けんこう教室
大事なのは生活習慣 高血圧
日本の高血圧患者は、推定4300万人。高血圧に由来する疾患(心不全や心筋梗塞などの心血管疾患、脳卒中)で亡くなる方は年間10万人とされており、喫煙による死亡に次いで高い数です。高齢化に伴い、さらに患者数は増加していくことが予想されます。
それにもかかわらず、降圧薬(血圧を下げる薬)を使った内服治療をしている人のうち、治療目標を達成できている人は3~4割。「薬を飲んでいれば大丈夫」とは言い切れないのが現状です。
自覚症状と診断
● 自覚症状
高血圧には自覚症状があまりありません。受診の理由も、「健康診断で指摘された」「他の疾患で受診したときに血圧が高かった」などがほとんどです。
2大巨頭、喫煙と高血圧
健康診断で「異常」となった項目やいくつかの生活習慣と、それに由来する疾患による死亡数をまとめた研究があります。
喫煙と高血圧が群を抜いていますね。それだけさまざまな病気の原因となっているということです。健康診断などで指摘を受けた際は、早めに病院に相談してください。
※青魚に含まれるDHAやEPA、植物油のリノレン酸など
● 診断
基本的に特別な検査はせず、血圧測定によって診断します(表1)。ただし、血圧は測定する状況によって簡単に上下するもの。病院に来ると血圧が上がる「白衣高血圧」もあるため、自宅での測定もお願いしています。逆に、自宅の方が血圧の上がる「仮面高血圧」が見つかることもあります。
ほとんどの場合は「本態性高血圧」と呼ばれる、生活習慣や体質などに由来する高血圧です。しかし、血圧を上げてしまう別の病気が隠れていることもあるため、状況に応じて血液検査を行います。
まずは生活習慣
診察の結果、高血圧の治療が必要となったら何をすればいいのでしょうか。内服治療より、まずは生活習慣に対する指導を行うことが一般的です。進行の程度や合併症の状況によっては、すぐに内服を始めることもありますが、それ以上に大事なのは生活習慣の改善です。
今は高血圧でない人でも、予防のためにぜひ取り組んでいただきたい習慣が多くあります。「5つのカイゼン」をご紹介しましょう。
5つのカイゼン
(1) 減塩
高血圧というと、ほとんどセットになって指摘されるのが減塩です。目標は1日6g未満です。一方、地域差はあるものの日本人の平均塩分摂取量は1日当たり10g程度。おおよそ3分の2を目処に、塩分摂取量を減らしましょう。
1日1gの減塩によって、血圧は1mm Hg下がると言われています。「減塩の効果はその程度か」と思われる方もいるかもしれません。しかし、降圧薬の中には適切な減塩をすることで、初めて本来の効果を発揮するものがあります。
「薬を飲んでいるけど血圧が下がらない」という方は、塩分の取り過ぎかもしれません。
塩分から見る食文化
厚生労働省は2012年に、地域ごとの塩分摂取量を調査しました。
東日本を中心に塩分量が多い傾向にあるようです。一方で南九州も塩分量は多く、甘辛い味付けが好まれていることが反映されています。地域ごとの食生活や文化が現れていますね。
表示内容にご用心
現在、食品成分表示に塩分量を記載しているものが、かなり増えています。参考にしていただきたい数値ですが、たまに塩分量ではなく、ナトリウム量を表記している場合があります。
そんな時は、
ナトリウム量(mg)×2.5÷1000
=食塩含有量(g)
と計算すると大体の塩分量が分かります。
(2) 適切な体重管理
肥満は、それだけで高血圧の重要な発症要因。適切な体重を維持することが、高血圧予防につながります。自分の体重が適正か否かは、BMI25※未満が1つの目安です。
複数の研究の結果、約4kgの減量で収縮期血圧(最高血圧)が約4mm Hg、拡張期血圧(最低血圧)が約3mm Hg下がることが分かっています。また、内臓脂肪の多さも高血圧になりやすい要因です。体重と一緒に少しずつ減らしましょう。
※体格指数。計算方法は、体重(kg)÷(身長(m)の2乗)
(3) 運動
食事療法と同じくらい大事なのが運動療法。特に有酸素運動(ウォーキングやランニング、自転車、水泳など)が効果的です。1日30分の運動が推奨されていますが、10分から少しずつ始める方法もあります。
ストレッチや筋力トレーニングを組み合わせると、さらに効果が高まります。自宅でもできる運動をいくつか紹介しましょう。
(1)カーフレイズ(かかとの上げ下ろし)
4秒かけてかかとを上げ、4秒かけて下ろします。かかとが床に着く直前に、もう一度上げるのがポイント。これを1セット8回、合計2セット行います。
(2)スクワット(膝の曲げ伸ばし)
4秒かけて腰を落とし、4秒かけて腰を上げてください。この時、膝がつま先よりも前に出る姿勢になると、膝を痛めることもあるので注意してください。こちらも1セット8回、合計2セット行います。
【ポイント】
・ゆっくりと呼吸する。
・決して息を止めない。
・ふらつく場合は、テーブルやイスに手をついて行う。
(4) 節酒
付き合い程度の飲酒であればいいのですが、毎日の飲酒習慣は血圧上昇の原因になります。「適切な量に控える」「週1~2日の休肝日を設ける」といった節制が必要です。
適切な飲酒量とは、エタノール換算で1日当たり男性20~30 ml、女性10~20 ml(表2)。過度の飲酒は高血圧だけでなく、脳卒中やがんの原因にもなります。お酒とは適度な付き合いを心掛けましょう。
(5) 禁煙
タバコを1本吸うと、15分間以上の血圧上昇を引き起こします。タバコはそれだけで動脈硬化を進める原因になります。血圧の上昇でさらに動脈硬化が進行し、脳卒中や心筋梗塞の原因となってしまいます。
気管支や肺、各種がんへの影響など、タバコの害は数多くあります。喫煙されている方には積極的な禁煙を勧めます。
内服治療
以上のような生活習慣の指導を行い、1~3カ月ほどたっても改善しない場合には降圧薬を処方します。
しかし、内服治療が必要な患者さんに薬を勧めても、あまり乗り気でない方も少なくありません。理由を伺ってみると、「別に症状もないのに」「薬を飲み始めたら、ずっと続けないといけないんでしょう?」というお話を聞きます。
確かに降圧薬の内服を始めた方のほとんどは、そのまま内服治療を続けています。とはいえ、生活習慣の改善にしっかり取り組むことで降圧薬を減らす、あるいは中止にできる方がいらっしゃるのも確かです。
血圧は一朝一夕で下がるものではありませんが、主治医と一緒に少しずつ取り組んでいただけるといいな、と思っています。
いつでも元気 2018.5 No.319