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いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ・高知県 
いの町 清流が育む土佐和紙の里

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

5月3日~5日に仁淀川を彩る「紙(不織布)のこいのぼり」(いの町観光協会提供)

5月3日~5日に仁淀川を彩る「紙(不織布)のこいのぼり」(いの町観光協会提供)

 四国3大河川のうち、仁淀川と吉野川が流れる、いの町。
 上流の水面が青く輝く様は“仁淀ブルー”と呼ばれ、多くの観光客を魅了しています。
 千年の歴史をもつ土佐和紙がこの地で発展したのも納得。
 土佐のど真ん中で、人と自然が織りなす風景を訪ねました。

澄みわたる仁淀ブルー

 高知龍馬空港から車で西に約40分。高知県を縦断して土佐湾に注ぐ仁淀川が見えてきました。全国一級河川の水質ランキングで5年連続1位を獲得した清流です。その澄んだ水面を左手に見ながら、さらに上流に約40分車を走らせると、仁淀ブルーのひとつとして知られる滝壺「にこ淵」にたどり着きました。
 光の差し込み具合によって色が変わるというにこ淵は、数年前からインターネットで話題となり次々と観光客が訪れるように。この日は平日にもかかわらず、30分ほどの間に6組のカップルや若者たちが…。それもそのはず。にこ淵は最高に“インスタ映え”する人気のスポットなのです。
 一方、地元の人にとっては「にこ淵は気軽に訪れる場所ではない」と言われる神聖な場所。昔、庄屋の娘が身を沈めて大蛇になったという民話があり、畏れられています。
 にこ淵に行かれる際は、水面全体に光が当たる正午頃を狙って、急な山道でも歩ける靴を履いて訪れてください。くれぐれも大蛇には出会わぬよう、お気をつけて…。

仁淀ブルーの呼び名がつくほど青く澄んだ「にこ淵」

仁淀ブルーの呼び名がつくほど青く澄んだ「にこ淵」

水切り大会で川遊びの達人に

 仁淀川が日本一なのは水質だけではありません。中流域の河原に降りると、さまざまな色や形の石がゴロゴロ…。NPO法人「仁淀川お宝探偵団」の生野宜宏さんが「これだけいろんな形状の石がある川は他にないと思いますよ」とニヤリ。
 生野さんたちは「仁淀川国際水切り大会」を毎年8月下旬に開催し、子どもにも大人にも“川遊び”を推奨しています。予選には全国各地から約200人が参加し、見物客も合わせると500人以上が河原で水切りを楽しむとのこと。昨年ははるばるスコットランドからも選手が出場しました。
 「水切り大会は海外でも開かれていますが、審査のポイントが国によって違います。アメリカは水面で石が跳ねた回数、イギリスは距離。仁淀川ではその2つに加えて、石が跳ねる際の美しさを最も重視しています」と生野さん。石を投げる時の力加減で、力強く跳ねたり繊細に跳ねたりと形状が大きく変わるそうです。
 さっそく、水切り名人の岡林立哉さんに実演してもらいました。美しい水切りのコツは、(1)平たくて丸い石を選ぶこと(2)石の縁を包むようにしっかり持ち、人差し指でコマを回すように水平回転をかけること(3)氷の上を滑らせるようなイメージで、なるべく低い位置から投げること。
 「石の跳ね方は水面の状態によっても変わります。流れの穏やかな時に上手な人が水切りをすると、誰もがワァー! と感動するんですよ」と岡林さん。達人ともなると、石を40回以上も跳ねさせられるというから驚きます。ちなみに私は、岡林さんから手ほどきを受けても、たったの2回跳ねただけでした。トホホ。

全身を使って石を投げる水切り名人の岡林さん(左)と生野さん

全身を使って石を投げる水切り名人の岡林さん(左)と生野さん

土佐和紙の魅力後世へ

 土佐は和紙の原料となる楮の一大産地としても知られています。特にいの町は楮の栽培面積が県内一で、手漉き和紙職人も8人が現役で活躍。また紙漉き技術の近代化と全国普及に貢献した吉井源太(1908年没)の生誕地でもあり、「いの町紙の博物館」には彼が開発したさまざまな道具が展示されています。
 館内で紙漉きの実演をしている友草喜美枝さん(82歳)は、紙漉き歴63年の大ベテラン。和紙づくりの魅力を尋ねると、「『紙漉きは恩給が神経痛』ってね、姑さんがよく言ってましたよ。原料づくりから和紙の裁断まで何もかも大変だけど、自分の人生を振り返ると、やっぱり紙漉きをやってきて良かったと思うね」。
 特に紙の厚さを揃えるのが難しいそうですが、その分きれいに仕上がった時の嬉しさは格別とのこと。「昔は飛ぶように売れた」という最盛期には、1日300枚以上漉いていたという友草さん。現在は1日50枚ほどに減りましたが、代わりに博物館に見学に訪れる年間3000人以上の子どもたちに和紙の魅力を伝えています。
 博物館館長の濱田美穂さんは「和紙づくりは、漉き職人だけでなく楮の生産者や道具づくりの職人も欠かせない総合産業。今はそのどれもが後継者不足です。土佐和紙の魅力を今後も発信し続け、ファンを増やしていきたいです」と話します。
 また製紙技術の魅力もイベント等で発信。5月初旬には、町特産の「不織布」で作った鯉のぼり約350匹が仁淀川を泳ぎます。不織布はぬれても溶けない紙で、橋の上から眺めた色とりどりの鯉のぼりが泳ぐ姿は圧巻です。

長年の勘で紙の厚さを揃えて漉く友草さん

長年の勘で紙の厚さを揃えて漉く友草さん

有機生姜で健康づくり

 生姜は、高知県が日本一の生産量を誇る農産物のひとつです。その栽培は約100年前にいの町から普及したとか。生姜農家3代目の刈谷真幸さんが新しい取り組みをしていると聞き、訪ねました。
 「生姜は連作に弱い作物で、農薬や化学肥料を使わないと生産量が半分以下に落ちてしまいます。それでも僕たちは有機栽培にこだわることで、本当に安心安全なものをつくろうと決めました」と刈谷さん。
 有機栽培でつくった生姜は、化学肥料に多く含まれる硝酸態窒素が少ないため、苦味が少なく、香りが強いのが特徴。6年前に有機JAS認定を取得し、首都圏のレストランなどへ販路も開拓しています。
 刈谷さんの農業スタイルに惹かれて、県外から新規就農した人も。「農業は、働いた成果が収穫として表れるので分かりやすい」「体を動かすのが好きなので農作業が楽しい」とスタッフたちは満足そう。刈谷さんも「農業経営はリスクもあって難しいですが、天気と相談しながら仕事と趣味のスケジュールを自分で決められます。その楽しさを仲間と分かち合えて、本当に幸せですよ」と満面の笑み。
 健康にいいと昔から重宝されてきた生姜は、血行を促して体を温めるだけでなく、心もポカポカにしてくれるようです。

生姜は水はけのよい土壌でたっぷり水をやって育てる。収穫は11月(刈谷農園提供)

生姜は水はけのよい土壌でたっぷり水をやって育てる。収穫は11月(刈谷農園提供)

UFOラインで天空ドライブ

 これからの季節にオススメなのは、愛媛県との県境にそびえる石槌山系の尾根沿いに27kmに渡って延びる絶景ロード「UFOライン」です。
 5月初旬には鮮やかなアケボノツツジが咲き誇り、ハイキングやサイクリング、ドライブにも最高の季節が到来。晴れた日は太平洋まで見渡せる大パノラマを、全身で堪能してください。

標高1700mの尾根沿いを走る「UFOライン」(いの町観光協会提供)

標高1700mの尾根沿いを走る「UFOライン」(いの町観光協会提供)

■次回は大分県日出町です。


まちのデータ

人口
2万2767人(2015年度)
おすすめの特産品
土佐和紙、生姜、土佐文旦、お茶など
アクセス
高知龍馬空港から車で約40分、高知駅からJR土讃線で伊野駅まで約25分
連絡先
いの町観光協会 088-893-1211

いつでも元気 2019.5 No.331