世界の子どもたち
ヨルダン 難民キャンプの少女
安田菜津紀
ヨルダンは中東に位置しながら、石油などの天然資源が乏しい国。そのため不安定な周辺国の情勢に経済的にも社会的にも大きな影響を受けてきました。
ヨルダンの北にあるシリアからは、正式に登録をされているだけで70万人近くの難民が身を寄せていますが、実際にはもっと多くのシリア人が避難しているといわれています。ヨルダンの人口が約760万人であることを考えると、およそ10人に1人がシリア難民という状況です。
ヨルダンで最大の難民キャンプが、シリアとの国境に近い北部にある「ザータリ」です。6万人が暮らせるように作られた敷地の中に、8万人近くがテントやプレハブに身を寄せ避難生活を続けています。
夕方になると時折、視界を覆うほどの砂埃が舞い上がり、人々が顔をしかめます。砂地の環境はどの季節も過酷。じりじりと太陽が照りつける昼から、夜には一変してぐっと気温が下がり体力を容赦なく奪います。大人からは子どもの健康状態を心配する声が絶えません。
電気もない暗い教室
メイサちゃん(12歳)は、一つのテントの中に10人家族で暮らしていました。激しい戦闘に見舞われたシリアから逃れ、両親、兄弟とヨルダンに避難してきたのです。
難民キャンプは自由に出入りすることができないため、父親は外に働きに行けません。支援でもらえる食べ物は、生きていくためのぎりぎりの量です。家族で囲む食卓の中心はパンや豆のペースト。ガスが足りず、温かなスープやご飯が食べられる日は決して多くありません。
メイサちゃんは今、キャンプの中にある学校に通っています。「学校は電気がなくていつも教室が暗いの。机やいすが足りないときは、地面に座って授業を受ける子もいるわ」。宿題をするのはいつも、小さなテントの床の上。勉強に集中できず、一番上のお兄さんは学校に行くのを止めてしまいました。
「あなたの将来の夢は?」と聞くと、「分からないわ。きっと大人になってもまだ、キャンプで暮らしていると思う」とメイサちゃん。内戦が始まってから8年。戦闘が収まった一部の地域の人々は帰還を始めましたが、男性は逮捕や投獄を恐れて帰ることができません。男性の家族もまた、避難生活が続きます。メイサちゃんたちが故郷に帰れる日は、まだ見えていません。
安田菜津紀(やすだ・なつき)
フォトジャーナリスト。1987年、神奈川県生まれ。上智大卒。東南アジア、中東、アフリカなどで貧困や難民問題などを取材。サンデーモーニング(TBS系)コメンテーター。著書・共著に『写真で伝える仕事~世界の子どもたちと向き合って』(日本写真企画)『しあわせの牛乳』(ポプラ社)など
いつでも元気 2019.5 No.331