けんこう教室
熱中症
1年で最も暑い季節がやってきます。この季節に注意してほしいのが熱中症です。
熱中症関連の死亡や後遺障害を減らすうえで、予防と早期診断、適切な初期対応が特に重要です。熱中症の予防や対処方法などについて学びましょう。
熱中症とは
熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」を指します。
分かりやすく言うと「高温多湿の環境で過ごしたことで、体の中の水分や塩分のバランスが崩れ、身体に不調が生じた状態」です。かつては、熱疲労・熱けいれん・熱射病などとも呼ばれました。
熱中症は症状に応じて重症度I~IIIに分類されます。
重症度Iでは、めまい、立ち眩み、筋肉痛、こむら返り、生あくびなどが生じます。
重症度IIでは、頭痛、吐き気、だるさ、集中力や判断力の低下などが生じます。
重症度IIIでは、意識不良、けいれん、高体温などが生じます。この状態になると中枢神経や肝臓、腎臓に障害が出てきます。血液検査や入院が必要になることもあり、救急車などによるすみやかな受診が必要です。
原因とリスク
熱中症において最も大切なのは予防です。熱中症の原因となる「暑熱環境」を避けることができれば、予防することは可能です。
高温、多湿、風が弱い、日射が強い日は熱中症のリスクが上がります。時期としては梅雨明けから8月上旬にかけて、時間帯は正午から午後3時前後の日中の発生が最も多くなっています。
また、個人による要因としては疲労、睡眠不足、二日酔い、下痢など、体調面で不良があればリスクが上がります。若年者はスポーツ中に、中壮年は労働中に、高齢者は家の中で起こることが多いです。
熱中症の危険因子となる病気として心疾患が挙げられます。心臓は血液を全身に送り出すポンプとしての役割を果たしています。そのポンプの作用が弱まることで、体表に行く血流が減り、結果的に体に熱がこもってしまうためです。
また、心不全などで利尿薬(体の中の余計な水分を尿にして体外に排泄する薬)を飲んでいると、体内の水分量が減って脱水になりやすく、体表に行く血液が少なくなるため熱がこもってしまいます。
熱中症は危険!
2016年には621人が熱中症で亡くなっており、そのうち65歳以上の高齢者が492人(約8割)を占めています。年によっては死亡者が1000人を超えたこともありました。死亡者数が1731人に達した2010年は、「家(庭)=住宅、中庭、車庫など」が発生場所の45.8%を占めており、屋内やすぐに退避できる環境でも安心できないことを物語っています。
油断せず予防
熱中症患者の半数以上が65歳以上で、子どもや普段運動をしない人にも起こりやすいと言われています。しかし、環境や本人の体調など、いろいろなリスクが複合して起こるため、油断せずに誰でも熱中症にかかる可能性があると自覚する必要があります。
熱中症を予防するうえで大切なことを“レスキュー”という語呂合わせで覚えましょう。
「レ=冷却、ス=水分補給、キュー=休息」です。具体的には暑いところを避けて、風通しの良い部屋や日陰に行くようにしたり、クーラーを上手に利用しましょう。服装も通気性の良い生地や形態を選び、日傘や帽子を使います。水分をこまめに補給し、休憩も十分に取ってください。
高齢者に熱中症が多い理由
高齢者は温度の変化を感じる機能や発汗などによる体温調節機能が低下し、体内の水分量も少ないため体温が高くなりやすく、熱中症にかかる方が多いのです。定期的に水分摂取の習慣をつけたり、室温を適度に調節して熱中症を予防しましょう。
初期対応の“レスキュー”
もし熱中症にかかってしまったら、初期対応が重要です。
炎天下や蒸し暑い屋内で調子を崩している人を見かけ、「熱中症かな?」と思ったら、まずは意識状態の確認をしてみてください。
意識がもうろうとしているときは、身体を冷やしながら、すぐに救急車を呼びましょう。
意識がはっきりしている場合はどうしたらいいでしょうか。予防と同様に“レスキュー”がポイントです。
具体的には、涼しい木陰で休ませたり、屋内なら窓を開けて風通しを良くしたり、クーラーや扇風機を入れ、身体を冷やしましょう。 服をゆるめ、ぬれタオルを体にかけてあおぎます。わきの下や足の付け根を冷やすのも効果があります。吐き気がなければ、スポーツドリンクや塩分を含んだ飲み物を飲ませてください。水分が摂れても症状が続くようならすみやかに医療機関を受診します。
適切な初期対応で重症化を防ぐことができます。とはいえ、無理はせずに早めに医療機関を受診しましょう。
医療機関では基本的に対症療法(症状に対する治療)を行います。点滴、体温管理、呼吸管理、循環管理などを必要に応じて行います。
何を飲んだらいいの?
熱中症の時は、汗とともに塩分が失われている状態ですので、お茶や水ではなく、経口補水液など塩分を含んだ飲み物がおすすめです。なければスポーツドリンクなどを飲んでください。
簡易な経口補水液は水500mL+塩1.5g+ブドウ糖20gでつくることができます。
屋内も要注意
熱中症で亡くなる方の約8割は、65歳以上の高齢者です。高齢者は屋外だけでなく屋内でも熱中症にかかりやすく、夏場は注意が必要です。
また、就寝中も油断はできません。寝ている間は温度を適切に管理しにくく、寝汗による脱水も生じます。就寝前にアルコールを飲む方もいるかもしれません。アルコールには利尿作用があり、体から水分を奪ってしまうため、就寝直前の寝酒は控えましょう。
入浴時にも体の水分はどんどん失われていきます。入浴前後に十分な水分補給を心がけてください。
予防のための情報を手に入れるには
環境省「熱中症予防情報サイト」
(http://www.wbgt.env.go.jp/)
※日本各地の暑さ指数(WBGT)の実況と予測
厚生労働省「熱中症関連情報」
(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/index.html)
予防の“レスキュー”
レ=冷却 暑い時間・暑いところを避ける。日傘や帽子を使う。クーラーを利用する。通気性の良い、吸湿性・速乾性のある服を着用する。
ス=水分補給 のどの渇きを感じなくても水分補給をこまめにする。何か作業をしている時は、約30分おきを目安に。経口補水液やスポーツドリンク、梅昆布茶、みそ汁などがおすすめですが、スポーツドリンクによる糖分・塩分の取り過ぎには要注意!
キュー=休息 休息を十分に取る。疲れをためないようにする。
初期対応の“レスキュー”
熱中症の初期対応は、意識を確認して“レスキュー”。
意識がしっかりしていなければ、すぐに救急車を呼びましょう。
意識がしっかりしている時は
レ=冷却 涼しい木陰で休ませる、室内なら窓を開ける。クーラーや扇風機をつける。服をゆるめ、ぬれタオルを体にかけてあおぐ。首の周りやわきの下、足の付け根を保冷材や氷で冷やす。
ス=水分補給 スポーツドリンクや塩分を含んだ飲み物を飲ませる。
キュー=休息 横にして楽な姿勢で休ませる。水分が摂れない場合や、意識がしっかりしていても改善が乏しい場合は、無理せず医療機関を受診しましょう。
いつでも元気 2018.7 No.321