「築地守れ」の声、広げた
文・宮武真希(編集部)/写真・野田雅也
7月2日に投開票が行われた東京都議会議員選挙。国会で暴走を続ける自民党は大惨敗、都議会第1党から過去最低議席へと激減しました。
都議選の大きな争点の1つは「築地市場の豊洲への移転問題」。小池百合子都知事は都議選前に「築地市場を豊洲へ移転する」と発表しましたが、土壌汚染など問題が次々と発覚したことで、「移転反対」の声は大きく広がっています。
豊洲への移転問題について、築地仲卸業者の中澤誠さん(東京中央市場労働組合執行委員長)に聞きました。
■中澤さんは「移転反対」の立場で、これまでどのように運動してきたのでしょうか。
移転反対の声をあげた時、初めは本当に私ひとりだったんですよ。今まで10年くらい運動しているけれど、今でも築地の中で移転反対で動いているのは数人かな。
実は築地では、当初から「反対だ」と考えている人が大半です。でも、今までみんなその思いを声に出せないでいたんですね。
■ ほとんどの人が反対だと思っているのに、なぜ移転が決まったのでしょう。
築地には、卸・仲卸・買い出し人・青果連合・売買参加者・関連事業者の6団体があります。それぞれの労働者は反対でも、自民党が6団体の団体長だけを抱き込んだ協議会をつくって、その協議会で豊洲市場への移転に合意した、という形ですね。
「築地で働いている人は、ほとんど反対しているよ」ということを、社会に見える形にするのが、一番苦労したことです。たとえば、テレビカメラが市場内で労働者にマイクを向けて「どう思いますか」とやってくれれば、はっきり「反対だ」と言えるんだけれど。市場内での撮影は規制されているから、そういうことはできないしね。
豊洲の施設がどういう形なのかが分かってから、建築エコノミストの森山高至さんがテレビでアピールしてくれたおかげで、マスコミが取り上げるようになりました。昨年は、弁護士の宇都宮健児さんもよく取り上げてくれましたね。
■ そのような中、どのように「反対」の声を集めたのでしょうか。
昨年、事業者6人が立ち上がって有志の会ができたことが、1つの契機になりました。「有志の会が労働組合と一緒に反対運動をやる」ということが決まり、まずアンケートを取ってみた。すると仲卸業者の8割以上が「移転延期」もしくは「凍結を求める」という結果で、「これは行けるぞ」と請願署名を集めることにしました。「事業者の過半数を集めて農水省に提出しよう」ということにしたんだけれど、アンケートには答えてくれても、署名はなかなか広がらなくてね。一時は「もう無理かな」っていう雰囲気だったな。
それでも「この署名は過半数超えたら提出するから」「過半数を超えたとき、あなたは多数派に入ってなくていいのかい」と言って説得して集めて、農水省に提出しました。「築地女将さん会」(築地市場で働く女性でつくる会)が発足したことも、大きな力になりましたね。マスコミがこの問題を取り上げることで、市場の中の世論が動き出しました。
でも、移転反対派に対する攻撃もあります。有志の会で中心になってくれた事業者が破産に追い込まれたり、数年前にも移転に反対していた店がつぶされたり、そういうことはこれまで何度もありました。
■ 運動を広げる上で、どんなことを大事にしていますか。
「いかに味方を増やすか」っていうこと。運動は、自分と違う考えを持っている人をどうやって味方にするかだから。考えが違うからといって「あんた間違ってるよ」と敵対しちゃいけない。これはいつも心掛けてます。
それから、役所の中の人ね。どうやって農水省の中に味方を作ろうかって、考えましたよ。役所に電話で問い合わせると、たらい回しになることがあるでしょう。そんな時に「こういう風におかしいと思うんだ」「これって問題だと思うんですよね」と、その都度役所の人に訴えてね。だからたらい回しは大歓迎(笑い)。役所の中に1人でも「そうだな、おかしいな」と思う人をつくることも、大事なことだと思っています。
あとは、よく勉強すること。条文とかよく学んでね。これは運動を広げる上で本当に必要なことだと思います。
■ 移転反対の運動を通して、どんなことを感じていますか。
この頃、多くの人が求めている制度や政策が実現しない、ということばっかりだよね。これは小選挙区制度が導入されてからじゃないかな。築地も、団体長さんたちは昔から自民党と付き合いがあって、それでも中選挙区制度のころは築地で働く我々の意見に耳を傾けてくれたけれど、今は自民党の公認さえもらえれば当選するんだから、意見なんて全然聞いてくれないもんね。
それでも「おかしいな」と思うことには、声をあげていく。相手をよく見て、正確な情報を得て、情勢を判断して動くことで、おかしいことを変えていけるって思っています。
いつでも元気 2017.9 No.311
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