沖縄県名護市稲嶺進市長に聞く~われわれは、あきらめない~
沖縄の名護市辺野古では、国と沖縄防衛局が法的な手続きを無視したまま新基地建設の工事を強行しています。
名護市の稲嶺進市長は就任以来、「新基地建設反対」を掲げて奮闘しています。
「絶対に辺野古に基地は造らせない」との思い、新基地建設をめぐる現状など、お聞きしました。
聞き手 岸本啓介(全日本民医連事務局長)
名嘉共道(沖縄民医連事務局長)
写真・編集部
― 市長は2010年2月に就任されてから、「新基地建設反対」の最前線でご奮闘されています。どのような思いが活動の源にあるのでしょうか。
稲嶺 市長選に立候補が決まった時、辺野古の浜に行き、おじぃおばぁが毎日座り込む姿を目の当たりにしました。
そこで聞いたのは「戦時中何も食べるものがないときに、この豊かな海の恵みが腹を満たしてくれた。これまで生きてこられたのはこの海のおかげ。その海に、命を奪う基地を造らせるわけにはいかない。子や孫、次の世代に、基地を絶対に残したくない」という強い思いでした。その時「この活動はイデオロギーの問題ではない。生活そのものの問題だ」と感じたのです。
沖縄は戦後ずっと、基地の負担や米兵による事件・事故の負担を背負ってきた。「おじぃおばぁの行動は、人として、親としてあるべき姿だ」と感じた時から、私の活動が始まりました。
― 民医連は2004年10月に、「辺野古の海に一本の杭も打たせない」と支援連帯行動を開始しました。全国から多くの職員が参加し、また昨年9月からは医療班を送り出す活動を通じて「これは沖縄だけの問題ではない。自分たちの問題だ」と心を寄せる職員が増えています。改めて、今の工事を巡る問題点をお聞かせください。
稲嶺 マスコミは工事が始まったことだけ報道していますが、工事は法的な手続きを無視した強行で、法治国家としてあるまじき行為。絶対に許されないことです。
政府はこれまで「辺野古新基地は普天間基地の代替施設として必要だ」と言い続けてきました。しかし、辺野古の新基地には強襲揚陸艦の軍港機能や滑走路を2本造るなど、普天間基地にはない新しい機能を付加した「最強の要塞」と言えるもの。普天間の代替ではなく、全く新しい基地を造る計画です。
政府は中国や北朝鮮を名指しして「抑止力」「地理的優位性」を根拠にしますが、「辺野古でなくてもいい」と発言した元防衛大臣もいる。つまり根拠は破綻しています。
昨年の4月に始まったK9護岸工事は、100メートル進んだところでストップしたまま。なぜなら、沖縄防衛局が前知事に提出した埋め立て承認願書には、「工事中はサンゴなどを守る環境保全策を講ずる」とあるので、これ以上先へ進めて海底のサンゴを傷つけることはできない。それこそ違法な状態での工事になるわけです。ですから、今はまだ基地建設を止めることができる状況です。
国や沖縄防衛局は「止めようとしても無理ですよ。あきらめてください」と言いたいのでしょうが、私たちはあきらめません。怪物のような権力に対して、われわれは非暴力で抗議を継続し「まだ止める手立てを持っている」――このことを日本社会や国際社会に訴えていきたいと思っています。
― 今おっしゃった内容は、ほとんど本土では報道されていません。沖縄県民の「基地建設を止めるまであきらめない」という強い意志に、民医連も連帯したいと思います。
また、私たちは医療・介護・福祉を実践する団体として、市民が安心して生活できる施策を市長が実現しておられることも、とてもうれしく思っています。
稲嶺 就任前は「稲嶺が市長になったら土建業が倒産する」「米軍再編交付金を受け取らないと市の予算は組めない」などと攻撃されましたが、7年間で総額約500億円の歳入を増やしました。
安全で安心して住める市にするためには、子どもが生活できる環境づくりが大事です。私は前市長が交付金をもらっても実現しなかった子育て支援に着手し、保育園の待機児童解消にも取り組みました。中学生まで医療費無料は県内11市で名護市だけです。
また、オスプレイが飛び交うところでは、とても安心して暮らせません。沖縄を支える観光業も、新基地ができると大打撃を受けるでしょう。2001年にアメリカで同時多発テロが起こった時、修学旅行が一斉にキャンセルされた。基地があるということは、そういう影響を与える。基地は、沖縄の経済にとっても最大の阻害要因です。
― 辺野古に基地を造る必要はない。基地の存在が何の発展ももたらさないことを、ひしひしと感じます。
稲嶺 今は、本土の国民に真実が届かない状況です。現場に来ていただけると、辺野古でなぜこんなことが起きているのかが見えてくると思いますし、私たちも大変勇気づけられ、さらに頑張る力になります。
― これからも引き続き、連帯して頑張ります。今日はありがとうございました。
いつでも元気 2018.1 No.315