認知症Q&A 運転免許自主返納への誘導
お答え・大場敏明さん(医師)
Q 認知症と診断された父(82)が、大好きな自動車の運転を止めようとしません。先日、交通違反を起こしましたが、それでも「俺はまだ大丈夫だ」と運転しようとします。免許証の自主返納へと誘導するには、どうしたらよいでしょうか。
A 診察の場でも「認知症なのに、自身の運転技術を過信している」と悩む家族の相談がたくさんあります。認知症の方は運転能力の低下や、認知症であること自体も認めたくないので、自主返納の説得はかなりの困難が予想されます。それでも事故を起こさないために、なんとしても運転を止めてもらわなければなりません。認知症と診断されたら、まずは運転をさせないように、そして上手に自主返納へと誘導しましょう。それができるのは、家族だけです。
運転できない手立てを
認知症の方は記憶力や判断力、そして理解力が低下しているために、交通違反や場合によっては事故を起こしてしまいます。認知症の診断を受けると免許証は更新されず、免許はく奪か自主返納を迫られます。
家族はまず、認知症が病気であると認識しましょう。本人を「説得」したり「納得」してもらうことは難しいと理解したうえで、自主返納の誘導を粘り強く進めます。誘導の前提として運転ができないような手立てをとり、運転をあきらめてもらいます。
認知症と診断されたら、医師から「運転禁止」の旨を本人に直接伝えてもらいます。運転禁止の診断書を作成してもらい、それを見せて運転を制止します。
車を本人だけが使っている場合、使えないように工夫します。例えばエンジンがかからないように業者に依頼する、車が故障したことにして車両や鍵を隠す、運転座席側のドアが開かないように車庫の壁際に停めるなどです。最終的には廃車処分にします。
時間をかけ粘り強く
このように車を本人からなるべく遠ざけながら、次に免許の返納へと誘導します。しかし、自ら返納を決意する認知症の方はごく少数です。時間をかけ、温かく優しい言葉と態度で誘導します。
家族の真剣な思いとともに親しみを込めた説得を繰り返すことが重要で、同意しないことへの非難がましい言葉は避けましょう。主治医の診断書も見せながら、運転は危険であることを繰り返し丁寧に説明します。たとえ面倒と感じても、認知症の方には同じ説明が何回も必要です。
「車がなくなったら、生きがいも奪われる」と捉えているケースが多いので、自転車など代わりの移動手段を用意します。また、「歩くことで健康になる」「排気ガスを減らして孫の未来の環境を守ろう」など、前向きな考え方も提示。自主返納をすれば身分証明書の代わりになる「運転経歴証明書」が交付され、バスやタクシーの割引も受けられるなど利点も説明します。自主返納をしないと運転経歴証明書は交付されません。
説得には家族や周囲のねぎらいの言葉かけも大切です。「運転をやめるというのは大変な決断。これまで運転してくれてありがとう」との一言を繰り返すことも有効です。
地域包括支援センターや地元の警察、運転免許試験場にも相談に行きましょう。誘導方法についてアドバイスをくれたり、本人に「運転はしない方がよい」と指導をしてくれることもあります。
いつでも元気 2017.10 No.312