特集 離島で初
石垣島と宮古島に支部結成
文・新井健治(編集部)
写真・野田雅也
沖縄本島から西へ410km離れた沖縄県の石垣島と、290km離れた宮古島に沖縄医療生協の支部ができた。石垣島は八重山支部、宮古島はみやこ支部で、離島での支部結成は初めて。本土からみれば両島は“南国のパラダイス”のイメージだが、一方で自衛隊のミサイル基地建設が進んでいることはほとんど知られていない。「健康をつくる。平和をつくる。いのち輝く社会をつくる。」沖縄医療生協の理念に基づき活動する島の組合員を訪ねた。
健康づくりへ つながり始めた組合員
初の健康チェック 石垣島
5月12日、沖縄医療生協八重山支部(組合員275人)が石垣島で初のまちかど健康チェックを行った。支部ができたのは昨年11月。石垣島は八重山諸島の中心のため、支部の名称も八重山になった。
会場は島の繁華街にある農協の市場。設営の最中から人が集まり、午前10時の予定を早めて9時半スタート。血圧や体脂肪、血管年齢測定に長蛇の列ができ、チラシを見た人や市場への買い物客など約100人が参加した。
76歳の女性は「母が脳梗塞で亡くなったので、健康には気をつけている。血管年齢は測ったことがなかったので興味があります」と言う。
支部長の翁長孝夫さん(66)は4・2ヘクタールの田んぼでブランド米「ひとめぼれ」を作る農家。農協役員も務めており、市場に出入りする農家や農協職員に「健康チェックやっていきなよ」と声をかける。「100人なんて、祭りでないと集まらない。まずは成功でしょう」とほっとひと安心。
石垣島と宮古島に民医連の事業所はなく、支部づくりに向けて沖縄医療生協本部が協力。支部結成後も運営委員会を何度か開き、班活動の具体化などを話し合ってきた。法人まちづくり推進部の知念毅さんは「健康チェックをはじめ、グラウンドゴルフなどまずは楽しく活動することから。今後は組合員同士の横のつながりもつくっていきたい」と話す。
県立八重山病院元総看護師長の島村和枝さんもスタッフとして参加。「石垣島は脳内出血による死亡率が全国一高い。高血圧を放置している患者も多いので、健康状態に関心を持ってもらうためにもこうした機会は重要。島に医療生協の支部ができたのもタイムリーです」と指摘する。
民医連の事業所も
石垣島には40年以上前から組合員がいた。沖縄協同病院など沖縄本島の受診がきっかけで、本部から機関紙こそ送られて来るものの横のつながりはなかった。「組合員でも顔を知らない人が多かった。まずは名簿の整理から始めたい」と翁長支部長。
両島には島外からの移住者がたくさんいる。2005年に北海道幕別町から、夫婦で石垣島に越してきた千葉裕子さん(68)は、「老後は暖かくのんびりしたところで過ごしたいと思って」と言う。
北海道では十勝勤医協友の会に所属し、『いつでも元気』は創刊号からの読者。島の元気販売所長も務める。「さまざまな催しを開きながら組合員を増やし、いずれは島に民医連の事業所を作りたい」。
コープと協力し支部づくり 宮古島
今年3月、石垣島に続いて宮古島でもみやこ支部が発足(組合員188人)。発足集会では沖縄協同病院の小児科医を講師にアレルギーの学習会を開催した。具志堅高子支部長は「アレルギーに関心のあるお母さんは多く組合員以外も参加。当日は地元の宮古テレビも取材に来たんですよ」と言う。
宮古島では支部づくりに向け、「コープおきなわ」宮古ブロック協議会(組合員約4000人)と協力。コープの企画に合わせて健康チェックや学習会を開き医療生協をアピール。みやこ支部の2つの班はコープの組織を基盤にした。
「コープの組合員は健康への関心が高く、医療生協の強みを発揮できる。班を立ち上げれば、医療生協本部に要望して沖縄本島から医師を招き学習会を開くことができます。班には血圧計や体組成計が配られるので、班会で健康チェックも」と具志堅さん。
宮古島も高齢化が進む。「班会で介護の悩みを打ち明けるなど、お茶会のような催しを開き、組合員同士のつながりをつくっていきたい」。
沖縄医療生協本部は、両島の支部づくりも視野に組織部と介護事業部を統合した「まちづくり推進部」を2016年に立ち上げた。城間愛子部長は「事業所のない島で医療生協の運動を展開するのは大きな課題だった。まちづくり推進部を立ち上げたことで、健康づくりの視点で地域づくりに関わることができる」と指摘する。
琉球列島の軍事要塞化 “標的の島”へ
ミサイル基地を建設 宮古島
政府は今、石垣島、宮古島を含む琉球列島の各島で自衛隊の基地建設を進めている。本土ではほとんど報道されず、わずかに伝わる辺野古の米軍新基地も、実は琉球列島の要塞化の一部にすぎない。
昨年10月、自衛隊ミサイル基地の建設が宮古島の千代田ゴルフ場跡地で始まった。フェンスで囲まれた22ヘクタールの工事現場では、100台近い重機がうなりをあげ赤土を掘り返す。
自衛隊はここに地対艦・地対空ミサイル部隊(700~800人)を配備。有事の際はミサイルを搭載したトラックが島内を走り回って攻撃を避けながら、“敵国”の艦船と航空機に向けて発射する。敵と想定しているのはお隣の中国だ。
反対する島民は毎朝8時から、基地建設現場前でプラカードを掲げスタンディング。その中にみやこ支部の上里清美さん(63)の姿もあった。「動き回るミサイル部隊めがけ、島全体が標的になる。住民に逃げ場はなく、“玉砕”の島になる」と上里さん。
上里さんは基地予定地に近い野原に生まれ育った。自宅前の道路は島一番の高台「野原岳」に続く道。戦前、野原岳には旧日本軍の司令部があり、戦後は米軍のレーダー基地になった。
「幼い頃、ジープに乗った米兵を『ギブミーチョコレート』と言って追いかけた。米兵が投げ捨てた煙草を祖母にあげたら喜ばれました」と振り返る。
1972年の本土復帰後、米軍基地は自衛隊のレーダー基地に。カーキ色の異様な電波傍受施設が、常時中国軍の動向を監視している。上里さんは「この空を見てくださいよ。オスプレイも爆撃機も飛ばない静かな空が一番の宝。基地はそれを壊す」と抗議する。
医師が反対運動の先頭に
宮古島は珊瑚礁でできた平らな島で、山がないために川もない。島民は飲料水や生活用水すべてを地下水に頼る。「基地によって島の高台が汚染されれば、島全体の水がめが汚染される。いったん汚してしまったら取り返しがつかない」と語るのは、「宮古島・命の水・自衛隊配備を考える会」代表の岸本邦弘さん。
岸本さんはきしもと内科医院の院長。「医師は人の命や健康を預かる仕事。私たちの仕事と相反する戦争には絶対反対です」と言う。
戦時中は島民5万人の島に旧日本軍3万人が駐留。飢えとマラリアで多くの人が亡くなった。岸本さんは言う。「島は今、基地建設の経済効果にわいている。基地の危険性を知らせず、経済的な理由で戦争への準備を進めるのは戦前と同じ構図。ただ、73年前と違うのは憲法があること。最後まで基地建設阻止をあきらめない」。
1万4000筆の反対署名 石垣島
宮古島から石垣島に来ると景色が一変。平らな宮古島に比べ、石垣島には山と豊かな森が広がる。石垣島の基地建設予定地(48ヘクタール)は島の中央部、沖縄県最高峰の「於茂登岳」(525m)のふもとにある。今はまだ建設は始まっていないが、完成すれば自衛隊はここに宮古島と同じくミサイル部隊(500~600人)を配備する計画だ。
米軍は戦後、沖縄本島で住民の土地を無理矢理奪って基地を造った。故郷を追われた住民は、その多くが石垣島に移住。山を切り開いて農地を耕した。
健康チェックに来ていた喜友名茂さん(66)もその一人。5歳の時に北谷町から移住、今は基地予定地近くで花き栽培農家を営む。「父は苦労して石だらけの土地を開拓した。基地に追われて移住したのに、また基地ができる。たまったものじゃない」と怒る。
「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」共同代表の上原秀政さんは、上原内科医院院長で八重山地区医師会長。宮古島と同じく、医師が基地反対運動の先頭に立つ。
上原院長は「医師会といえば保守と見られるが、基地は命の問題。島の人は7割以上反対していますよ。狭い島社会だから遠慮して言えないけれど、医師はしがらみがないので本音で行動できる」。
市民連絡会は基地反対の署名を1万4000筆も集めて市に提出。予定地周辺の4公民館(自治会)はすべて反対だが、今年3月の石垣市長選で基地容認の候補が当選。9月の市議会議員選挙の結果が今後を左右することが予想される。
「他国の軍艦を攻撃できる基地を造れば、他国から標的にされる。島民の多くが反対しているにもかかわらず、本当に基地を造るつもりなのか」と上原さん。
八重山支部の翁長支部長は「基地予定地とその周辺にはパイナップルやマンゴーを栽培する農家が多く、後継者も育っている。農業が活性化しているのに、再び基地で若者の夢を奪ってはいけない」と言う。
取材の途中、偶然立ち寄ったパイナップルの直売所。冷やしたパイナップルジュースは生まれて初めて味わうおいしさだった。店主の當銘カヨさんのパイナップル畑は基地予定地に隣接。店には反対の署名も置いてある。
「窓を開ければリュウキュウアカショウビンの鳴き声が聞こえる。そんな石垣島がいい。基地ができたら島が島じゃなくなる」と當銘さん。
沖縄医療生協専務理事の比嘉努さんは「支部には平和の拠点としての役割もある。医療生協の組織力を発揮し、対話を通して政治を変え基地建設をストップしたい」と語る。
中国と新たな冷戦時代に
琉球列島の軍事要塞化について、ジャーナリストの小西誠さんに聞いた。
琉球列島のうち、台湾に最も近い与那国島の自衛隊基地は完成し、奄美大島は今年度中に完成予定。沖縄本島の自衛隊は1750人も増員した。与那国島、石垣島、宮古島、沖縄本島、奄美大島を結ぶ琉球弧の要塞化が進む。
北朝鮮の脅威がマスコミをにぎわしているが、本当の狙いは中国の進出を阻む海峡封鎖。日本地図を逆にし中国から琉球列島弧を見れば一目瞭然だ(下図)。アメリカは海南島の中国軍基地から、原子力潜水艦が太平洋に出ることを恐れている。日本政府は自国のためでなく、アメリカの要請による「中国封じ込め」政策に沿って軍拡している。
基地建設と並行して、南北の大東島を含む各島の民間空港をF35B戦闘機が使える軍事用に転換。辺野古新基地など沖縄本島の米軍基地と連動しながら島を盾にして中国と対峙する計画だ。中国のミサイル技術は世界一で、島が標的にされたらひとたまりもない。一方、日本は潜水艦と機雷戦に強く海中で中国軍に挑むのではないか。
自国の鼻先にミサイル基地を置かれた中国は「挑発されている」と捉えるだろう。わざわざ緊張感を高め、戦争の“火種”を作っている。日本が軍拡すれば中国も軍拡する。「新たな冷戦時代の幕開け」と言っていい。
防衛省はこれらの計画を公表しているのに、なぜ、本土のマスコミは報道しないのか。恐らく中国を挑発するのを控えているのだろう。国民の目に隠されたまま軍拡が進むのは戦前と同じ構図だ。
いつでも元気 2018.8 No.322