くすりの話 マルチビタミン
執筆/藤竿伊知郎(外苑企画商事・薬剤師)
監修/高田満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)
多種類のビタミンをまとめて飲める「マルチビタミン」のサプリメントが売れています。ビタミンは20世紀初頭、欠乏すると※脚気のような命にかかわる病気を引き起こす物質として発見され、栄養素の概念を革新しました。
食糧難の記憶が色濃く残る1950年代に総合ビタミン剤が発売されると、製薬会社による「滋養強壮」の宣伝により、日本の中高年世代には「疲れたらビタミンを飲む」というイメージがすり込まれています。ここ20年は「健康補助食品」として販売が増え、「抗酸化作用で老化を防ぐ」「がんに効く」などの不確かな情報とともにビタミンC・E・Aが注目を浴びています。
●それぞれの役割と効果
ビタミンCはコラーゲンの合成に大切な役割を果たすとされ、美肌効果を期待して使われています。また、ストレスに対抗するホルモンの合成に関わり、喫煙によって起こる酸化反応を抑える力もあることから「免疫力を高める」と期待されましたが、治療や予防に使う水準の効果はありません。
ビタミンEは抗酸化作用が強く、体内の細胞膜の酸化による老化を防ぐ働きがあります。また、手足などの末梢血管を拡張して循環を良くする効果はありますが、心臓血管系の重大な病気の予防に関しては評価が分かれています。
ビタミンAは欠乏による夜盲症が有名ですが、細胞の増殖・分化をコントロールする物質として臓器の成長・維持に重要な役割を果たしています。妊娠初期の過剰摂取は、胎児に奇形を生じることが警告されています。危険性が高いため、サプリメントとしては体内でビタミンAに変換されるβカロテンが利用されています。
●広告情報の鵜呑みは危険
近年の規制緩和政策によって、ビタミンは「健康補助食品」としてどこでも購入できるようになりました。私たちは商品の広告情報をもとに、食品だから安全で健康に良いというイメージを持つようになっています。広告は良いところを強調しますが、大量のビタミンを摂ることによる副作用は忘れられがちです。
ビタミンA・Eなど「脂溶性ビタミン」(油に溶けやすい)を過剰に摂ると、体の脂肪分に蓄積されて重大な副作用を引き起こします。必要なビタミン量は各人の食事内容によって変わります。画一的に成分を配合したマルチビタミンは、脂溶性ビタミンの摂り過ぎにつながる危険があります。
抗酸化ビタミンの効果を長期間追跡した研究で、食事からビタミンを摂っている場合は問題なくても、サプリメント利用者では逆に死亡率が高くなったという研究もあります。
サプリメントの適切な使い方はまだ研究途上です。不確かな情報をもとにして、抗酸化ビタミンをたくさん摂ることはお勧めできません。
※脚気 ビタミンB1が不足して起こる。主な症状は全身の倦怠感、食欲不振、足のむくみやしびれなど。
いつでも元気 2018.9 No.323