特集 守りたい9条
点字署名で改憲NO
文・写真 奥平亜希子(編集部)
全国の視覚障害者が、点字版の3000万署名を集めています。
「全日本視覚障害者協議会」の田中章治代表理事に、署名にかける思いを聞きました。
全日本視覚障害者協議会(全視協)の目標は、5月までに3000筆。国政選挙での点字投票数は約9000票なので、その3分の1を目標に掲げました。
戦争は障害者を生む
署名に取り組む理由について、田中さんは「ひとたび戦争が起きれば障害者は差別され、戦争の結果として多くの障害者がつくられる」と訴えます。
「戦前の障害者は惨めなものでした。戦争の役に立たないため、社会の片隅で小さくなっていた。障害者は平和でなければ生きていけない。だからこそ9条改憲に反対し、憲法が掲げる平和と人権、民主主義が生きる政治を求め、署名に取り組んでいます」。
生まれつき弱視だった田中さんは、20代のころに病気で全盲になりました。目が見えなくなって42年、盲導犬のニコラス号が生活を支えています。
「日本に最初の盲導犬が導入されたのが1939年。失明した軍人の社会復帰のために、ドイツで訓練された4頭が輸入されました。今も盲導犬は足りていませんが、戦争が起きれば軍人が優先され、ますます不便な生活を強いられる」と指摘します。
20年続く駅前宣伝
人と出会う機会が少なく、出会ったとしても署名をお願いするのが難しい視覚障害者が、3000筆を集めることは容易ではありません。
全視協は月刊機関誌『点字民報』を発行。点字版、音声版のほか、弱視の人でも読みやすいように大きい文字で書いた“墨字”版と合わせて約1000部を郵送しています。
このうち点字版の読者約400人に、3000万署名の主旨を点字で打った「点字署名」と、返信用封筒を送りました。また、23の都道府県にある視覚障害者協議会からも「点字署名を送ってほしい」と依頼が来ています。3月15日時点で401筆が集まりました。
署名用紙を送るだけでなく、1月4日には「とげぬき地蔵」の縁日でにぎわう東京の巣鴨駅前で約20人が宣伝。道行く人に署名を訴えました。
「1月4日の行動は“仕事始め”の意味も込め、20年近く続けています。いつもは障害者の生活や福祉を守る訴えをしていますが、今年は改憲NOの署名に絞り、1時間で46筆とカンパ7000円が集まりました」。
今、頑張るとき
「3年前の戦争法反対の署名は1600筆集まりました。今回の目標はその倍。でも今、頑張らないといけない。『国民投票になった時に頑張ればいい』では遅いんです」と田中さん。
「保守系にだって、憲法を変えることには反対している人はいます。世論を変えるために、視覚障害者だけでなく広く連携して『改憲許すな』の声をあげていきます」と言います。
たとえ戦争はなくても、視覚障害者の日常には危険がつきもの。駅のホームドアの整備が進められていますが、まだ大都市圏の一部だけ。“欄干のない橋”と呼ばれるホームから年間約70人が転落しています。点字ブロックに障害物が置かれたり、歩きながら携帯電話を操作する人と接触するなどしてケガをする視覚障害者も後を絶ちません。
田中さんは「戦争の準備が進み、ますます軍事費が増えています。軍事にお金を使うのではなく、福祉や安全対策に使ってほしい」と訴えました。
いつでも元気 2018.5 No.319