとチラシ(前ページ掲載)を送付。ポスター掲示のほか、事業所や共同組織の発行物に調査を紹介する記事を掲載したり、共同組織の機関紙などにチラシを同封してもらい、1万件を目標に集めます。
 山口医師は「調査項目が多くて大変だが、ぜひ多くの人に協力してほしい。医療現場からデータを示すことで、子育て世代を支援する有効な政策を作っていきたい」と呼びかけます。

お寺で学習支援

医療生協かわち野 大阪

 共同組織の子ども支援活動が全国で展開されています。医療生協かわち野生活協同組合(大阪)が、お寺で開く学習支援を取材しました。

東大阪市の本泉寺とこども食堂を知らせる看板(写真・若橋一三)

東大阪市の本泉寺とこども食堂を知らせる看板(写真・若橋一三)

 花園ラグビー場に近い東大阪市若江東町。中小の町工場の並ぶ一角に「本泉寺」があります。医療生協かわち野が、ここで子どもの学習支援「てらこや『ほんせんじ』」を始めたのは2017年6月。毎週火、金曜日の午後4時半から小中学生23人が通います。 
 医療生協かわち野「子ども支援チーム」担当事務局の尼谷隆志さんは「子どもたちは実にさまざま。机にじっと座っていられず、勉強の習慣が身についていない子もいます。それでも、てらこやには欠席なく通って来ます。子どもたちにとって居心地がいいのでしょう」と話します。取材した日は公立高校の合格発表シーズン。てらこやの中学3年生が志望校に合格する嬉しいニュースも飛び込んできました。
 本泉寺はこれまでもヨガや認知症予防体操の教室を開くなど、地域住民にお寺を開放してきました。住職の橋本恒梁さんは「“寺子屋”との言葉があるように、もともとお寺は地域に開かれた場所だったはず。子育てに多くの人が関わることが必要な時代ではないでしょうか」と語ります。
 住職の妻の橋本園美さんは、てらこやの学習指導担当も務めます。「寺の佛立会館は法事など年に10回程度しか使わなかった。有効活用ができればと前から思っていたところ、医療生協の活動を知り協力することに決めました」と振り返ります。全国的にも珍しいお寺と医療生協の協同で、毎週木曜日に「こども食堂」も開催しています。
 てらこやの指導担当者は7人。「最初はなかなか覚えられない子でも、粘り強く教えていればびっくりするくらい力をつけてくる。子どもが自信を持ってくれるのがやりがいです」と話すのは、元中学教師の松浦哲朗さん。
 子ども支援チームの前川哲さんは「学習指導の担い手を集めるのが大変ですが、若い人にも参加してもらえるような活動にしていきたいです」と言います。

宿題を教える松浦哲朗さん(写真・若橋一三)

宿題を教える松浦哲朗さん(写真・若橋一三)

子どもに自己肯定感を

 医療生協かわち野の子ども支援チームが発足したのは2015年9月。現在は東大阪市と八尾市で学習支援4カ所、こども食堂4カ所を運営し()、学習支援には計70人、こども食堂には計180人が参加しています。
 活動を続けるなかで、不登校・ひきこもり・いじめ・非行、虐待リスクやDV被害、子どもの発達障害や親の障害など、経済的困窮にとどまらない、さまざまな問題を抱える子どもたちの実情も分かってきました。
 「私たちは『無料塾』という表現は使いません。塾の代わりではなく、塾ではできない支援をします。しんどい条件があっても、どの子も“がんばればできた”という自己肯定感を味わってもらえることをめざしています」と尼谷さん。各所で毎月1回の運営会議を開き、子どもたちの状況を共有して対応を積み重ねています。
 尼谷さんは「こども食堂は全国的に広がっていますが、『来てほしい子どもに来てもらえない』というのが共通の課題のようです。学習支援の場には、貧困に起因する問題のただ中にある子どもたちが集まります。まずは6診療圏全てで学習支援を立ち上げることが当面の目標。元教員や学生ボランティアなど担い手の組織が課題です」と話しました。

いつでも元気 2019.5 No.331