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いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ・岐阜県養老町 
老いを養う若返りの里

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

新緑に映える5月頃の養老の滝(養老町提供)

新緑に映える5月頃の養老の滝(養老町提供)

 岐阜県の西部に位置する養老町。
 奈良時代に「養老の美泉」を訪れた元正天皇がその清らかな水に感動し、元号を「霊亀」から「養老」に改めたことが町名の由来です。
 悠久の自然と歴史を今に受け継ぐ町の人たちを訪ねました。

菊水泉の親孝行伝説

 “日本の滝百選”のひとつ「養老の滝」は、私鉄の養老鉄道養老駅から徒歩約50分、養老公園の奥にありました。高さ約30m。細く可憐な水しぶきは、修験の滝というよりも女性美を想わせる優しい印象。新緑の頃はどれほど美しいだろうと、想像を掻き立てられます。
 滝から5分ほど下りたところには養老神社があり、境内に「菊水泉」という湧き水が。口に含んでみると、やや甘いような香ばしいような…。水質は弱アルカリ性の軟水ですが、カルシウムイオンを通常の2倍も含んでいるということでミネラル豊富。日本の名水百選にも選ばれています。
 養老の美泉には伝説があります。昔、貧しい木こりが「年老いた父親に酒を飲ませてやりたい」と考えながら山に登っていたところ、酒の匂いがする泉に遭遇。ひょうたんに汲んで持ち帰り、父親に飲ませるとすっかり若返ったという親孝行の物語です。
 ちなみに、居酒屋チェーンの「養老乃瀧」はこの物語から名付けられたそう。
 昨年から、この泉が改めて注目を集めています。岐阜県立大垣養老高校の生徒たちが、研究活動の中で養老の滝周辺の土から酵母菌4種を発見。そのうち1種は酒やパンづくりにも使用できるほか、保湿効果も期待できることが分かったのです。
 奈良時代から1300年の時を経て現代に蘇る若返りの水。一度は試してみる価値があるかもしれません。

日本一破天荒なテーマパーク

 自然を満喫した後は、養老公園内にある人気スポット「養老天命反転地」へ。世界的に有名なアーティスト荒川修作さんと、パートナーで詩人のマドリン・ギンズさんが30年かけて実現した巨大な屋外アート広場です。各作品だけでなく、敷地全体に“常識をひっくり返す”仕掛けが。
 たとえば「極限で似るものの家」に入ると、迷路のように張り巡らされた細い路地にソファやテーブル、キッチンなどが点在。天井を見上げると、まるで鏡のように反転された路地と家具が。足元は平坦ではなく人工的な傾斜になっており、次第に異次元空間をさまよっているような気分にさせられます。
 この“感覚の不安定さ”を体験してもらうことが、「日本一破天荒なテーマパーク」とも称される養老天命反転地の意図するところ。「バランス感覚がいったん崩れることで、本来人間に備わっている身体能力を再認識することができます。日常に潜む非日常性を全身で感じてほしい」と養老公園事務所の荒木正広さん。
 作品の色や構造が写真映えすると話題になり、近年は20代の観光客が増えているとか。皆さんもピクニックや花見と合わせて、ちょっぴり刺激的な春を満喫してみてはいかがでしょうか。

養老天命反転地の異次元空間では、童心に返って遊ぶ人も多いとか(養老公園提供)

養老天命反転地の異次元空間では、
童心に返って遊ぶ人も多いとか(養老公園提供)

ひょうたんで福まねき

 町のシンボルは「ひょうたん」です。美泉の伝説に登場することもあり、町のあちこちにひょうたんが。全国のひょうたん愛好家にとって聖地といっても過言ではありません。
 養老天命反転地から徒歩10分。ひょうたんの栽培から加工まで行っている「安田ひょうたん店」を訪ねました。店内には大小さまざまなひょうたんが、ところ狭しと並べられています。中には高さ1m幅50cmほどもある大きなものや、棒状で3m以上ある細長いもの、表面を加工して中にランプを入れたものなど、なんて種類の豊富なこと!
 2代目店主の安田正さんにひょうたんの美学を尋ねると「ひょうたんの形は、上から順に直径が5対3対7が最もバランスよく、美しいとされています。ひょうたんは栽培時の天候や受粉の仕方で形が変わるので、同じものは二つと無いですよ」。
 古来から福をまねく縁起物として大切にされてきたひょうたん。どんな形であれ、丁寧に作られた逸品は眺めているだけで私たちの心を和ませてくれます。

ひょうたんに丁寧に紐飾りをつける安田さん

ひょうたんに丁寧に紐飾りをつける安田さん

幻のサイダーが復刻

 養老町の地域づくりには、前述の県立大垣養老高校が大きな役割を果たしています。商業高校と農業高校が2005年に統合した同校。特に農業系の生産科学科では、少人数のチームに分かれてさまざまな課題に取り組んでいます。
 昨年大活躍だったのは「養老サイダー復刻プロジェクト」に取り組んだ“湧く湧く班”の3人。養老サイダーとは、菊水泉の水を使用して明治時代から100年間製造された炭酸飲料水。日本最古のサイダーともいわれ、かつては「西の養老、東の三ツ矢」と称されるほど西日本一帯で親しまれていたとか。
 2000年に製造中止になりましたが、昨年、養老町観光協会の有志を中心に復刻プロジェクトが立ち上がり、100年前のレシピをもとに大垣養老高校の生徒が試作づくりに挑みました。
 「レシピによると、砂糖水を85℃に保って2時間かき混ぜなければいけなくて、夏の暑い時期に大変でした」と大垣養老高校3年の井口裕喜さん。上嶋みなみさんは「町の人たちの意見を聞きながら、飲んだことのないサイダーの味を再現するのが難しかったです」。
 強めの炭酸でシュワーッと抜ける養老サイダーは、味も昔なつかしいラムネ風味。養老公園での限定販売ですので、ぜひ現地に足をお運びください。

元祖養老サイダー(左端)と、復刻した養老サイダー

元祖養老サイダー(左端)と、復刻した養老サイダー

大正ロマンときびようかん

 最後にオススメするのは、大正時代の味が受け継がれている「きびようかん」。養老駅の目の前にある土産物店「きび羊羹本家」で、毎朝手作りされている名物菓子です。きび、白ざらめ、寒天、餅粉を加えただけの素朴な逸品で、きびのプチプチ感が懐かしいような、新しいような、くせになるおいしさ。
 店の女将さんに話を聞くと、「この辺りは水田に適さない地質なので、昔はきび畑が多かったそうです。大正時代に駅ができ、人力車が何台も並ぶほど観光客で賑わうようになりました」。養老駅の駅舎は、瓦屋根でありながら洋風な建築デザインで大正ロマンを静かにたずさえた紳士的な佇まい。電車を待ちながらぼんやり空を眺めれば、古き良き時代にタイムスリップした気分に浸れそう。
 春には駅舎の前や養老公園一帯に桜が咲き誇り、清らかな雪解け水で町全体が潤います。

大正時代の建築が見事な養老駅。ホームにはひょうたんが飾られている

大正時代の建築が見事な養老駅。
ホームにはひょうたんが飾られている

もっちりと食べ応えのある「きびようかん」

もっちりと食べ応えのある「きびようかん」

■次回は栃木県茂木町です。


 まちのデータ
人口
2万9451人(2018年2月現在)
おすすめの名産品
ひょうたん、食肉、ケリ米(減農薬米)など
アクセス
養老鉄道養老駅または美濃高田駅で下車
養老ICから車で約7分、大垣ICから約20分
問い合わせ先
養老町観光協会(養老町役場内)
0584-32-1108
養老公園事務所
0584-32-0501

いつでも元気 2018.4 No.318