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いつでも元気

いつでも元気

けんこう教室 
春はアイツとともに 花粉症

富山協立病院
医師
寺西秀豊

 春先になるときまって出てくるアイツ。くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ…。そんな症状に悩まされる人が増えています。原因は花粉症です。
 春になるとスギ花粉が飛散し、花粉症を引き起こします。今では誰でも知っている病気ですが、昔は花粉症という病気は無かったと考えられています。
 日本人が花粉症にかかるようになったのは、1960年代から。現在、地域によっては人口の40%以上が発症しており、国民病とも言われています。その上、いまだに患者はどんどん増えています(表1)。
 花粉症とは何だろう? なぜ、こんなに患者が増えてきたのか? 治療法や予防対策はあるのか? ご一緒に考えてみましょう。

花粉症の症状

 花粉症は特定の季節に発症します。主な症状はくしゃみや鼻水、鼻づまりですが、目のかゆみなど目の症状を伴うことが特徴です。これは大気中に飛散している花粉が、目にも飛び込んでくるためと考えられています。
 この他に目の周りや顔のかゆみ、咳、のどの痛み、軽い発熱を伴うこともあります。花粉症が悪化すると、喘息のような発作を起こすこともあります。
 まれに、大量の花粉を吸い込んだり飲み込んだりすると、危険なアナフィラキシーショックを起こす場合もあります。
 疑わしい症状が起きたら、医療機関を受診してください。アレルギー科を標榜している医療機関がおすすめですが、内科や耳鼻科、小児科でも構いません。
 花粉症の本質は、花粉の持つ花粉抗原(アレルゲン)に対するアレルギー反応です。花粉抗原に長年さらされていると、体内で花粉抗原に対するIgE抗体が作られます。その後再び花粉を吸引すると、IgE抗体が花粉抗原に過剰に反応して発症します。

検査は3種類

 花粉症の主な検査は次の3つです。
(1)血液検査(RAST法)…血中のIgE抗体の量を調べる
(2)皮膚試験…皮膚に花粉エキスを触れさせ、反応を見る
(3)誘発試験…鼻の粘膜に花粉エキスを染み込ませた紙を付け、反応を見る
 一般的には血液検査が主ですが、何種類の抗原を検査するかで費用が大きく異なります。また、症状が出ていない場合の検査は保険適用にはなりません。
 これらの検査で、花粉アレルギーの有無が分かります。さらに、症状が出ている時期がアレルギーのある花粉の飛散時期と一致していれば、花粉症と診断されます。

地域差があるんです

 花粉症の王様、スギ花粉症の有病率は地域差が大きいことはご存じですか?
 北海道や沖縄では、ほとんどスギ花粉症は発症していません。なぜでしょうか?
 答えは簡単。北海道や沖縄にはスギがほとんど生えてないからです。

個人でできる対策

 スギ花粉については全国各地の「花粉情報」が新聞やテレビ、インターネットで確認できます。花粉情報を参考にして予防につとめ、花粉が飛散する前に、治療することが大切です。
(1)外出を控える
 春先の花粉飛散期、晴れて風の強い日には、花粉が多く飛散します。不要な外出は控えましょう。

(2)外出時はマスクやゴーグルを
 外出する際は、花粉にさらされない対策が必要です。多様な花粉症対策グッズが出回っていますが、普通のガーゼマスクでも、少し湿らせたガーゼをはさんで入れておくと花粉除去効果が上がります。目から入る花粉を防ぐには、眼鏡や花粉症用ゴーグルを使います。

(3)帰宅したら花粉を落とす
 外から帰ってきたら衣服に付着した花粉を除去します。屋外で衣服を払って、花粉を室内に入れないようにします。手洗い、洗顔、シャワーなども良いでしょう。

(4)日頃の備え
 生活習慣として、禁煙と飲酒はほどほどにすることが予防につながります。タバコの煙の微粒子は、大気汚染物質PM2・5(下図参照)とともに鼻症状を悪化させます。
 また、子どもや若いうちから自律神経を鍛え、花粉症の症状に負けない体力を作っておくことが重症化の防止に役立ちます。食事は魚を中心とした日本食がお勧め。ヨーグルトなどの発酵食品も良いでしょう。適度な運動も大切です。

PM2.5ってなに?

 直径2.5μm以下の非常に小さな粒子のこと。1μm(マイクロメートル)は1mmの1000分の1の長さです(図1)。
 成分は主に炭素ですが、表面にさまざまな有害化学物質が付着しています。有害物質の主な発生源は、自動車や工場の排気です。
 花粉や黄砂は大きすぎるので、喉より奥には入り込めません。しかし、PM2.5は粒子が小さいので、肺の奥深くに入り、呼吸器系や循環器系の病気を悪化させます(図2)。

2つの治療法

 花粉症の主な治療法は、次の2つです。
【薬物療法】
 発症する前や発症早期での対症療法が基本になります。主には抗ヒスタミン剤の内服ですが、点眼薬や鼻噴霧剤も使われます。症状の程度によって、ステロイド剤を含む多くの薬が使われています。
 抗ヒスタミン剤は眠気を起こす副作用があります。そのため、子どもの学習能力の低下を招くことがあるほか、車の運転にも注意が必要です。
【舌下免疫療法】
 最近注目されている治療法で、花粉抗原を舌下から取り入れ、免疫学的に原因となるIgE抗体を制御するものです。以前から、花粉抗原を注射する治療法がありましたが、あまり普及しませんでした。
 舌下免疫療法は舌の下に花粉抗原液を垂らし吸収させる治療法なので、注射のような痛みはありません。治療に数年かかるという難点はありますが、副作用が少ない根本的治療法として期待されています。

無花粉スギ

 身近な環境を改善して、花粉症を少なくしようという試みがあります。スギ花粉そのものを減らそうと、花粉の少ないスギの苗を人工林に植えていこうというものです。
 最近の話題に「無花粉スギ」があります。富山県で発見された全く花粉を飛ばさないスギで、学術的には「雄性不稔」と呼ばれています。花粉は飛ばないのですが、雌花は正常なので、栽培したり品種改良に使うことができます。
 全国各地に特色あるスギ品種が存在しますが、「無花粉スギ」との交雑でその土地に適した無花粉スギ品種を作ることができます。スギ林を破壊せず、花粉源を少なくすることができるわけです。
 富山県内ではすでに無花粉スギの普及が始まっており、身近な屋敷林などの植え替えに使用されています。スギの人工林は広大なので、植え替えるためには大変な時間がかかりますが、今後の成果が期待されます。

原因はスギだけじゃない

 花粉症の原因となる植物種はスギばかりではありません。全体の約7割はスギ花粉症ですが、ヒノキ科、イネ科、キク科などの一部の花粉は花粉症の原因になることが分かっています。
 身近な自然に目を向け、季節の変化、自然の不思議、自然保護のあり方などについて考えてみることも大切ですね。

花粉症が増えたわけ

 スギ花粉の発生源はスギ林。スギ林の多くは人々が植えて育ててきた人工林です。しかし現在、林業の不振に伴い多くの人工林が伐採されず放置されています。枝打ちなどの森林管理も手薄になっています。
 こうして30年以上たったスギ林が増加し、多くの花粉が作られ、上昇気流に乗って数十~数百キロ以上遠くまで運ばれています。

いつでも元気 2018.3 No.317