くすりの話 栄養ドリンク
回答/藤竿伊知郎(外苑企画商事・薬剤師)
監修/高田満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)
高度成長期の企業戦士を支えてきた「栄養ドリンク」は世代交代が進んでいます。
今のような、キャップ付きの瓶で発売を始めた商品は「リポビタンD」。1962年のことです。当時は医薬品でしたが、1999年に主要な製品が「医薬品」から「医薬部外品」へと指定を変え、コンビニでも販売できるようにしました。しかし売上は2001年の1537億円から減少を続け、2016年は927億円です。
旧来の栄養ドリンクに代わってヒットしているのが「エナジードリンク」という清涼飲料水です。日本の栄養ドリンクをもとに海外で改良した製品で、清涼感のある飲み口で若者の人気を集めています。コンビニの飲料売上シェアでは、お茶・水・コーヒーに次ぐ4番手となっています。
●効き目は?
このようなドリンクが欲しくなるのは、仕事に追われ、長時間労働が続く場面でしょう。
ビタミン・タウリンやハーブなどの効果をうたうものもありますが、飲む人が「効いた」と実感するのは、ドリンクに含まれるカフェインと糖分による効果です。カフェインは中枢神経を興奮させ、眠気を取り疲労感を軽減し、集中力を高める効果を持ちます。ドリンク1本に20gほど含まれる糖分もすぐに吸収され、脳の栄養として使われることで疲労を減らします。
●カフェインの危険性
6月13日、日本中毒学会が「カフェイン過剰摂取による健康障害」の調査結果を発表しました。2011年から5年間で101人が救急搬送され、7人が心停止、うち3人が死亡したというものです。
エナジードリンク単独での中毒は4人で、多くの人はカフェインの入った市販の眠気防止薬を併用していました。短い時間に1gを超えるカフェインを飲むと、急性中毒を起こします。
さらに問題となるのは、過労死です。カフェインは交感神経を刺激することで心拍数を増やし血圧を高め、心臓に負担をかけます。また、血糖値を上げる作用もあるため、長く飲み続けることで心血管系の病気のリスクを高めます。疲労感を感じにくくすることで長時間労働につながることから、隠れた過労死を引き起こしている可能性があります。
●エナジードリンクは摂取規制なし
医薬部外品である栄養ドリンクは品目ごとに厚労省が承認し、「1日量として50mgまで」のカフェイン含有量の商品が販売されています。
一方、エナジードリンクは清涼飲料水として販売されており、カフェイン含有量の規制がありません。カフェインの摂取制限を設けている国もありますが日本にはないため、1本あたり80mgを超える商品も販売されています。
若者のカフェイン依存も心配です。中学・高校生に、受験勉強の為の眠気防止での飲用が広がっています。「頑張らなければならないときにはドリンクを飲む」という習慣は、ドラッグ依存の入り口にもなりかねません。
どこででも買える手軽さも相まって、「疲れた時に手放せない」という方が増えている栄養ドリンク。疲労を感じても休まず働き続けなければならない状況を改善し、ドリンクを飲まなくてよい社会環境を早く実現させたいですね。
いつでも元気 2017.10 No.312