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いつでも元気

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けんこう教室 
痩せすぎ注意! 骨粗しょう症

山口・宇部協立病院
整形外科医/院長
上野 尚

 日本は超高齢社会といわれ、骨粗しょう症患者数は1300万人と推定されています。「骨粗しょう症は老化現象」と思われている方もいますが、そうではありません。
 老化も原因にはなりますが、予防・治療できる生活習慣病の1つです。正しい知識と行動をすることで、老後を豊かなものにしましょう。

骨粗しょう症とは?

 骨も新陳代謝をしていることはご存じですか? 私たちの骨は、日々古い骨を壊して(骨吸収)、新しい骨を作っています(骨形成)。健康な骨ではこの2つの働きがつり合っています。
 骨粗しょう症とは、骨形成が骨吸収より弱くなることで骨密度が低下し、骨がもろくなる病気です。発症すると、転んで手をついたり、くしゃみをするだけで骨折することがあります。

骨折で死亡率が3倍

 骨粗しょう症関連の骨折は、その後の生命にも影響を及ぼします。最も問題になるのが、足の付け根が折れる大腿骨近位部骨折です。
 多くの論文を解析した結果、大腿骨近位部骨折1年後の死亡率は男性で3・7倍、女性で2・9倍も高くなることが分かっています。大腿骨以外の骨折でも死亡率が男女とも1・7倍になります。


痩せすぎ注意

 体重が重い人ほど、重さを支えるため骨が丈夫になります。また統計により、黒人より白人が骨粗しょう症になりやすいことも分かっています。
 つまり、色白で痩せて髪が長い美人が骨粗しょう症になりやすいのです!(冗談です)
 巷では細身の体型に憧れる人が多いようですが、骨のためにもほどほどに。


診断

 骨粗しょう症の診断は問診や診察に加えて、骨密度測定とX線写真(レントゲン)で調べます。血液検査(骨代謝マーカー)も多種類あり、治療の前後で測定されます。
 また胸椎や腰椎の圧迫骨折があった場合の診断には、MRIが有用です。もっと詳しく知りたい方はインターネットで「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015版」をご覧ください。

予防は食事と運動

 骨粗しょう症の予防において第一に重要なことは、成長期に十分な栄養摂取と運動をして骨を強くすることです。女性が陥りがちな「食べないダイエット」は危険です。
 また女性は閉経後に急速に骨量が減少します。骨量が減った人を検査で発見し、骨量減少を食い止めることも大事です。老化に伴い骨量が著しく低下している高齢者は、骨量の維持とともに転倒の防止が重要です。
(1) 食事
 骨量を増やすには、カルシウム摂取が重要です。特に日本人の食習慣ではカルシウムが不足しがちです。カルシウムというと「小魚を食べればいい」と考える方もいますが、骨はたとえ小魚の骨でも、胃酸で溶けにくく腸での吸収率が悪いのです。牛乳やチーズ、ヨーグルトといった乳製品がお勧めで、これを毎日食べる習慣を付けましょう。
 また、骨形成にはカルシウム以外にビタミンや多くの栄養素が必要です。サプリメントに頼らずに、いろいろな食材をバランスよく食べるようにしてください。
(2) 運動
 運動によって骨密度が上昇します。特に下肢の運動が有効です。さらに、運動は転倒防止の効果もあります。家での自主的な運動で22%、太極拳で29%、運動指導で66%も転倒率が改善すると報告されています。
 理学療法士などによる筋力訓練・バランス訓練を中心とした運動指導は、高齢者(特に転倒したことがある方)において転倒予防に有効とされています。

骨全体に含まれるミネラル(主にカルシウム)の量


宇宙では…

 宇宙飛行で無重力状態を一度は体験してみたいものですが、初めて無重力を体験した宇宙飛行士は地球に戻った時に、筋肉と骨が弱って自分の足では立てなかったそうです。
 宇宙ステーションでの筋力トレーニングは、今では宇宙飛行士の必須の課題となっています。


 治療の目的は骨折予防

 骨格は骨とそれを連結する関節から成っており、骨格の健康は人間が人間らしく生きるために必須の要素です。骨粗しょう症治療の目的は、骨折を予防し骨格の健康を維持することを通じて、健康寿命を延ばすことにあります。
【薬物療法】
 予防効果が認められている薬は、(1)女性ホルモン補充療法、(2)副甲状腺ホルモンの注射、(3)骨吸収抑制剤の3つです。
(1) 女性ホルモン補充療法
 閉経後の女性に有効です。しかし、副作用があって使いにくいため、女性ホルモンの代わりに選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)がよく使われています。
(2) 副甲状腺ホルモンの注射
 骨を作る効果があるので極めて有効です。しかし非常に高価で、毎日注射しなければならない点でも対象が限られます。
(3) 骨吸収抑制剤
 3つの中で最もよく使われている薬剤です。週1回や月1回の内服薬、さらに月1回と6カ月に1回の注射製剤など、多くの種類が出ています。
【治療が必要な人】
 治療対象は医師により見解が異なりますが、骨粗しょう症に関連する骨折をした人は間違いなく治療対象です。
 「最初の骨折を最後の骨折」とすべく、強力な介入(治療の開始)が整形外科医に求められています。
 しかし、大規模病院やリハビリ病院では診療報酬が包括払い方式で、かつ骨粗しょう症治療に対する報酬が低く、「普通に治療すると赤字になってしまう」こともあります。
 そのため、骨粗しょう症関連の骨折で入院したにもかかわらず、骨粗しょう症の治療をしないまま退院させてしまう病院が多いのが現状です。
 当院では薬剤師の協力で、退院前に骨粗しょう症治療を開始し、退院後も治療を継続できるように努力しています。

どんな検査や治療を行っても、1日の医療費が定額となる診療報酬の計算方法

歯科治療中は要注意

 骨粗しょう症治療の“王様”である骨吸収抑制剤にも副作用があります。使用中に歯科治療を受けていると、ごくまれに合併症として顎骨壊死が発生することがあります。そのため、骨粗しょう症の治療中に抜歯が必要になったら、歯科医師から「薬を止めてください」と言われることがあります。
 抜歯などの歯科治療前に、骨吸収抑制剤の服用を一旦止める(休薬)か否かについては、さまざまな議論があります。現在は「休薬を必要とする医学的根拠がほとんどなく、休薬によるリスクが高いため、休薬しない」という考えが主流になってきています。しかし、一部の学会では2カ月の休薬を支持しているため、結論は出ていません。
 必要な歯科治療を終了させた後に、骨粗しょう症の治療を始めるのが理想です。患者さんに不利益が生じないように医科と歯科が連携して、骨粗しょう症の治療が進められるようになるといいですね。


 世界の治療状況

 近年の調査によると、ヨーロッパやアメリカ、カナダなどで骨粗しょう症治療の成果により、骨折の発生率がそれまでの増加傾向から減少に転じています。
 近年ではオーストラリアやニュージーランド、シンガポールでも骨折率が減少に転じていますが、日本ではまだ増加傾向です。残念ながら日本では骨粗しょう症治療が成功してないことが証明され、関連学会では問題になっています。

いつでも元気 2017.12 No.314