守りたい9条
市民が手を結び新しい道に挑戦を
聞き手・新井健治(編集部) 写真・編集部
昨年10月の総選挙は与党が圧勝しましたが、新潟ではなんと野党共闘の候補を中心に、6選挙区のうち4つで自民を破りました。
「保守的と言われる新潟で、なぜ?」―。
野党共闘をリードした「市民連合@新潟」共同代表の佐々木寛さん(新潟国際情報大学教授)に聞きました。
―なぜ、新潟では野党共闘が勝ったのでしょうか?
2016年7月の参院選と、10月の県知事選の経験が大きかった。参院選は森裕子さん、知事選では米山隆一さんと、野党共闘の候補がいずれも自民系の候補を破りました。
総選挙で勝てたのも野党が一本化したから。全国を見ると、希望の党の出現で野党が分裂した選挙区はことごとく負けています。新潟でも一時、希望の党で出馬するかどうか迷う候補もいた。でも参院選と知事選の経験から全員が無所属か立憲民主党で出馬し、誰も希望の党には行きませんでした。
―新潟の野党共闘が盤石な理由を教えてください。
私は長年、憲法9条や自然エネルギーに関わる市民活動に携わってきました。参院選や知事選でも複数の市民団体が連携し、選挙に関与したことが大きな成果につながった。新潟にもともとあった野党の連携に共産党が加わった背景にも、市民団体の存在があったと思います。
市民が間に入ることでギクシャクしていた政党同士が一つの大義のもとにまとまり、党の利害を乗り越え、ともに新潟の未来を考える姿勢が生まれました。市民が政党間調整や候補者選定の核心部分まで関わったのは、全国でも珍しい例だと思います。
―保守王国の新潟で、地殻変動が起きたことが不思議です。
田中角栄元首相の印象が強い新潟ですが、戦前は農民運動の拠点の一つで、戦後も日本初の住民投票で原発を拒否した巻町(現新潟市)など自治の伝統は脈々と息づいている。
保守とはリアリズムのことでもあるのです。角栄さんは地元に利益をもたらしたから支持したが、安倍さんは何ももたらさない。“美しい日本”とキャッチフレーズを叫ぶだけの首相に、新潟の保守主義はだまされません。
―選挙戦の最中には、しばしば「郷土愛」も話題になったそうですね。
自治とはすなわち郷土を愛するということ。ここでずっと生きていき、ここで子育てをする。子や孫のために未来の新潟をどうするのか、そこには右や左のイデオロギーは関係ありません。
―政治を変えるために、選挙の“技術”を強調しています。
リベラルな政党や市民運動は、ともすれば「主張する中身が正しければ選挙でも勝てるはず」という思考に陥りがちです。それでは勝敗の原因を科学的に捉えることはできない。
政治を変えるには、当たり前ですが選挙で勝たなければいけない。選挙で勝つ技術を市民の側も学び、蓄積していかなければいけません。
―「選挙には関わりたくない」「政治はうさんくさい」という人は大勢います。
「関わりたくない」と思っても、政治は否応なく私たちの生活を左右します。評論家風に政治を語り、泥にまみれることを避けていては、結局一部の政治家の好き勝手にされます。
選挙もまた、市民の深い教養や文化の一部にしていくための努力が必要です。これまで遠い存在だった選挙を“民主化する”のです。
―今後、新潟のような経験を全国に広げていくには何が必要でしょうか?
安倍首相がよく使う「この道しかない」ではなく、「もう一つの道」を野党側がきちんと示すこと。いわば日本の未来像を描くことです。
「なぜ、若者の自民党支持率は高いのか」と聞かれますが、生まれた時から右肩下がりの社会で生きてきた今の若者は、違う未来があることを軽々しく信じられない。真実は見えにくく、夢や希望が容易ではないことを知っているからこそ、逆にそれを渇望しているとも言えます。新しい社会像を示すことができれば、彼らが政治的希望に目覚める可能性もあります。
―憲法9条を生かす道も新しい未来といえるのではないでしょうか。
9条は武力による解決を否定した絶対的平和主義です。施行から70年以上経って、ようやく時代が追いつきつつあります。9条を実現することで、本当に誇りを持った日本をつくろうと若者に呼びかけてみてはどうでしょうか。
世界の歴史を見れば、軍事力では結局何も解決できていない。力ではなく対話や外交で問題を解決する、新しい道に挑戦することは価値があります。9条の理念に沿った安全保障政策を本気で考える、その機は熟していると思います。
『市民政治の育てかた』
佐々木寛 著
大月書店 1600円+税
新潟で実現した市民と野党による選挙に勝つ技術
佐々木寛(ささき・ひろし)
1966年、香川県生まれ。新潟国際情報大学国際学部教授(政治学・平和学)。日本平和学会理事。「市民連合@新潟」、「新潟に新しいリーダーを誕生させる会」共同代表として、2016年の参院選と知事選の「新潟の奇跡」に貢献。自然エネルギー発電事業「おらって にいがた市民エネルギー協議会」代表理事
いつでも元気 2018.2 No.316