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いつでも元気

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現地ルポ 
日立が英国で原発建設

アングルシー島の高台から海岸を望む(PAWBのメイ・トモズさん提供)

アングルシー島の高台から海岸を望む(PAWBのメイ・トモズさん提供)

文・写真 藍原寛子

 2011年の福島第一原発事故から7年半。
 事故を経験したばかりの日本の政府と大企業が、イギリス中西部のアングルシー島に原発を輸出しようとしている。
 今年7月、福島の農民と町議会議員が訪英し原発事故の生々しい実態を伝えた。
 同行したジャーナリスト藍原寛子さん(福島市在住)のルポです。

「同じ苦しみ味わわせてはならない」

 日立製作所の子会社「ホライズン・ニュークリア・パワー社」は2012年から、英国ウェールズにある人口7万人のアングルシー島で、新しい原子炉「ウィルファB」の建設を計画している。2025年ごろの稼働を目指して来年にも建設を始め、日英両政府が債務保証などで後押しする。
 島を訪れたのは、福島県農民連会長の根本敬さんと浪江町議の馬場績さん。根本さんは二本松市の農家。馬場さんは浪江町で畜産を営んでいたが、原発事故で大玉村に避難している。
 2人は5日間の滞在で8回のシンポジウムと講演、地元の議員や脱原発グループ「PAWB」(パーブ)との意見交換を行った。「まだ私たちの苦しみは続いている。島民に同じ苦しみを味わわせてはならない」と、自らの体験を元に原発の危険性を訴えた。
 訪英のきっかけは今年5月、PAWBのメンバーが来日し、東京と福島で日立の原発輸出への反対集会を開いたこと。福島の集会に参加した根本さんが「来日のお礼を行動で返し、脱原発の草の根の輪を強固にしたい」と、馬場さんと現地を訪れることにした。

“危険人物”で会場変更

 アングルシー島に到着した7月12日、PAWBから「明日、ホテルで予定していた記者会見場が変更になった」と連絡が。なんでも「危険人物の集会」という匿名の電話がホテルに入ったという。
 筆者は「福島の被災者を『危険人物』とは失礼」と思ったが、2人は「それだけ注目されているということ。平和と自然を愛する日本の農民の姿を知ってもらう良い機会」と逆に奮い立っていた。
 記者会見で根本さんは、避難できずに餓死した牛の写真や、“放射能ピラミッド”と呼ばれる放射性廃棄物の巨大な山のスライドを示しながら「原発事故の風評被害は人と人を分断し、加害者である国と東京電力を免罪してしまう。私たちは被害者では終わらない。アングルシーに原発はいらない」と訴えた。
 馬場さんは福島第一原発から30キロの浪江町津島地区で、150年続く和牛畜産農家。「原発事故後、放射線量の情報がなく、津島地区には遅れて避難指示が出た。東電も国も県も情報を伝えなかった。津島は現在も帰還困難区域で、自宅に帰るためには許可が必要。避難生活も長期化している」と話した。

アングルシー島を訪れた根本さん(右から2人目)ら訪英団

アングルシー島を訪れた根本さん(右から2人目)ら訪英団

総事業費は約3兆円

 「うわー、素晴らしい土地だ。どうして原発は、こうも美しい所にばかり建てるのだろう。私の住んでいる福島県浜通りの原発立地地域も本当に美しい所なんですよ」。原発建設予定地が間近に見える海岸に立った馬場さんは驚きの声を上げた。
 新設のウィルファB原発は、アングルシー島北西端の海岸沿いにあるウィルファA原発(廃炉作業中)の隣接地に計画されている。総事業費は計画当初から膨らみ、なんと3兆円にもなるという。
 費用高騰で、日英両政府が債務保証(政府系の公的資金投入)を行う方針が示された。つまり、国策としての原発輸出入で、両国政府と国民の負担と責任のある事業だ。事故が起きれば現地の住民が福島県民同様に被災する。「英国の原発だから日本人は関係ない」は通用しないのだ。
 建設予定地と湾を挟み美しい砂利の海岸が広がる。転がる一つ一つの小石が夏の日射しに光る。ここは多様な野生生物がいる自然保護区で、特に渡り鳥のキョクアジサシの生息地として、バードウォッチングを楽しむ人が多く訪れる。
 「原発事故後は農業ができなくなったが、体力が落ちないように毎日4~5kmは歩く」という馬場さん。足取り軽く海岸の岩の間を跳び越えていく。美しい自然は人を元気にしてくれる。根本さんは静かに風の音と鳥の声を聞きながら、正面の原発建屋をにらむ。「ここには絶対に原発を建設させてはならない」。

原発建設予定地前に立つ馬場さん(左)と根本さん。遠くに見えるのが廃炉作業中のウィルファA原発

原発建設予定地前に立つ馬場さん(左)と根本さん。遠くに見えるのが廃炉作業中のウィルファA原発

アングルシー島の街中

アングルシー島の街中

「土地は売らない」抵抗の農民

 2人は現地の農民とも交流した。原発建設予定地のほとんどがホライズン社に買収されたが、「絶対に土地は売らない」と闘うのが地元酪農家のリチャード・ジョーンズさん。妻のグウェンダさん、息子夫婦と肥育牛200頭、乳牛80頭を飼育する。土地の買収に応じないことから、嫌がらせを受けたこともあるリチャードさんだが、朗らかで豪快な雰囲気を漂わせる。
 根本さんは手を握るなり、「農民のパワーを感じるなあ」と感激の面持ち。リチャードさんが家の中を案内してくれた。「これは祖母が使っていた1920年代のキッチン。これは17世紀ごろの先祖の肖像画」。この土地での長年の暮らし、歴史や文化がそのまま存在している。
 「農地は何百年も前からここにあった。自分たちが売り買いできるようなものではない。ところが、周りの農家はいつの間にかビジネスマンになって土地を売ってしまった」。
 続けてリチャードさんの農地へ。遠くに風力発電の風車が見える。原発反対の固い意志を示すため、リチャードさん自らが借金をして建てた。
 根本さんは言う。「私も原発事故後、自宅に太陽熱温水器とボイラーを設置した。福島県農民連も太陽光発電を進め、年間3億円の売電収入を得ている。日本では農民はたくさんのことができるから“百姓”と言う。原発に頼らない暮らしは可能なんだ」。
 馬場さんが「日立やホライズン社に何か言いたいことは」と尋ねた。リチャードさんは、「日立本社の社員の姿は見たことがない。ここに来て私たち農民の精神をしっかり聞くべきだ。金で土地を買うだけで、傲慢で横暴だ」と憤りの表情を浮かべた。
 馬場さんと根本さんは、ジョーンズ夫妻とがっちりと握手。「豊かな国土と、そこに国民が根を下ろしていることが真の国富であり、原発建設は言語道断。フクシマと共に闘おう。俺たちも諦めないから」と連帯を誓った。


アングルシー島 
ウェールズ北西岸にある面積715平方キロメートルの島。アイリッシュ海に面する。美しい砂浜と海岸線が有名で観光客は年間約200万人
PAWB 
People Against Wylfa B。ウィルファB原発に反対する市民の会。1988年設立

いつでも元気 2018.11 No.325